第137話 神管
東京に人も会社も一極集中してしまうのは、何故だろうと考えた時、まず思い付くのが交通の利便性だ。
もう一つは、東京に本社が在るというステータス。
それさえ除外すれば、地方の田舎の方が広い土地は在るし地価は安いし税金も安いしと良い事尽くめだと思うのだが……
空間通路はその問題を一気に解決してしまう技術なのだと
日本国中全ての土地が、それがどんな山奥だろうと離島だろうと、東京駅まで徒歩一分という好立地条件に変わってしまうからだ。
しかし、逆にデメリットを言えば、既存の不動産業も交通インフラも輸送業も一気に破壊しかねない危険性も有る。
当然それらの業種に関わっている人達からは猛反発を受ける事は、簡単に予想出来た。
「おい、例の通路の一般開放が試験的に解禁に成るぞ」
「遂にですか!」
「え? でも仕様を固めるのに一、二年掛かるって言ってませんでした?」
「
空間通路の一般開放については、お国の偉いさん達が結構な時間を掛けて話し合ってくれていて、社会への影響も含めてメリットデメリットを洗い出していたのだが、頭の中で考えているより実際に運用してみないと分からない部分も多いよね、という事に成ったそうだ。
「ただ……」
「ただ?」
「出入口を破壊してしまう事は可能なんだそうだ」
「いや、無理でしょ。あれはバリアと同じ空間境界面なんだから」
「正確に言うとな、出入口を張り付けてある土台の壁を壊してしまうと、出入口も一緒に壊れるというか、無くなるみたいな事を言っていたな」
サマンサのコートに付けた収納空間が外れて落ちた事が有ったが、ロデムの拡張空間も土台の壁の方を破壊してしまえばやはり外れてしまうのだろう。
「ああ、その問題なら出入口が閉じるだけで内部空間には影響無いので、サルベージ可能ですよ。シェルター空間の場合、テロや災害で出入口を全部破壊されても内部は潰れないので安全は確保出来ます。ただ、発見されなければ永遠に中に閉じ込められたままに成ってしまいますけど」
「通路なら反対側にも出入口が在るので、閉じ込められる心配は無いですよ」
例えば東京と大阪で同時に出入口を破壊されでもしない限り、閉じ込められる心配は無いだろう。
「部屋だったら、出入口を複数個所設置を義務付けるとか、テロ対策なら何処か安全な場所に出られる秘密の非常口を作って置けば解決ね」
拡張空間部屋の場合はこう、通路の場合はこう、という仕様を野木がささっと纏め、各関連部署へ送信していた。この人仕事が恐ろしく早い。
「じゃあ、後日お前等にはどこそこへ通路を設置してくれという依頼が来ると思うが、その時は宜しく頼むよ」
「分かったわ」
「それと、言って無かったが、うちの部署の呼称が決まったぞ。今迄お前達の事を
「そんな呼ばれ方してたの? 私達」
「まあ、未確認だった頃の大雑把な呼称だ。今は存在がはっきり確定したからな、うちの部署の名称も『宮内庁外局神祇保護管理室』と成った」
「長いわ。それと、神祇って部分に異議を申し立てたい」
西洋の神と日本の神では概念がかなり違う。
日本の場合は、超常の者は全て神なのだ。
だから、天使も鬼も悪魔も妖怪も妖精も精霊も怨霊も、更に言えば、台風や火山の噴火等の自然災害も、ヒグマやオオカミと言った強い動物も、人間の力では抗えない程強い物は全てひっくるめて神と呼んでいる傾向がある。
そこに善悪は無く、強い神か弱い神か、乱暴なのか気難しいのか、人間の事が好きか嫌いか程度の違いでしか無いのだ。
だから、優輝と
「略称は、
「じゃあ、神管で」
「ディプロは無視か」
「内調だって誰もサイロなんて呼んでいないでしょう?」
「確かに。ははは」
神管は、宮内庁の下部組織では有るのだが、それは書類上の位置付けでしか無く、外局なので完全に独立した組織と成っている。
なので、政府からも親組織からも何事も指図されないし干渉も受けない。
外国から貸してくれとか、もっと強硬に差し出せ等と言われても、例え日本政府が圧力に屈して命令を出したとしても、突っぱねる事が出来るのだ。
だって、人間が神様に命令する事なんて出来ないのだから。
その為の宮内庁外局管轄であり、神様設定なのだ。
その神管が音頭を取り、国交省と文科省と経産省と政府の人間とで話し合い、空間通路はお試し運用と成った訳だ。
今現在設置してある、札幌、仙台、東京、大阪、福岡、沖縄を結ぶ通路を再編成し、東京を中心に放射状に通路を結ぶ事にした。
東京側の出入口は、東京駅丸の内側の地下通路、あのいつも閑散とした感じの地下通路の壁面へ大きな出入口を作る。地方側は、駅の大きな何も無い壁を利用させてもらう。
多分、その区間を就航している旅客機の国内便は壊滅的打撃を受けるのだろうが新技術とはそういう物だ。レガシーは駆逐されて行くのだ。
とはいえ、急激に行われるのは
当面通行は歩行者のみとし、自動改札と同じ通行ゲートを設置して通行料金を徴収する。
売り上げは、各鉄道会社の駅壁面利用料を支払い、残りを関係各所で功績に応じて分配される。
これにより、神管は莫大な特別会計歳入を手に入れる事に成った。
そして、異世界堂本舗にはその約半分が支払われる。
年間にして、うん兆円規模の事業であった。
工事費ゼロ円、メンテナンスフリーで日本から人間が居なく成らない限り、永久に稼ぎ続けるシステムである。
空間通路の設置により、明らかに競合する既存の国内航空機路線、新幹線、高速道路、リニア計画にどのような影響が出るのかを追って調査をしなければ成らないだろう。
更に都心部から地方へ人が流出するのか、はたまた逆に地方から都心部へ人が流入してしまうのか、その検証も必要だ。
「思うんだが、あの空間を土地として売ったらとんでもない利益が上がるんじゃないのか?」
「そりゃあ売れるとは思うけど、東京の地価が暴落するわよ?」
「うん、まあそれは地主が黙っちゃいないだろうな。わはは」
「それよりも、私は地方を活性化させたいのよね」
「ふうん、結構日本の為に考えているんだな」
「あたりまえでしょ!」
何気無いやり取りだったが、日本の利益を考えているこいつらを全力で守らなければ成らないと、麻野はその時思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この拡張空間通路の試験運用に際し、とうとうと言うか案の定と言うか、その存在が外国へバレてしまった。
遅かれ早かれバレるだろうなとは麻野も考えては居たのだが、想像以上に遅かったという感想だ。
麻野は内調に居た時代から、実はこっそりと
しかしそれは、
この監視は当初はバレなかったのだが、新婚旅行のホテルでは遂にバレてしまった様だった。
その監視の過程で、ちょこちょこ何やら怪しい人物が動いている事は把握していたが、その殆どがゴシップ紙の取るに足らないメディアだったので、敢えて放置していた。
取り締まればかえって興味を引いて何時までも纏わり付かせる結果に成っていただろう。逆に何も掴めなければその内諦めて居なくなる筈だと考えたからだ。
怪しい者はその程度しか内調も把握していなかったのだが、流石に空間通路みたいな物を一般に公開して使用させるとなれば、バレない筈は無い。
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