第201話 御両家顔合わせ
あちらのご両親としては、必ずしも結婚を望んでいる訳では無いとの事だった。というのも、ミサキ君は(あちらのご家族は、サクラと呼んでいた)遠い所から来たという『漂流者』なので、もし結婚してしまったら娘と孫は手の届かない遠い世界へ行ってしまうのではないかと心配しているからなのだ。
どちらの世界に
「そもそも、御崎家のご両親には子供が出来ちゃった事はまだ言ってないんだよね?」
「う…… うん」
「どうするこれ? なんて説明すれば良いんだろう? 結婚以前の問題だよね」
「ご両親はこっちに来ると性別が変わる事は知っとるんじゃろう?」
「はい、説明はしたけれど、多分ピンと来ていないというか、信じてないかもしれません」
「うーん…… どうするね?」
ミサキ君を含めた5人は、額を突き合わせて唸ってしまった。皆でウーンウーン言っているものだから、何か大変な事態にでもなっているのかとシーラのご両親も心配顔になって来てしまった。
「あ、いえいえ、ご心配をおかけして申し訳ございません。こちらのミサキ…… あ、サクラだっけ? サクラのご両親にも挨拶に行かなければならないのですが、未だ何も事情を知らない状態なので、何と説明したら良いのかと考えておりました」
オーノヒロミさんが、シーラのご両親に説明をしてくれた。
そうなのだ、先に御崎家の方へお伺いして事情を説明するべきだったかもしれないのだが、この問題がややこしいのは、世界間を移動すると性別が変わるという事なのだ。
つまり、どちらのご両親も自分達を『女の子の親』だと思っている訳で、『どう責任を取ってくれる?』と言いたい側だという事だ。
まあ、考え方を変えれば、これがもし『男の子の親』だった場合、『申し訳ありませんでした!』と謝罪に先方宅へ行くと言い出しかねないので、その点で言えば怒られれば良いだけなので、助かったのかも知れない。
ただ、『女の子の親』の場合、『相手は誰だ!? 相手の男を連れて来い!』となる流れは容易に想像出来る。その場合、男になったシーラを連れて行けば済むのだろうか? 行ったら殴られるまでは行かないまでも、かなり険悪な関係になってしまう予感は有る訳だが、その場合、シーラが辛い思いをしなければならない。
異世界の事情を知らない親を移動させるリスクに比べたら、遥かに対処はし易いのだろうけれども……
まあ、そんな事をあれこれシミュレーションしているよりも、『世界間を移動すると性別が変わる』事実を納得させれば良いだけの話なのだが……
「なんとか、産んだのはシーラさんだと証明出来ないかなー?」
「あの、あたしも一緒に行けば、解決出来るんでしょうか?」
「余計ややこしくならないか? そもそも信じてくれるかな」
シーラは、話の内容は良く分かっていないのだが、兎に角赤ちゃんの母親は自分だと証言すれば良いのだろう位に思った様だ。
しかし、シーラも性別が変わる事までは理解出来ていない様だった。御崎家のご両親の前で、桜が産んだのでは無いと証明する良い方法は無いものだろうか?
「あ、そうだ! 集合写真撮っていこう!」
「動画の方が良くない?」
そのアイデアは即採用され、全員で動画の撮影大会となった。
ユウキ達は、販促ビデオを撮った時の経験を活かし、多少演出も加えてビデオ撮影を行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えーっ!? 何これ!? どういう事なのっ!?」
「うん、にわかには信じられないかも知れないけれど、現実を受け入れて」
シーラを連れて、ゲートを潜ってみた。
予め予備知識を与えておいたのに、やはり驚く様だ。まあ、驚くというか困惑するよね。シーラは、まだ若いからという事で、その順応性に期待をしたと言う所も有る。
彼女の着ている服は、頭からすっぽりとかぶる簡素な造りの貫頭衣で、ひざ丈位のワンピースみたいな物なので、取り敢えず服はそのままでいて貰った。勿論、下着などは身に付けていない。というか、異世界側には下着など無いのだから当たり前なのだが。
ゲートを潜った直後に、シーラは体に異変を感じたらしく、襟元から中を覗いて先程のセリフとなった訳だ。
「なんか、チャラそうなあんちゃんに成ったな」
「意味が分からないけど、何かけなされている様な気がするー! ていうか、サクラ! あれっ? 可愛い! なにそれっ!?」
「だから、全員性別が変わるんだよ! 私は、生まれた時から17年間女子やってたんだからね!」
「えーっ? あたし今から男やれって言われても困るー」
「ちょっとの間だけなんだから我慢して! 向こうへ帰れば戻るんだから」
「えっ? そうだったの? なら良いわ」
「いいんかい! 順応性高いな!」
睨んだ通り、シーラさんはあっけなく適応してくれた。まあ、拒んだ所でどうしようもない訳だが。
「それはそうと、あ、あたしとサクラは、ふ、夫婦なんだよね!?」
「どうしたの急に。鼻息が荒いんだけど」
「はーい、待った待った! 一旦向こうの世界へ戻ろうか」
再び全員異世界側へ戻った。シーラさんは、桜をギラギラした目で見ていたのが、何故か毒気が抜けた様にキョトンとした顔をしている。
「あ、あれっ? あたし今、サクラに何をしようと……」
「ちょっとお試しで一瞬だけ向こうへ行ってみたけど、どうだった?」
「う、うん…… すごい」
シーラさんは、それだけ言うと、うつむいて顔を赤くした。
「あ、そうだ! 良い事思い付いちゃった。テレビ電話で両家の顔合わせしない?」
「テレビ電話って、
「だったら、
「おっ、それいいかも! 85V型買ってくる!」
「まあて! そんなの買っても1回しか使わないんだから勿体無いよ。御崎家の方はお宅のテレビで、シーラさんの所はシーツでも下げてプロジェクターでいこう。プロジェクターならストレージに入ってる」
「オッケー! じゃあ、二手に分かれてセッティングに行こう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
御崎家の方へは
『ハロハロー! ユウキ、見えてるー? こちらは感度良好よ』
『こっちも良く見えてるよ。映像暗くない?』
『大丈夫、はっきり見えてるわ。最近のスマホのカメラは優秀ね』
『了解! じゃあ、始めよう!』
こうして異世界間をまたいだご両家の顔合わせが始まった。
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