第159話 デクスターの結婚

 「け、結婚!? 何で!?」

 「あら? わたくしの服を脱がそうとなさったではありませんか」

 「いや、あれは救命措置なんだけど! エルフってそんな風習なの!?」


 男版デクスターこと、スーザンは慌ててサマンサの方を見た。

 サマンサはやれやれといったポーズをして見せ、首を横に振った。

 どうやらそんな風習は無いらしい。


 「でも! 王族の未婚女性の肌を見たのですから、結婚は当り前ですわ!」

 「当たり前、なのかなー……」

 「でも、それなら俺なんてフルヌード見ちゃってるんだけどな」

 「あ、あなたは既婚じゃありませんか!」


 アキラの茶々にアリエルはむきに成って抗議している。

 アキラの時にはそんな事全然言わなかったのに、何故なんだと思って見ていると、アリエルはスーザンの方をチラチラと見ては頬を赤らめている。

 どうやら、スーザンの容姿がアリエルにとってストライクだったらしい。

 種族の壁なんてどうでも良い位にドストライクらしい。

 この機を逃すものかという気迫が凄い。


 「でもあなた、エルフの王族なんでしょう? 私なんてただの平民だし」

 「そんな事ありませんわ! 魔法を使えるだけで大した者です。まして、アキラ様やユウキ様の御友人ともなれば!」


 ユウキもアキラも、アリエルの評価が重い…… と感じた。

 まあ、エルフの神であるロデムの友人という立場だし、仕方は無いのかも知れないが。


 「ご厚意は嬉しいんだけど、私…… お、俺は、国に帰らなければ成らないんだよ?」

 「あら、そんな事当たり前じゃないの。わたくしは嫁ぐ身ですから、何処へでも付いて行きますわ」


 どうやら逃がしてくれる気は無いらしい。


 「ディ…… スーザンさあ、もう年貢の納め時じゃない? そもそも、もう結婚しても良いお年頃だよね。それともエルフには萌えない?」

 「いやもう、メッチャ萌える。何かヤバいからこそ怖い」

 「へぇー」


 ユウキは、あまりエルフ萌えはしなかったのだけど、スーザンはそうでは無かった様だ。まあ、人それぞれである。


 「じゃあ、ユー、結婚しちゃいなヨ」

 「マジかよ。気軽に言った異世界旅行がとんでもない事になってしまった」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「許さーん!! うちの姫に手を出した奴は、何処のどいつだ!!」


 エルフ王のアリオンは、いきなりの大事な愛娘まなむすめの結婚話に大激怒だった。

 まあ、今迄男の影すら無かった箱入り娘が、どこの馬の骨とも知れない男を連れて来たら、そりゃあ怒るのは仕方無いだろう。

 しかも、相手はエルフでは無く人間だ。

 アリオンは事の成り行きが理解出来ずに頭を抱えてしまった。

 なので、目の前の人間の男に怒るしか無い。


 「アリエルや、そんな今日会ったばかりの男にくっつくんじゃない。相手の事をよく知りもしない内に結婚なんて認められる訳が無いだろう?」


 あのアリオンが、すごーく真面まともな事を言っている。

 あのアリオンが、である。

 始祖アラミナスの呪いで自我が不安定に成っている状態だとはいえ、父親としての良識迄無くしている訳ではない様だ。


 「でもお父様、この方は我らが神のロデム様のご友人のご友人なのですよ? こんな確かな事は無いではありませんか」

 『スーザンはボクの友達というわけではないよ』

 「友人の友人って、100%赤の他人だよね」

 「ロデム様っ!?」


 我らが神とか言って置きながら、アリエルはロデムを怒鳴りつけた。

 恋は盲目過ぎやしませんか?

 そういえば、雪の女王の妹君も一時期そうなってたよね。


 「我がエルフ族の姫を娶りたければ、それなりの格と財力を示せ!」

 「いや、王族の姫をたぶらかした罪で死刑にしろ!」


 今回は重臣達もアリエルの味方では無い様だ。

 財産を差し出すか死刑って、極端過ぎる。


 「え? 財産見せないと死刑なの? そんな横暴な!」

 「でもここで『じゃあやめます』なんて言ったら死刑一択に成りそうだよ」

 

 格と財力と言われても、スーザンことデクスターはアメリカでこそ巨大企業のCEOであり、そんな会社を複数保有している大富豪なのだが、それはあちらの世界での話でこちらの世界で財力を示せと言われても正直困ってしまう。


 「どうしようか、こちらの世界で価値の有る物は何も持って来ていないんだけど」

 「価値の有る物…… あ!」


 その時ユウキが何かを閃いた様だった。

 そして、スーザンにそっと耳打ちをする。

 そして、ストレージから有る物を取り出してスーザンに手渡した。

 スーザンはそれをうやうやしく捧げると、王の側近がスッと近づきそれを受け取り、アリオン王へ手渡す。


 「聖白銀の錫杖に御座います」

 「錫杖? これが?」


 どう見ても金属バットで御座います。

 しかも、向こうの世界で優輝が草野球で散々使い古した、泥だらけの金属バットだ。

 しかし、その材質はアルミニウム合金のジュラルミンだ。

 アルミニウムはこちらの世界では聖白銀と呼ばれ、ミスリル銀よりも高価な金属なのだ。

 事情が分からず戸惑っているスーザンの代わりにユウキが説明を始めた。


 「それにしては随分と薄汚れている様だが……」

 「はい、我が国に代々伝えられしその錫杖は、世界征服を目論む九人の悪魔を倒すために集いし九人の勇者が手にしたとされる、悪の放つたまを打ち、その野望を挫き、幾千もの過酷な戦いで勇者を勝利に導いたとされる聖なる錫杖。男達の血と汗と何かにまみれ、一見薄汚れて見えますがそれは飾り物では無い本物の真物の証しに御座います」

 「「「「「おおー……」」」」」


 広間がどよめいた。


 「その様な至宝を差し出すと申すか」

 「はい、アリエル姫の為ならば、喜んで……」

 「スーザン様」

 「どゆこと?」


 アリエル、真に受けてうっとりしている。

 スーザンは事情が分からずポカーンとしている。

 後でバレたらヤバそう。


 とはいえ、いきなり結婚とはいかないが、一応交際の許可は出た様だった。

 アリエルをアメリカへ連れて行くのは結婚後に成るのだが、スーザンは時々エルフの国へ通う事に成る。


ホダカお爺ちゃんとミサキ君は、終始ニヤニヤが止まらない様だった。

サマンサは何故か複雑な顔をしていた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、スーザンのリクエストで『人間の町へ行って見たい』、『ドラゴンに会いたい』等を聞いてあげて、あちこち案内して満足してくれた様だった。

 ホダカお爺ちゃんもミサキ君もあまり色々な所へ連れて行っていなかったので、こちらの世界を見て回って見分も深まったことだろう。

 実際のドラゴンを見た時には白目をむいていたけれど、きっと楽しんで頂けた事と思う。


 日本へ帰って来た一行は、優輝とあきらとロデム以外、全員ソファーにぐったりと倒れ込み魂の抜けた様な顔をしていた。


 「楽しんで頂けたでしょうか?」

 「バリアーで守られているとはいえ、なかなかスリリングな旅だったわ」

 「あたしゃ生きた心地がしなかったよ」

 「リアルジュラシックパーク、ヤバいですー」


 概ね喜んでいただけた様で良かった。


 「で、私は何故結婚することに成ってしまったのかな?」

 「今更かよ!」


 まだ実感が湧かない様子。

 とはいえ本気では嫌がっていなかった様にも見える。


 「だって、史上初のエルフと結婚する人間よ? しかも相手は魔法を使える。魔法の研究が捗る事は間違いないでしょ?」

 「何て打算的な」

 「これって、『奥さまは魔女』よね」

 「だったら、サマンサの方と結婚しないと」

 「いや、あの面白魔女はちょっと……」


 という訳で、今回は解散。

 花子お婆ちゃんと御崎桜は、ふらふらと自分の家へ帰って行ったけど、デクスターは帰り掛けて扉の前で振り返った。


 「ねえ、今日行った所は異世界側のこの日本列島内からは出ていないんでしょう? 今度大陸側も見てみたいな」

 「そうね、今度機会が有ったら」

 「約束よ、じゃあまたね」


 デクスターも自分のオフィスへ帰って行った。


 「やっぱりあきらと同じ事を言うんだな。結構似た者同士なんじゃない?」

 「そう、なのかも知れないわね」


 似た様な分野に興味を持つ女性の科学者同士は、結構気が合う様だ。


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