第191話 チンクエチェントイー
まあ、エルフなのにと言うのも偏見かも知れないけれど、なんか、エルフって保守的なイメージあるし、エルフに性的な文化は似つかわしく無いと言うか何というか…… そんな連中ばかり集めて村を作らせておいて今更なんだけど、二つの種族が交わって化学反応を起こしたのか、新しい文化を創造してしまった様だ。
村の中は全員、婚姻というものが存在せずに完全フリーセックス状態らしい。ある意味野生動物のそれに近い。ただし、それだと妊娠出産というリスクを伴う女性は不利なんじゃ無いかと思われるのだが、案外大丈夫そうな仕組みが作られている様だった。
子供は誰の子だろうと、村人全員の子供として全員で育てるのだそうだ。例えば、ダチョウは複数のメスが一か所に卵を産み交代で卵を温めるとか、ワニは子供が襲われて鳴くと、血縁関係が無くとも周囲の大人のワニが全員敵を攻撃しに集まって来るとか、親と子の様に個から個への愛情関係だけではなく、種族全体の子として全体から個へ愛情を注ぐ形が出来上がっているのかも知れない。
これは、元々エルフが親子関係が希薄な種族で、子供は割と放任主義だったり、近所で知っている子供がお腹を空かせて居れば、誰でも自分の家で食わせてやったりという、ある意味昭和の日本みたいな文化も有ったりという土壌があり、その発展形の様な気がする。
「僅か一か月程度でそれは凄過ぎない?」
「案外文化なんて、小さなコミュニティで発生して全体に広がる物なんじゃないかな。だとすると、文化が出来上がる時間なんて一瞬なのかもよ」
例えば恵方巻の様に、関西のごく一部の文化だったものが、コンビニのマーケティングとマスコミの宣伝のお陰で全国に広まってしまった様に、ある小さな地域の風習に過ぎなかった何かが発信力の強い誰かの目に留まり、全体に広まるとかは有りそうだ。
広まる過程で、皆が飽きれば一時のブームとして消えて無くなるし、不快に思えばそもそも広まらない。好ましく思えば全体に広まって定着して行く。こうして消えて行った文化未満の風習も沢山あるのかも知れない。
ヨーロッパでは食事の際に、音を立てずにナイフとフォークで静かに食べるのが今では常識になっているが、あれは一部の貴族階級が庶民と差別化する為に創り上げた人工の文化であって自然発生したものではない。当時の人間なんて、貴族でも庶民でも皆普通に肉や野菜なんかを手掴みでバリバリ音を立てながら食ってたりしていたそうだ。それが今では一国だけではなく、ヨーロッパ中の国々が全部そうなってしまっている。一体それが全体に浸透し、常識化し、音を立てるのがマナー違反、延いては不快だ気持ち悪いとまで言われる程に成ってしまったのだから大したものだ。
日本で言えば、麺類をズルズルと音を立てて食うが、ああ美味そうに食ってるなと思いこそすれ、不快だ気持ち悪いなんて思う人は殆ど居ないだろう。不快に思う気持ちなんて、後天的に教育でそう思う様に刷り込まれているだけなのだ。
中国の一部にある、食事の際にテーブルの下にまで食い散らかす文化とか、よく舐めた箸で人に取り分けてあげる文化とか、食事は全部食べ切らないで少し残すのがマナーだとかいうのも発生から全体に拡散する切っ掛けに成った何かが存在するはずだ。
「案外、白と黒が調和した
「コメントのパクリはダメだぞ」
「メタ臭い事言わないで下さい……」
村の方はなんだか大丈夫そうなので、追跡を開始する事にする。
四人はこの大陸で最初にゲート移動した、南の方角に在る岩壁まで行き、ゲートを潜ってから拡張空間内で服を着替えた。アキラは
「さて、ここから車移動する訳なんだけど、今回は俺の買った車で行こう」
「ん? 何時の間に買ったの?」
「折角永久電池持ってるんだから、
「当ててみようか? ポルシェ・タイカンでしょう? ああいうの好きそうだもんね」
「ブブー! ハズレ」
「じゃあ、テスラとか?」
「それもハズレ」
「じゃあ、何なのよ、教えなさいよ」
「これでーす!」
「「ええー!……」」
優輝はストレージから車を取り出した。しかし、それを見た女性陣は渋い顔をした。
「フィアット
「小さい―! 狭そーお!」
「これはまたオタ臭いものを」
「失礼な! 決してルパンに憧れた訳じゃ無いぞ!」
「憧れたのね」
「はい……」
「でも、丸っこくて可愛いですよ。ちょっと狭そうですが……」
女性はこういう可愛いのが好きそうだと思ったのに、当てが外れた。唯一アリエスが庇ってくれたけど、やはりこれに四人乗るのは狭そうだと言う意見だった。
「せめてもうちょっとゆったり乗れる車は無いの? 私のベンツ出そうか?」
「あれ、ガソリン車じゃん。それに、
「優輝のは取ってあるの?」
「その辺は抜かりが無い」
「そういう事には手回しが良いのよね」
自慢げな優輝に
「他に車は無いの?」
「あるにはあるけど…… 一応EVは各種取り揃えております」
優輝は、お気に入りのフィアットを渋々ストレージへ引っ込めて、何台かの車を出してみた。女性陣はいちいち文句を言うので、彼女らに選ばせる事にしたのだ。
「ベンツにレクサスにアウディに、あっ、これいいじゃん!」
「テスラ・モデルXかー。俺、こんなでかい左ハンドルを運転出来る自信無いな」
「ランクルよりでかいらしいよね」
「あっ! じゃあ、私に運転させてよ。私運転得意なんだ」
アメリカ人のデクスターがノリノリで運転を買って出てくれる様だ。しかし、自称運転が得意は地雷臭しかしない。嬉々として運転席に乗り込み、助手席には当然の様にアリエスが乗り込む。
「オーナーなのに後部座席……」
「あら、お金持ちは普通そうじゃない?」
言われてみれば確かに、運転手を雇って後部座席でふんぞり返るのがお金持ちだ。自分で運転したがるのは成金なのだとか。優輝も
成金という言葉には一代で急にお金持ちになった人を揶揄する、あまり良いイメージは無いのだが、アメリカ人はそれをアメリカンドリームと言う。
デクスターの運転するテスラ・モデルXは、ガソリンエンジンの様な振動も音も無く、静かに走り出した。そして、あっという間に時速130マイルを突破した。
「きゃあああああ!!」
優輝は女の子みたいな悲鳴を上げた。
永久電池を組み込んだモーターは、通常では考えられない回転数を叩き出している。
「モーターが焼けちゃうよ!」
デクスターは、ハンドルを握ると性格が変わるタイプの様だ。
アリエスが静かだなと思ったら、早々に気絶していた様だ。
小一時間もしない内に、最初の目的地である、脱走犯達が数日間逗留していた形跡のあるポイントの近くへ来たので、カーブで死角に成る位置で車を停めさせ、直ぐに車をストレージへ格納して隠した。木立の陰に隠れて暫く様子を見ていると、サイレンをけたたましく鳴らしたパトカーが何台も通り過ぎて行った。
「取り敢えず車道を降りて森の中で向こう側の世界へ行こう」
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