第153話 ロデムの思惑
「ねえ、異世界の大陸の方って興味無い?」
「あるある! 大陸の方の国ってデカそうだよね」
「でもさ、私達が行った外国って、スイスとアメリカだけだよね」
「異世界側アメリカの国かー…… どんなのだろう?」
『ああ、あの大陸には国らしきものは無いよ』
「「 えっ!? 」」
ロデムの発言に、二人は意外な事を言うものだと驚いたのだが、考えてみればこちらの地球だってコロンブス以降に白人が入植して来る迄は北米大陸には現地の種族、つまりネイティブアメリカンやイヌイットの方達が部族単位で生活していた程度で、国の様な規模の統治組織を持った集団が住んで居たのかどうか分からない。
南米の方にはインカだのアステカだのが有ったけど、北米の方ってどうなのだろうか?
アデナ文化とかミシシッピ文化とかの遺跡が発掘されているそうだけど、それは国なのか否か? それを言っちゃうと日本の吉野ケ里遺跡とかは国って言って良いのかどうか怪しく成って来てしまうのだが……
一応現代の国家の定義としては、『住民と領土を保有し、主権及び外交能力を備えた地域』という事に成っている。
ここで言う外交とは交易から戦争までも含み、即ち他の国から『そこは自分達の国以外の国だ』と認知されている必要が有る。
それらの要件を備えていれば、例え村レベルの規模でも国だし、もっと人数が多くても、例えば遊牧民だったり狩猟生活メインだったりすると定住しないで豊かな土地を求めて転々と場所を移動しているなら、ただの集団生活という事に成ってしまうののかも知れない。何故なら、要件の内の領土を保有していないから。
その他、広大な土地にポツンと一国だけ存在していて外交していない場合も、それって国? かも知れない。
外交というのが国としての必須要件であるのならば、他国から認知されていなければ国では無いという事に成ってしまう。つまり、この世でたった一つだけの国は有り得ないという事に成る。
ロデムはそんな禅問答みたいな事を言っているのではないとすると、本当に人間が住んで居ないか、または集団生活の小グループが少し居るだけとも取れる。
人類発祥の地アフリカから人類は拡散していった訳だけど、地続きで無いアメリカ大陸へ人類が到達したのは相当後の筈で、ひょっとしたら異世界側地球では人口がかなり少ない事を考え合わせると、アメリカ大陸へ未だ到達していない可能性だってあり得る。
人類は一応居るとしても、国らしきものが見当たらないと言うならば、小集団が細々と暮らしている程度なのかも知れない。
そもそもの話だが、あらゆる動物は自分達の棲む地域を決めている。決めていると言うか、その環境じゃないと生きられない。
なので、必然的に特定の地域にだけ生息している。
人間だって本来そうなのでは? と思うのだが、人間に限っては地球上の殆どの地域に生息ししている。
環境適応能力が高いという事なのだろうが不思議だ。
多くの動物種は、違った環境に棲む場合、身体の構造を変化させている場合が多い。
例えば、体毛が長く成ったり短く成ったり、身体が大きく成ったり小さく成ったり、顔が扁平だったり尖ったり、同一種の筈なのにちょっと違っていたりする。
ところが人間は、素のままで世界中の暑い所寒い所乾燥している所ジメジメしている所と多種多様な環境に適応して、地球上のあらゆる場所に住んで居る。本当に不思議だ。
古代において、冒険心や好奇心に駆り立てられて新天地を求め、良い所見つけたと定住してしまった場合も有るには有るのだろうが、勢力争いに負けた集団がどんどんと僻地へ追いやられて行った末に仕方無く棲み付いたケースが殆どなのではないだろうか。
絶海の孤島のイースター島にまで人が住んで居るというのは、驚くべき事だ。
そこへ最初に辿り着いた古代の人々は、粗末な丸木舟で命を懸けて冒険をしたのか、それとも瀕死の状態で偶々流れ着いたのか、想像するにロマンが広がる。
話が脱線しまくっているが、考えてみれば国というものは人間が外敵から身を守る為の組織であって、それは他の動物と言うよりも他の人間の集団が一番の敵だったのだろう。
もし、その大陸には危険な生物も居なく、気候も快適で食料も水も豊富だとすれば、少ないリソースを奪い合う必要も無い訳なので、敢えて国という形態を取らなくてもそれぞれ個々人が一生安泰に暮らせて行けるのかも知れない。
「国が無いんじゃ、行ってもしょうがないか」
「貨幣経済も無い可能性だってあるし、そうなったら商売に成らない」
「ねえロデム、国が在りそうな地域って有る?」
『あまり気にした事は無かったな―。後で調べてマップを更新しておくよ』
「うん、お願いね」
ロデムはそう言ったのだが、実はあまり外国へは行って欲しく無いらしい。
外国というと異世界側ではミバル商会の本拠地のイスカ国の他の国は、ビベランの住んでいるアサ国もノグリの住んで居るユウ国もみんな外国なのだが、
ロデムは優輝や
というのも、マジモンの危険地帯だからなのだ。
ユウ国の関所村がかなり治安が悪かったが、大陸の方の危険度はそれを遥かに超える。
多分、日本人が頑張って考えた想像上の危険地帯の、更にその十倍は危険かも知れない。
勿論、バリアで身を守られているとはいえ、優輝も
ロデムは、後で調べて置くと言って、子供が生まれるまでは何だかんだ引き延ばそうと考えている。
「異世界側の大陸へ行くのは、子供が生まれてから何時でも行けるしね」
「でも、俺の方が生まれてからだと、今度は
「まあ、二人共生まれてからでも良いわよ。かえってその方が安心だし」
「そうだね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
自宅の居間でダラダラと過ごしていると、
「はい、
「俺だ、今、優輝と一緒にこっちへ来れるか?」
電話の相手は麻野だった。
神管へ直ぐに来いと言う。何があったのだろうか?
DPro(ディプロ)と言うのは、『神管』こと神祇保護管理室の英語名称の方の略称というか愛称として設定された名称で、『デイティ・プロテクション・マネージメント・オフィス』から来ている。
しかし、
国鉄が民営化された時に国電と呼ばれていた山手線や京浜東北線を『E電』と呼ばせようとしたのだが一般には定着しなかったみたいな話だ。
E電は、今でもJR東日本内でだけで通用する用語としてこっそりと残っているらしい。ほぼ死語である。
「何が有ったの? 急に呼び付けて」
「それがなあ、また面倒臭い所から接触が有ってな」
「面倒臭い所?」
「中国とロシアだ」
「あー、まあ、そうなるか」
どちらも同盟国ではないし、貿易しているとはいえ、軍事的には敵対国だ。
とはいえ、宇宙開発では時々協力したりして、スパっと線を引くのが難しい。
特に中国には日本の政界や財界に深く食い込まれてしまっている。
日本の財界人の中には中国と密接に繋がっている者も居るし、議員の中にも特別視をしている者も多数居る事から、神管でも何らかの接触をしてくるのではないかと警戒していたところだったのだ。
「アメリカも中国もロシアも、どっちもどっちのジャイアンだしなー」
「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物ってか?」
しかし神管は宮内庁の外局なのだ。例え政府が折れようと何者にも指図を受けない不可侵の存在としている。
どんな外圧が掛かろうと独自の判断で動く事が出来る。
「頑として突っぱねる事も出来るが、まずお前達の意見を聞こうと思ってな」
「政治的にマズい事に成るかもよ? この現代に於いても他国の領域に侵攻したりしちゃう国だし」
この地球上に於いて、例えどんな傍若無人な国が存在したとしても、国と言う単位以上の権力が存在しない以上、他国がその国に罰を与える事など出来ない。
国際司法裁判所なんていうものも一応有るには有るが、それは『悪かったな』『ええで』みたいな感じで仲良くやって行くために多少折れたりし合う程度で、判決に不満が有って守らなかったとしても罰則なんて課す事は出来ない。
精々が他の国同士が結託してハブる位しか出来ないのだ。
まあ、一国だけで生きて行けない以上、全世界から無視される事は最大の罰な訳だが。
「構わんさ、お前達は建前上神様なんだからな、貸し出しなんて不可能だ」
「おお、頼もしい!」
「核ミサイルをこっちに向けている国でも?」
「お前達なら弾頭が爆発する寸前に向こうの首都上空に送り返す事位朝飯前なんだろ?」
「うーん、それはちょっと難しいかな」
「出来ないとは言わないんだな?」
確かに、今の
やろうと思えば、上空に予め拡張空間の入口を張り、相手国の上空に出口を作って置くという事も出来なくは無い気もする様なしない様な感じなのだ。
前にも言った様に、何も無い空中に座標を固定するのが難しい故、空中に大規模な出入口を作る事が出来るのかという問題は有るが……
もっとも、優輝や
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