第152話 茶番とか小芝居とか
「私のはー、魔法じゃ無くてー、魔法の物真似が出来るだけなのだわ」
「は? それってつまり魔法を使ってるって事だろ?」
空気だった三浦がやっと口を開いた。
「私は、魔法を見てちょっと
「やり方が分かって使えるなら魔法じゃないか」
「ああ、こうやってやってるんだなーって真似出来るだけよ?」
三浦の疑問も尤もなのだが、魔法はエネルギーを見て操作が出来ない者が編み出した疑似技術なのだ。
だから、
皆が普通にやっている森進一の物真似は、タレントのコロッケがやる森進一の真似、みたいな事だ。
「でも、それを機械装置に落とし込めるのなら凄い事じゃないの」
「でもー、魔法使いって訳じゃ無いからー、ちょっとそっちの組合には参加出来ないかなーって」
「組合じゃないわよー! 何言ってんのー!?」
「じゃあー、ファンクラブ―? 新興宗教ー? 秘密結社―? ちょっとそっち系の勧誘はお断りってゆーかー」
「ちょっとカルトとか怪しげなセミナーの勧誘じゃないってば! わざと言ってるでしょ! ギャルみたいな喋り方止めなさい!」
また三浦が後ろを向いて肩を震わせている。
「冗談はさておき、戦争に使われる可能性の有る技術の供与は無理だわ」
「そうだな、日本国憲法的にもアウトだ」
「ちょっと待って、さっきも言った様に私達は政府から政治的及び軍事的に干渉はされないの。魔法を戦争には使えないのよ」
「でも、それは、アーティファクトを戦争に使えないと言うだけで、それを再現した類似技術は使えるって事なんでしょう?」
「そ、それは……」
デクスターは痛い所を突かれて言い淀んでしまった。
「つまり、
「 …… 」
「この話は無しだな。都合良く自分達側の陣営に取り込もうとしていた訳だ」
「待って!」
席を立とうとしていた三浦と麻野をデクスターは大きな声で呼び止めた。
「あなた達、さっき『戦争に使われる可能性の有る技術の供与は無理』って言ったわね?」
「その通りだが?」
「日本の憲法はお前さんの国が作って押し付けられた物なんでな、悪しからずだ。文句があるならお前さんのとこの大統領にでも言ってくれ」
「でもあなた! 自衛隊に
「 ! 」
デクスターは、びしっと
これには
「いや、まあ、自衛隊はー…… 軍隊じゃ無いですし―」
「詭弁ね」
「そ、そうとも言えなくも…… いえ! 軍隊じゃなくて警察予備隊ですー あれを搭載するのは軍艦じゃ無くて護衛艦なんですー」
「それこそ詭弁じゃないの」
まあ、軍事に転用可能な技術を国外へ持ち出す事に関しての日本国の何時もの言い訳なんだけど、このまえ潜水艦をオーストラリアへ売ろうとしてたし、その辺どう線引きしているのだろうかとは思った。
「まあ私は国ではなく神管の管轄ですし、政治的にも軍事的にも不可侵ですから」
「ちょっとそれでは日本だけずるくない?」
「ずるい、かな?」
「ずるいでしょ!」
実際問題、一国だけが高度な技術を持っていたとして、それを他国へ渡さないのは狡いのか否か。
例えば、自分の家のお父さんやお母さんが手先が器用な人で、家のリフォームからガーデニング、手作り家具やら陶芸といった日曜大工で自宅を快適でオシャレな空間に改造していたとして、それを羨んだご近所さんに言われて無償でそのお宅の手入れもやってあげるべきなのかどうかという話なのだけど、どうなのだろう?
ご近所付き合いを大事にするなら、負担に成らない程度にやってあげても良いけど、それは完全にサービスだし、完成具合に不満が有ると言われても知らんがなと言う事が出来る。
相手が満足する迄付き合っていたら、ただ働き感は半端無い物になってしまうだろう。
だったら、何かお金なり物なりの対価を受け取って、仕事としてやる方がまだましだと思う。
仕事としてやるなら、完成品の仕様とかサービスの範囲をきっちり決めて、それを超える範囲は別料金にするとか、またはその仕様が気に入らなければ購入を控えて頂くか、そう予め決めておかなければグダグダになりかねない。
魔法の幾つかを携帯デバイスに落とし込む事に
ちょっと手伝ってあげたら、次も次も、もっともっとと要求されてしまって困ったなという状態に成りかけている。
お国の上の方の方達は、米国さんは同盟国であり日本の防衛を頼っている関係上、無下に断る事は出来ない様で、なんとか融通をきかせて欲しそうだ。
しかし、神管としては、完全にビジネスライクに対応したいと考えている。それは
デクスターは契約社会の国の人なんだから、そういう所は分かっていると思っていたのだが、日本人は情に訴えてお願いすればある程度融通を効かせてくれるのを知っているらしく、結構契約外の無茶な要求をして来る。
ぶっちゃければ舐められているのだろうなという感じがしないでもない。
でも、そういうのって、仲の良い間柄での甘えなのかどうか分かり辛い線だと思う。多分、狙って微妙なラインを責めて来ているのだろうけど。
流石にデクスターは大きな会社のCEOを務めているだけは有る。
世の中の海千山千の連中を相手に、その中を悠々と渡り歩いて来た、ある意味この人も怪物なのだ。ついこの間まで大学生だった
多分、
会議室を神管のオフィスに移して麻野達に同席して貰ったのは大正解だったと言わざるを得ない。ちょっと前の自分の判断を褒めてやりたい気分だった。
「よし! 仕切り直しだ!」
麻野はパンッと手を叩いた。
今度はちゃんと仕様を決めた商品として、ビジネスとしての交渉をする事に成る。その場合の窓口は、当然神管が行う。
デクスターと麻野の間で、拡張空間の販売仕様を取り決め、契約を交わした。
技術の販売や移転、共同研究は出来ない。ただし、勝手に研究して再現する事に関しては国内の研究機関の
つまり、
拡張空間自体を通路として使う場合は二点間の距離に応じて、またはスペースとして使う場合は床面積単位での販売のみとする事と決まった。これは、国内での販売形態と一緒だ。
両者で契約書を二通作成し、それぞれが保有する。
競争相手が出来た事で、
その部分に関してはお互いに共同研究するも競争するもお好きにどうぞというスタンスに成った。
見えない火花の散る交渉現場で神経を擦り減らせてしまった様だ。
デクスターはその契約書を持って、すくっと立ち上がると麻野と握手をして、
「ああー、緊張した―」
「はあ? あなたでも緊張するの?」
「するわよ! 私を何だと思っているの? ごく普通のか弱い女なんですからね!」
「またまたぁー…… くすくす」
「場数は踏んでいるけど、ああいう場面は何時だって緊張しているのよ!」
「そうなの? あなたが怪物とか機械で無くてホッとしたわ」
「ねえ、アイスクリーム有る?」
「有るわよ。どうぞ」
「緊張すると糖分が欲しく成るのよね」
そう言うと、デクスターはその巨大カップから直にスプーンでアイスを食べ初めてしまった。
「これで良いのね?」
「有難う、恩に着るわ」
「それじゃ、また遊びに来るわ」
デクスターは巨大アイスクリームを小脇に抱えると、契約書の入った封筒をひらひらとさせながら自分のオフィスへと帰って行った。
実は、
しかし、共同研究はスタートしてしまっている。どうしようかと考えた末、研究員が研究するのは構わないが
サンプルは好きなだけ与えるが、
それが、完成品としての販売のみという取り決めなのだった。
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