第142話 メタワイズ社
政府レベルでの交渉の結果、アメリカ側とは等価の技術を交換する、若しくはこちらの技術を購入する事で共同研究をする事に成った。
その内容は伏せられていて、
しかし、共同研究をどちらの国でするのかという段階に成って結構揉める事と成った。
アメリカ側としてみれば、どうも日本のセキュリティが信用出来ないらしい。
日本は過去にイージス艦の情報をお漏らしした事がある前科持ちなのだ。
しかも、スパイを取り締まる法律が中々通らない。
あちらさんにしてみれば、おかしいだろと思われても仕方が無い状況だ。
日本がスパイ天国と言われている所以なのだ。
アメリカ側の言い分では、あれをそんな低価格で売っては駄目だと言うのだ。
高い技術には相応の対価を支払わなければ成らないと考えている文化なのだ。
その辺りが日本人の考え方と根本的に違う。
持っている者が無償で分け与えるのが当たり前だなんて、馬鹿のする事だ。
ただで研究なんて、一体誰がやるというのだろう。
大勢の有象無象の凡人に
そんな理由で、アメリカ側は日本での研究には難色を示した。
とはいえ、アメリカ側の研究設備が特段に優れているかと言えば、そういう訳でも無い。
何が違うのかと言えば、早い話研究資金がどれだけ潤沢か、個人の権利意識、そして研究者の成果に対する報酬額が桁違いだという事なのだ。
つまり、日本の頭脳が海外へ流出してしまう一番の原因は、お金。
研究成果を会社が取り上げ、研究者に正当な報酬を払わないから駄目なのだ。
例えば仮定の話でと前置きするが、〇大学の△教授が画期的な発明をしました、という様なニュースをよく聞く。
しかし、その△教授は一人で研究したのかというと、必ずしもそうではない。
必ず学生と一緒に研究をしている筈なのだが、発明発見の名声もお金も特許も△教授が独り占めで、一緒に研究していた学生の名前が出て来た事は無い。
『とある学生の実験の失敗からヒントを得て』とか聞くけど、それってその学生の発見を横取りしているのでは? とかいつも穿った見方をしてしまうのだが、真相はどうなのだろうか? 知らんけど。
「交換条件として、アメさんはとんでもない物を出して来たんだが」
アメリカ側は、敵国に地理的に近く多くのスパイの出入り自由なスパイ天国の日本での研究には断固反対だという姿勢は崩さない。
しかし、日本の神管もこの技術の海外流出には首を縦に振らない。
同じ位の価値の有る取引可能な技術の提示が向こうに無ければ、こちらが一方的に技術をくれてやる事に成るので、そもそもが取引として成立していない。
そこで向こうが出して来たのが、アレだった。
「フィラデルフィア実験?」
「そうだ、聞いた事無いか?」
「いや、知ってるけど、あれってフィクションなんじゃじゃないの?」
「いや、実際に有った話だと言い張っている」
フィラデルフィア実験というのは、第二次世界大戦中にアメリカが行ったと言われる、戦艦のステルス実験の事だ。
1943年の10月に、ペンシルベニア州フィラデルフィアで、統一場理論の実験が行われ、駆逐艦エルドリッジが完全に姿を消したとか、360km離れたバージニア州ノーフォークへ瞬間移動したとかいう、なんともオカルトチックな話の事なのだ。
「眉毛に唾付けて聞かないと成らない話なんじゃないの?」
「お前がそれ言うか? 向こうさんも取り引き条件にそれを出して来たという事は、それなりに研究記録が有るんだろうよ」
確かに言われてみれば、人の乗った戦艦の様な巨大な物を、その場の思い付きでいきなりぶっつけ本番でやってみる訳が無い。
最初は小さな物体から始めて、上手く行けば徐々に大きな物へと規模を拡大してデータを積み重ねて行くのが普通だ。
日本のロケット技術の研究が、鉛筆サイズのロケットから開始してコツコツとデータを取り、今のH-2ロケットにまで発展させて来たのと同じだ。
つまり、戦艦で実験をする前には、そこに至るまでの膨大な実験データの蓄積が必ず存在する筈なのだ。
その、戦後76年間もの間完全に秘匿されて来たデータを日本にだけ公開すると言う。
「そこまで誠意を見せられたら、無視は出来んだろう」
「逆にそれ見ちゃったらもう断れないってやつでしょう?」
「まあ、そういう事だな」
「実際にデータを見せて貰わないと、使えるかどうかは分からないけれど、いいわ、じゃあ、研究施設は日本とアメリカの中間に作りましょう」
「拡張空間でか?」
「そう、それなら中へ入れる人間を指定出来るから情報の漏洩も防げるのではないかしら?」
「セキュリティはともかく、それならどちらの国に取っても公平に成るか……」
麻野は少し腕組みをして考えていたが、それで向こうへ打診してみると言って何処かへ行ってしまった。
麻野の言う、『セキュリティはともかく』という言葉は、物理的に外部からの侵入を防げるからと言って、それでは万全とは言えないと思っていたからだ。
実は企業秘密や国家の機密が漏洩するのは、何もスパイが入り込んで盗んで行くとか、ネット回線からハッカーがファイアーウォールを突破して侵入して来てデータを抜き取って行くなんて事は殆ど無い。
一番データを流出させているのは、現場の人間なのだ。
そのデータにアクセス出来る立場の人間が買収されてデータを売ってしまうとか、または技術者の引き抜き等で漏洩するケースが大半を占める。
人間の研究者を使っている限り、ここが最も脆弱なセキュリティの穴なのだ。
麻野が何処かへ行ってしまって一人取り残された
最初は九人でスタートした筈だが、気が付くとパッと見ただけでも百人位はスタッフが働いている様に見える。
職員も増える度に入出権限を与える為に呼ばれて出かけて行っていた様だ。
今では立派な会議室や休憩室、娯楽室等を備えたSFチックな空間と成ってしまっている。
何かに似ているなと思ったら、テレビでよく見る東証ARROWSのマーケットセンターにも似ている気がする。
物珍しそうな顔をして見回していたら、麻野が戻って来た。
「どうした? 何か珍しい物でも有ったか?」
「てゆーか、いつの間にかこんなに成ってて驚いているのよ」
「あれ? お前はここ来るの初めてだったか? あ、そうか、何時も手伝ってくれてたのは優輝の方だけだったか」
「一番最初の何も無い時以来よ。本当に秘密基地っぽく成っちゃって驚いているわ」
「そうか、今ではここだけで国内外のデータの集中管理も出来るし独自の外交能力も備えている、ある意味外務省と内調を合わせた様な機能も持っているぞ」
「本当に驚いたわ」
「それだけ重要な役割という訳だ。そうそう、
「びっくりの早さね」
「それで、もう一度向こうに行ってもらう事に成りそうだ」
「飛行機で?」
「いや、空間通路で構わないとさ」
そんなわけで、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハロー、デクスター。はい、これうちの農場で採れた南国フルーツの詰め合わせ」
「あら嬉しい、私フルーツ大好きよ」
「それで、研究所を拡張空間内に新設する事に決まった訳だけど、入り口の設置場所はどこにしたら良いのかしら?」
「付いて来て、一つはこのビルと、もう一つシリコンバレーの方の会社とも繋げて欲しいの。あ、それと私の事は今度から
「オーケーよ、ディーディー」
それが済むと直ぐに空港へ向かい、プライベートジェットでアメリカの反対側の西海岸へ飛んだ。
そしてそちらに在るデクスターの所有する別の会社、メタワイズ社へと向かった。
こちらの会社は広大な敷地に低層の巨大な建物の社屋で、研究施設と工場の両方を備えた謎の秘密基地みたいな所だった。
こちらでも何重ものセキュリティドアを潜り抜け、最奥の指定された壁へ拡張空間の扉を設置する。
その扉を入り、ワシントンDCの方の空間と接続し、奥に作ったもう一つの扉は日本の
これで日本の研究室とアメリカの研究所が結ばれた。
後は空間内に日米の研究員が使う研究所を設置して資材や装置を搬入するだけと成った。
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