第133話 御崎桜
あの騒動から数日後、アキラは念願の魔法式がやっと手に入ったので、ウキウキで研究所へ籠りっきりに成ってしまった。
ユウキはというと、久しぶりにのんびり生活を満喫しようと、裸族の本領を発揮して衣服を全て脱ぎ捨て、ロデムと一緒に小川で水遊びをしていた。
するとお隣さん、つまりサマンサの庭の方からドーンという大きな音が聞こえた。
そういえばその境界の扉は、呼び鈴を付ける為に音は素通しに成っているのだ。
アリエルが頻繁にサマンサの所へ遊びに来る様に成ってから、お隣さんはまるで自衛隊の演習場の様な有様なのだ。
女性なのだから、もっと草花を愛でたり優雅にお茶でも飲んだりして過ごせば良いのに、何故か二人は熱心に新しい魔法式での魔法の試し打ちに余念が無い。
アリエルはもっとおしとやかなお嬢様だとばかり思っていたのに、とんだ見込み違いだ。
それともサマンサに感化されてしまったのだろうか?
暫くして、サマンサの庭との間の扉がガチャリと開き、ずぶ濡れの二人が入って来た。
「なーにやってるの、二人共」
「魔法を試射すると必ず池に落ちるのよ」
『陸側に向かって撃つと、空間の壁が在るから爆風と衝撃波が跳ね返って来るんだよ』
「せっかくの綺麗な庭が滅茶滅茶に成ってるんじゃない?」
「だからなるべく被害を最小限にしようと思って、同じ方向にばかり撃ってたんだけどなぁ……」
「学習しようよ」
サマンサの庭の方は本物の土を入れたり植物を植えたり魚を放したりして作られているので、池に落ちると結構ドロドロに汚れてしまう。
なので、ロデム空間の方へやって来て清流で汚れを落としたいとの事だった。
ここには女しか居ないという事で、全員素っ裸に成って水浴びを開始。
水温は温水プール位の温度なので、なかなかに快適だ。
ロデムは中性なのだが、見ようによっては女性にも見えるからまあ良しという事で、誰も気にしていない様だった。
第三王女のアリエルは、一見気品のある淑女なのかと思っていたのだが、流石にサマンサの親友と言うだけあって、なかなかのお転婆の様だ。
服の泥汚れも落とし、花畑の上に広げて干していると、ロデムが空調の温度を少し上げて微風を当ててくれた。
そして、皆で水で遊んでいると、そこへビベランが入って来た。
「ちょっとユウキ―! あ、あらっ? 天使がいらっしゃる! ふ、ふおおおぉぉぉ!!」
「きゃぁっ! ど、どなたですの?」
アリエルはいきなりの
うっかりビベランの通行許可を解除するのを忘れていた様だ。
それを言うと、『やだー! やだー! 私もここに来たい!』と駄々をこね始めたので、仕方無しにビベランだけは許可する事にした。
「ビベラン、ここは裸がルールだからね!」(そんなルールは無い)
「え!? そ、そんなルールなの? 参ったな、こんなおばちゃんの裸見たって楽しくは無いでしょうに……」
とか言いつつ、いそいそと服を脱ぎ出した。
おばちゃんと自分では言うけれど、その体はなかなかのものでした。
何よりこの中では一番胸が大きい。
ユウキは、自分が男の時で無くて本当に良かったと思った。優輝の時だったら、ちょっと下の方がヤバかったかも知れない。
サマンサやアリエルでは大丈夫なのかと言えば、やっぱり人間とは違う種族なんだなーと思わされるおかげで、それ程興奮はしない。
なんというか、獣人よりもエルフの方が種としては人間よりも遠いのかも知れない。
最近の小説や漫画では巨乳エルフなんて良く目にするけど、残念ながらこちらのエルフさんは、昔ながらの伝説に有る様なオーソドックスなエルフさんで御座いました。
長身でスラっと細身で胸はささやかなんです。色素も殆ど無い様で、肌も髪も目も白いし、手足や首は人間より少し長い様に見える。そして、定番の耳はとんがっているが、それ程長くはない。
良く言えばスーパーモデル体型、悪く言えばやせ過ぎの虚弱体質という感じだ。
人間の考える様な性的魅力はかなり希薄なのだ。
優輝の男目線で見たとしても、あまり琴線には触れなかっただろう。
「ところで、ビベランは何しに来たの?」
「あ、そうそう! また手紙で問い合わせが来たのよ! って、あら? これって……」
小川の川底から小石金を一つ拾い上げた。
「ちょっと待って! これって金なんじゃないの!?」
「そうだよ、金だよ」
「えっ、えっ!? そこにも、あそこにもある!」
ビベランもサマンサもアリエルですら興奮して金を拾い出した。
「それ、うちのなんだけどなぁ…… まあいいか、今日だけは好きなだけ拾っても良いよ」
「「「やったー!」」」
サマンサはともかく、アリエルはお姫様なのに嬉しいのだろうか?
まあ、苺狩りみたいな感覚なのかも知れない。
「それでさ、その手紙には何て書いて有ったの?」
「あ、いけない。欲に目が眩んで目的を忘れる所だったわ」
手紙の内容はと言うと、ザオ国のオーノ商会から、そちらに黒髪黒目黄肌の若い男女が所属していないかという問い合わせなのだそうだ。
「ザオのオーノ商会? はて? ザオにはほんのちょっとの間しか滞在していなかったからなー…… もしかして、センギからザオにもあの例の一件で手配が回っていたから、それが遅れて伝わって来たんじゃないの? それか緊急で害獣避けが欲しいとか位しか思い当たらないんだけど」
「どうもそのどれでも無い様よ。センギの時みたいな商売という訳では無く、本当に大事な大事な恩人を探しているって書いてあるわ。かなり深刻な内容みたいね」
「恩人? ザオでは本当に誰かと関わったと言う様な事はー…… あ!」
「何か思い出した?」
「うん、唯一関わった人と言えば、ある大店の女将さんなんだけど、名前は聞いて無かったな…… その人、同郷出身だったんだよね」
「じゃあそれじゃない? えーと、差出人の名前は、オーノ・ヒロミだって」
「うわ、間違い無いや。それ、私の国の人の名前だもん」
「ねえ、その人に会いに行く時にさ、私も一緒に連れて行ってくれない?」
「また商売の話でしょうー」
「まあね、外国の大店とは出来るだけコネを作っておきたいのよ」
「うーん、どうしようかな…… 多分、今回は結構センシティブな話な気がすると思うんだ。商売人を連れて行くと、気分を害されるかもよ?」
「そっかー、残念」
「向こうの人ともっと仲良く成ったら取り持ってあげるよ」
「ほんと!? 約束よ!」
「その代わりと言っちゃ何だけど―、こちらのアリエルはエルフの国の王女様なのよ。どう?」
ビベランの目がキラーンと光った。
アリエルはびくっとした。
他国の姫様を
アリエルがまるで肉食獣にロックオンされた子ウサギの様だ。
そちらの方では勝手に話が弾んでいる様なので、ユウキは放って置く事にした。
あまりあちこちの案件に首を突っ込んでも疲れるだけだから。
と、その時にユウキのスマホが鳴った。
日本側の研究所に行っていた
「もしもし、
「それがね、異世界から救出した女子高生居たでしょう? あの
「へえ、名乗らなかったのに自力で探し当てて来たんだ? やるじゃん。それで老夫婦というのは?」
「ちょっと込み入った話なの。一回こっちへ来れないかな?」
「分かった。じゃあ自宅の居間で、はい」
ユウキは電話を切ると、皆に服を着る様に言った。
サマンサとアリエルの服は丁度乾いた頃だった。
「今、アキラから連絡が有って、直ぐ行かなければ成らなくなっちゃったんだ。商談はサマンサの庭の方でお願いしていいかな?」
「ええ、良いわ」
「じゃあ、出かけて来るから。門に鍵は掛けないから、ビベランは帰りたい時にそっちの扉から何時でもどうぞ」
「分かったわ」
「じゃあ」
全員サマンサの庭の方へ移動するのを確認して、ユウキはロデムの方へ顔を向けた。
「じゃあロデム、ゲート潜るよ」
『了解だよ』
ロデム空間を出て、自宅玄関へのゲートポイントである印の上でゲートを開き、日本の自宅の玄関ホールへ出る。
そして、居間のドアを開けると、そこには既に
「お待たせ―」
部屋に入ると、お客さんの三人は立ち上がって優輝に頭を下げた。
優輝は女子高生の方へ微笑むと、老夫婦の方へ向き直った。
「えっと、もしかしてオーノさんのご両親ですか?」
老夫婦は一瞬びっくりした顔をしたが、普通に推理すれば分かるだろう。
何故なら、女子高生のご両親だとすれば歳を取り過ぎているのだから。
とすれば、該当するのはオーノさんの手紙を受け取ったご両親しか居ない。
その深刻そうな顔を見れば、まず間違ってはいないだろう。
「申し遅れました、私は
向こうの世界のザオ国のオーノ商会の女将であるオーノ・ヒロミという女性の、日本での本名が
事の経緯を順を追って説明すると、異世界から救出した女子高生こと
優輝と
そんな時、そのニュースを見ていた大野さんのご両親は、同じ場所で行方不明に成った自分達の息子の事に付いて何か分かるかも知れないと感じていた所、消息の一切分からなかった息子から一通の手紙が届き、驚いた。
手紙を読んでみると、その内容は驚くべきもので、普通の常識ならとても信じられないというものだった。
手紙の文字は、確かに息子の物で間違い無い。何故今に成ってこんな手紙をよこしたのだろう? 一体息子の身に何が起こっているというのだろう?
事の真意を測れずに不審に思っていたのだが、女子高生が発見されたタイミングと言い、何か関りが有るに違いないと思い、どうにかして彼女の連絡先を突き止め、会いに行って見た。
すると、彼女の口から語られた話は、驚愕の内容だった。
なんと彼女は一年もの間、異世界へ行っていたと言うでは無いか。
そして、向こうの世界で自分達の息子と会っていた。
こんな荒唐無稽な話を一体誰が信じると言うのだろうか?
しかし、老夫婦にはこの娘が嘘を言っている様にはどうしても思えなかった。
不思議な事に、息子からの手紙に書かれていた内容とも符合する部分が多い。
そして、彼女は、もしかしたらもう一度息子さんに会えるかも知れないと言う。
その手掛かりが有ると言うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます