第155話 スパイ映画
「石上神宮までは突き止めた」
「だから、考えるのは良いが触るなよって言ってるだろ!」
「別に取ろうとはしてないわよ。戦争中にアメリカさんだって持ち去らなかったんでしょう?」
「まあな。その何とか協定だか条約で持ち去らなかった訳じゃ無くて、持ち去れなかったと言うのが正しい訳だが」
「持ち去ろうとはされたんだ」
「不思議な事に、あの神宮の空間から外へは出せないらしい。空間内に封印されていると言うか、何かそんな感じらしいぞ」
「ふうん、益々興味が沸くわね。私達なら封印解除出来たりして」
「だからやるなって言ってるんだ。やりそうで怖いんだよ!」
「やらないわよ。 ……今は」
「危なっかしいな」
今の会話で魔法のアーティファクトは、石上神宮の
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、これからどうしましょうかね」
「どうとは?」
「中国とロシアが来いって言ってるんでしょう?」
「ああ、無視だ無視! 用が有るならそっちから来いって事だ」
「へえ、強気じゃない」
「アメリカの時だって本当は行かせたく無かったんだぞ。それをお前が行くと言うから」
「私のせいなの? 日本政府が行って欲しそうだって言うから」
「まあ、すまん。結局こっちと向こうの最高責任者との契約でこちらの技術は完成品の販売のみという事に決着したからな。都合良くお前達の小芝居に乗らせてもらったよ」
「気が付いてたの?」
「お前等芝居下手糞」
「流石ね」
「あのな、交渉事はもっと俺達を頼れ。世界中の怪物達を相手するなら、俺達を盾に使え。その為の神管なんだからな」
「分かったわ。頼らせて頂きます」
ロシアと中国は同盟国では無いのでこの件に関しては後回しでも問題は無いのだが、残るイギリスには一度行っておかなければ成らない様な気がする。
まだ特に要請が有ったという訳では無いのだが。
「そう言えばイギリスは来いとか共同開発しようとか言って来ないわね」
「あそこはまあ、アメリカとツーカーみたいな感じだしな。こっちが気を揉まなくても勝手にアメリカから技術は流れてるんだろう」
「ディディーが上手い具合に纏めてるのかしら? 今度聞いてみよう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「という訳で事情を聞きに来たわ」
「何よいきなり! 仕事中に驚かせないで!」
デクスターはこう見えてもマギアテクニカ社とメタワイズ社のCEOなのだ。
この二つの会社は、どちらも魔法を研究し、現代の科学で再現しようとしているのだが、どちらかというとマギアテクニカは業務用から民生用、メタワイズはやや軍事用色が強い傾向にある。
その彼女に会うには、事前に予約を取り、エントランスホールで受付に身分を明らかにし、身分証を提示し、約束の時間と目的を告げ、通常は入れない区画に入る為のパスカードを発行してもらい、そこに在る重役専用エレベーターに乗り、フロアに着いても何重ものセキュリティチェックをパスし、秘書室で許可を取り、身元を明らかにして、インターホンで入室の許可を得てから電子錠を解除してもらい、やっと執務室の中へ入る事が出来るのだ。
しかし
「あらごめんなさい。はいこれお土産のカップ麺の詰め合わせ」
「あら嬉しい。これって時々無性に食べたく成るのよね」
大学時代に一人暮らしをした経験の有る人なら分かるかも知れないが、白米とか麺類とか、時々無性に食べたく成る時が有るのだ。
あれって何なのだろうか? 一説によると、親元を離れて食事の時間が適当に成って軽い飢餓状態に陥ると、身体が手っ取り早くエネルギーに変換出来る炭水化物を求めるのだという説とか、実は糖質には中毒性が有って禁断症状が出るのだとかの説も有ったりする。
「ああ、イギリスはね、この件に付いては情報の共有が成されているのよ」
「そうなんだ、やっぱりね」
「同盟国同士は足並みを揃えておいた方が良いでしょう。いつか一緒に行って見る?」
「いいの? なら是非」
「今直ぐ行こうとは言わないのね」
「大会社のCEOに向ってそこまで厚かましくは無いわ」
「ふうん、あなたの空間通路なら簡単に行けると期待していたんだけどな」
「ああ、そっちか。御免なさい、UKには行った事無いからドアが設置されていないの」
「意外と不便なのね。でも、一回の片道料金だけで世界中どこへでもいつでも行けるのは羨ましいわ」
そんな雑談をしている内に、いつの間にか空港でプライベートジェットに乗り、空の上に居る事に気が付いた
デクスターはいつも忙しそうにあちらこちらに動き回っているので、それにくっついて移動している内に飛行機に乗っていたらしい。
「精神系の魔法を使われた!?」
「使って無い、使って無い」
プライベートジェットは気が付けばイギリスのヒースロー空港へ到着していた。
「気が付いたらロンドンに立って居た」
「ボヤッとしているにも程があるでしょ」
「どうしてこうなった」
「来たいって言ってたじゃないの。つべこべ言わず付いて来なさい。ここは紳士の国ですからね。まず身だしなみを整えないと」
デクスターは街の中心街からやや外れた洋品店街とでも言う様な一角へ向かい、
店は女性用フォーマルウェアの専門店で、店の名は『クイーンズウーマン』。
『淑女が歴史を作る』らしい。
デクスターはずんずんと店の奥へ進み、そこに立って居たテープメジャーを首に掛けた姿勢の良いブロンドヘアーを上品に結い上げたヘアースタイルの、黒いスーツの女性へ声を掛けた。
「私とこの子の採寸をお願い出来るかしら?」
「畏まりました、デクスター様。3番の試着室へお入りください。お連れ様もどうぞ」
デクスターはこの店の常連なのだろうか? 名乗る前に店員はデクスターの名前を呼んだ。
デクスターは無言で
「ちょっと待って、私はドレスなんて……」
有無を言わせずデクスターは
この高級服飾店では、試着室と言ってもカーテンで仕切られた半畳程度の狭い空間では無く、ちゃんとした部屋に成っている。
正確に言えば、フィッティングルームなので、試着以外に仮縫いなども出来る、ある程度の広さの有る部屋なのだ。
しかしその部屋の中には担当者は居なかった。
壁には高級そうな生地の見本か幾つも掛けられ、古い足踏みミシンや竹製の1mの物差し、大きな裁ち鋏や待ち針の沢山刺さった針山等が置かれたテーブルといった、洋品店の道具一式は揃っているのだが、肝心の採寸をしてくれる店員は居なかった。
すると、正面の壁が上にスライドし、次の部屋が現れた。
二人でその部屋へ入り、扉が閉まった事を確認してから目の前にあるクラシカルな電話機の受話器を取り、ある番号をダイヤルすると、軽い振動と共に身体が浮き上がる様な感覚に襲われた。
そう、この部屋全体が下方向へ移動を始めた様だった。部屋全体がエレベーターに成っていたのだ。
「何これ? まるでスパイ映画みたい」
「イギリス人って、こういうのが好きなのよ」
かなりの深さまでエレベーターは降り、停止すると正面の壁が左右に開く。
その先には広大な研究施設が広がっていた。
「この研究所を日米のラボに繋げて欲しいの」
デクスターは
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