第143話 みらいとわ
「みらいちゃん、おはよう!」
『パパ、おはようございます』
優輝はお腹の子供に『みらい』という名前を付けた様だ。
妊娠も五か月と成り、お腹も目立つ様に成って来た。
なので、優輝は異世界側で過ごす時間の方が長く成って来ている。
だけど、今日は
みらいもこの頃は起きている時間が長く成って来ており、優輝とよく会話をしている。
『みらい、おはよう』
『マディーもおはよう』
ロデムの事はマディーと呼ばせている様だ。
パパとママの中間だからパマとかマパとか色々考えてたのだけど、何かしっくりと来ない。それで、ダディーとマミーの中間でマディーという事にした。ダミーじゃ変だもんねぇ。
もっと良い呼び方が有れば良いんだけど、思い付かなかった様だ。
「みんな早いわね」
「おはよう、
『
『ママもおはよう』
「私のお腹の中の子は、まだおねむなのかなー?」
『起きてる。みんなおはよう』
「とわちゃん、おはよう」
『とわ、おはよう』
子供達の名前は、『みらい』と『とわ』で決まりの様だ。
異世界へ行くと性別が変わるので、男女どちらでも違和感の無い名前にしたのだった。
そんなのんびりとした休日を過ごしていたら、優輝のスマホが鳴った。
出てみると、お隣の花子お婆ちゃんからだった。
久しぶりに向こうの麦畑の様子を見に行きたいと言う。
そう言えば、そろそろホダカさんを連れて行かないとミバルお婆さんが寂しがっているとビベランが言っていたなと思い出した。
「じゃあちょっとお婆ちゃん呼んで来るね」
「優輝! 走らないで!」
「分かってるって」
優輝が玄関を開けると、既にそこにはスマホを耳に当てた花子お婆ちゃんが立って居た。
お婆ちゃんを家の中へ入れ、優輝、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ミバルお婆ちゃんいるー!?」
いつもの様に裏口のドアを開け、中に首を突っ込んで大きな声で呼ぶと、店の方からミバルお婆さんがやって来た。
「おやユウキかい? おや! まあっ! ホダカさん!!」
ホダカお爺ちゃんを見た途端、お婆さんの顔がパアッと明るく成った。
「麦畑の様子が気に成りましてな、孫に頼んで連れて来てもらったんですわ」
「そうですかそうですか、ちょっと待っててください、今店を閉めて来ますから。今日はもう休業にします!」
そう言うや否や、店の方へ走って行って扉を閉め、閉店の札を表に下げて戻って来た。
「え、良いの? お店休んじゃって」
「構やしないよ。気まぐれで休む事はよくあるし、急を要する様な品物も扱っていないからね」
「気まぐれで休んじゃう事よくあるんだ」
「こちらの国はおおらかなんですねぇ」
日本でも満足のいくスープが出来なかったら休みとか、スープが無く成ったら閉店ですっていうラーメン屋は見た事が有る。
空間通路を使って、久しぶりにノグリ農場へ行って見てユウキは驚いた。
なんと、元の農場の数倍は広く成っている。
ユウキが最後に見た時には、道の片側だけだったのだが、今は反対側も開墾されて元の数倍の面積に成っていた。
「えー、凄い! 何時の間にこんなになっちゃってたの?」
「まるで重機並みじゃろ」
「あの子達は体力だけは有り余ってますので、お恥ずかしい」
道の反対側は森が迫って来ていたのだが、そこを切り開いて耕されている。
材木は売って資金にしてあるそうだ。
畑を拡張したのは、ホダカお爺ちゃんの希望なのだそうだ。
「なんでもやってみたい事があるって言うからよう、三人で頑張ったぜ」
「え、一体何やろうとしてるの?」
「水田じゃよ」
「水田って、お米作ろうとしてるの?」
「そう、それが出来れば、多くの人を飢えから救えるんじゃよ」
「難易度高くない?」
確かに、米が作れる様に成れば、この貧しい国の人達を救えるし、主要な輸出品にも成るかも知れない。
何故ならば、米は麦に比べて単位面積当たりの人口扶養力が三~四倍も有ると言われているからなのだ。作れるなら作らない手は無い。
ただ、恐ろしく難易度は高い。
麦以上に頻繁に来て、農業指導しなければ成らないだろう。
と、それを聞いたミバルお婆さんの顔がパァッと笑顔に成った。
「それ! 是非やりましょう! 米! 水田!? 絶対に覚えさせます!」
そして、ノグリ達の方を鬼の形相で睨んで命令した。
「お前達! 死ぬ気で米栽培を覚えるんだよ!」
「「「ええー……」」」
日本が有る方の地球には、小麦文化圏と米文化圏が存在する。
栽培に適した気候が違うためだ。
米は熱帯の植物なので、本来は日本の緯度では栽培出来ないのだが、日本人が寒冷地でも栽培出来るように改良したジャポニカ米によって、東北や北海道でも栽培可能と成った。
異世界へはこのジャポニカ米を持って行って栽培する計画だ。
ちなみに、米の伝来は渡来人により朝鮮半島経由で日本列島へ伝わったと今迄長い間言われて来ていたが、これは科学的に否定されている。
何故ならば、当時の米栽培の北限は中国の山東半島の付け根辺りまでで、それ以北に水田の遺跡は発見されていない。気候的にそれより北側で栽培するのは不可能だったのだ。
植物の栽培は、栽培可能な隣接地域へ横へ横へと伝わって行くしかない訳で、米の栽培が不可能な山東半島を種籾だけが北上し、これまた米が育たない気候の朝鮮半島を何もせずそのまま素通りし、更に世界一荒れた海をわざわざ越えて日本に運ばれ栽培されたと考えるのは無理が有り過ぎる。
現在では、台湾沖縄ルートで島伝いに九州へ伝わったという学説が有力だ。
そして、日本の地で寒冷地仕様のジャポニカ米が発明された。
その米を異世界のユウ国へ持って行って、ミバル商会の実験農場で育てようと言う計画だ。
幸い街道に沿って小さな川が流れているので水は豊富に有る。
後は水田用に水路を引いて、水温を調整する池を途中に作るだけだ。
まあ、だけといっても大変な工事である事には違いは無いが……
となると、ホダカお爺ちゃんだけでは技術指導の人手が足りない。
誰か適任は居ないかと考えていた所、ユウキはある人物が閃いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「というわけで、知恵を貸してください!」
「え、ええ…… いきなりでびっくりしたけど、私で力に成れるなら何でも言って頂戴」
ユウキとホダカお爺ちゃんとミバルお婆さんが空間通路でやって来たのは、ザオ国のオーノ商会だ。
本当はユウキとホダカお爺ちゃんの二人だけで来るつもりだったのだが、ホダカお爺ちゃんにくっついてミバルお婆さんも一緒に来てしまった。
ミバル商会の農場なので、まあ来てもらった方が話はスムーズかも知れないと、一緒に来てもらったという訳だ。
商会主のオーノ・ヒロミさんは、昔に異世界へやって来てしまった日本人で、米どころ山形県の人だった。
山形は、新潟や秋田に隠れがちだが、米の生産量では日本で第四位なのだ。
順位で言えば、一位新潟県、二位北海道、三位秋田県、そして、四位山形県、五位宮城県と成っている。
ユウキは、その山形県の人間に知恵を借りようと思ったのだ。
「うーん、うちの実家は農家じゃ無いのだけど、親戚には農家が多いわね、でも残念ながら私は農業の知識はからっきしなのよ、ごめんなさい」
「そうかー……」
「あ! ちょっと待って!」
オーノ・ヒロミさんは何か思い出した様だ。
「あの子! ミサキ君! 彼の家は確か米農家って言ってたわ!」
「でもあの子、こっちの世界には良い思い出無いんじゃないかなー。ダメ元できいてみようかな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やります! 是非やらせてください!!」
二つ返事だった。
訪ねる前に教えて貰った携帯番号に掛けて聞いてみたのだが、全部を説明しない内にかなり食い気味に返事が返って来た。
あの子、トラウマに成っていないのだろうか? 結構タフなのかも知れない。
迎えに行って見ると、既にツナギに身を包み、稲作関係の本を抱えた
「マジか……」
「マジですよ! こんな冒険のチャンス、逃して成る物ですか!」
マジでタフな女の子だった。
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