第121話 魅せる魔法

 三人はロデムポイントの方へ帰り、さっきサマンサに見せて貰った色々な魔法を実演してみようと試みていた。


 「一番簡単なマジックミサイルから」

 「確か、身体から出したエネルギーの球を相手にくっつけて、導火線を引っ張って手元で火を点けるんだよね」

 「何でこんな面倒な手順を踏んでるんだろう? エネルギーのボールを直接相手にぶつければ良いのに」

 「初代アラミナスが考案した時には用途が違ったのかも知れないよ」

 「そうか。掘削工事の時の発破みたいな用途だったのかな」

 「かもね」


 しかし、ユウキもアキラも何度やってみても身体からエネルギーを放出するコツが中々掴めない。

 手元で魔法円を一所懸命に操作して向こう側の事象を操作しているというか、手元に幾ら力を込めようが向こう側に力が全然伝わらないというか……

 それはまるでゲームセンターのクレーンゲームでもやっている様なもどかしさを感じていた。

 もういっそ、向こう側へ手を伸ばして直接掴んでやりたい衝動に駆られる。


 『いや、向こう側を直接操作して構わないよ?』

 「え?」

 「いいの!?」

 『誰も駄目だなんて言って無いよ』


 思い込みって怖い。

 アキラもユウキも、エネルギーを直接見て操作出来るのだった。

 魔法円による魔法の行使は、それが出来ない人用のマニュアルなのだから。


 「むむむ…… じゃあ後は、身体からエネルギーを放出するコツだけか」

 『いやそれもエネルギーを直接弄れない人用のやり方だから』

 「ええー……」

 『エネルギーなんて、そこら中に幾らでもある質量から取り出せば良いよ』

 「もうそれ、サマンサに魔法を習いに行かなくてもロデムに直接聞けば良かっただけじゃん」


 二人は思わず地面に両手を着いて、ガックリorzの姿勢をしてしまった。


 『大丈夫?』

 「うん、大丈夫。ちょっと精神にダメージを負っただけだから」

 『それ大変だよ! 治してあげるよ!』

 「う、うん。アリガト……」


 そうと分かればもう一度意識をリセットしてやり直してみる。


 「じゃあ、あそこに落ちている小石をエネルギー解放してみる」

 『うん、良いけどあのサイズだと水爆規模の爆発するよ?』

 「えー! じゃあどのサイズならあの時のマジックミサイル程度の爆発で収まるの?」

 『そうだなー…… 握り拳位の体積の空気で良いよ』

 「それで良いの? それじゃそこらじゅうで爆発させ放題じゃない?」

 『そうだね。でも、日常生活で爆発させたい場面ってそう無いよね?』

 「仲の良いカップルを見た時だけだね」

 「独身時代にこの能力持って居なくて良かったね」

 『そうなの?』

 「冗談を言いました、御免なさい。嫉妬でそういう比喩表現が有るの」

 『ボクには嫉妬と言う概念が無いから良く分からないや』


 とはいえ、ロデムに感情が無い訳では無いんだよね。

 身内であるユウキやアキラに対する侮辱や暴力に対しては尋常では無い怒りを示すのだから。


 まあ、その話はおいといて、マジックミサイルを試してみる。


 ちゅどーーーん!!


 ちょっと離れた場所が爆発した。

 だけど、何か魔法っぽくない。

 つまり、つまらない。


 「いきなり前兆も無く爆発するのって、回避不可能だよね」

 「戦闘なら強いかも知れないけど、魔法っぽくない」


 そうなのだ。魔法っぽいというか、マジックミサイルを標榜するなら手元から何かを発射して飛ばさないと成らないのだ。じゃないと、『ミサイル』とは呼べない。

 何かを飛ばさないと敵をビビらせる事が出来ないではないか。

 ビビらせる必要が有るのかと言えば無いのだけど、相手をひるませるとか威嚇するという効果は有るだろう。


 サマンサがやっていた様に、ホーミングミサイルって言うのも相手を脅かす為の手法の一つなのだろうけど、戦闘だったら避けられない様に前兆無しに敵の正面で爆発させた方が効果的だろうと思うのだが、どうなのだろう?


 更に言えば、必殺を目指すなら身体の内部で爆発させれば確実だよね。

 更に更に言うなら、アキラやユウキが以前からやっている様に、脳から流れる神経系を切断してしまえば一発だよね、と。


 でも、そうやってしまうと魔法が詰まらない。

 魔法らしさが無いし、醍醐味も無い。

 他人にも凄さが伝わらない。

 なにより、本人が一番詰まらない。

 やはり、他人に対するデモンストレーションの効果ってあると思うし、スゲーこいつヤベーと思わせたいし、俺つえーも実感したい。

 念じただけで目の前の敵がパタリと倒れて終了、では詰まらな過ぎるのだ。


 やはり実戦では相手を威嚇してひるませ、周囲の他の敵にこいつに無暗に手を出したらヤバいぞと思わせる効果は絶対に必要なのだろう。

 虫や動物の警戒色みたいに、相手に攻撃を思い止まらせる脅しの効果は大事なのだと思う。


 「電撃だってさ、手元から相手にバリバリって放射するからカッコイイのであって、向こうの方に居る敵が勝手に感電して死んでも、見ている人には何が起こったのかさっぱり分からないよね」

 「相手に向って手をかざす位はしてもいいかも」

 「やっぱりその程度しかする事無いのか―……」

 「それか、事前に何かの派手なエフェクトを別に作って見せるとか?」


 もしかしたら、エルフの始祖さんも似た様な悩みに突き当たって、今の魔法を考案したのかも知れない。

 だとしたらその始祖アラミナスさんはかなり頭が良かったのだろう。

 こんなに幾つもの『魅せる』魔法を考案したのだから。

 『見せる』じゃなくて『魅せる』という所がポイントね。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 まあ、そんなこんなで遊んでいたら、月一の納品の日に成ってしまったので、イスカ国へ行った。

 今回はホダカお爺ちゃんもユウ国の畑の様子を見に行きたいというので一緒にやって来た。


 「あらあらホダカさん、ユウキとアキラもいらっしゃい」


 遂にユウキとアキラは『も』の立場に成ったらしい。ミバルお婆ちゃんにとっては、ホダカお爺ちゃんの付き添い程度の認識なのだろう。


 「じゃあ、私達はノグリ農園の方へ行ってくるから、後は宜しくね」


 ミバルお婆ちゃんは、ホダカお爺ちゃんの手を引いて拡張空間通路を通って農園へ行ってしまった。

 農園の隅には小さな小屋が建てられていて、そこへ拡張空間通路は繋がっているので、行き来は簡単だ。


 「ああ、まだ納品して無いのに」

 「ブロブ避け粉でしょう? その隅の所に積んでおいて。後で清算するわ。お母さんにも困ったものね」


 ビベランはすっかりあきれてしまっている様だ。

 ミバルお婆さんは、今日はお店は休みなのだろうか?

 一商会員が会長のやる事に一々意見しても仕方が無いのだが、ちょっと気になる。

 まあ、商会の方針で会長に意見出来るのはビベランとラコンさん位のものなのだろうけど。

 ラコンさんは今居ないし、ビベランは他の女性部プロジェクトの方でとても忙しそうだ。


 「うちの方からは、新たに四店舗出店するので、そこで使う冷蔵庫と食器と電熱コンロを注文したいわ。未だユウ国とカグ国の物件が決まっていないので、発注はもうちょっと待ってね」


 女性チームの出店の話も順調に進んでいる様だ。


 「あ、そうそう! 忘れる所だった! センギ国のコヴォヴィマテリア商会から返事が来ているんだったわ」


 ビベランは一旦事務所へ行って巻紙を持って戻って来た。


 「でね、この手紙によると、名前は分からないが、以前にコヴォヴィマテリア商会の本社を訪ねて来た、うちの商会に所属していると名乗った若い人族の二人の男女を是非紹介して欲しいとの事らしいのよ。賓客ひんかく待遇でお持て成しさせて頂きます、だって。何やらかしたの?」

 「お店を壊しちゃった以外思い付かないんだけど」

 「でも、怒っている風では無くて、招待したいと言って来ているのよね。で、理由を尋ねてもそれは書いていない。紹介してくれの一点張りなのよ。まさか、うちと競合する商品を見せてないでしょうね?」

 「うーん、競合すると言えば、ブロブ避け粉とドラゴンズピーだけなんだけど、あの武器屋には見せてない筈なんだけどなぁ……」

 「見せたのね?」

 「店で見せた訳じゃないよ。その国から20km位離れた所に在る関所村で営業して来たんだ。そしたらそこで武器屋の人が俺達を探しているって話を聞いて、店の奥の部屋を壊して来ちゃったから怖くなって逃げちゃった」

 「逃げたの?」

 「逃げたって言っても、修理代の金貨二十枚を置いて来たんだよ。でもその後で探してるって言われたから、足りなかったのかなと思って」

 「ふうん…… どうも向こうの真意が分からないわね。理由を聞いているのに微妙にはぐらかしている感じだし。いいわ、行く時は代表として私も付いて行きます。トラブルならうちの商会で当たるからあなた達は大船おおぶねに乗った積りで居なさい」

 「うん、大船おおふなに住んだつもりで任せるよ」


 どうやら怒って指名手配されているという訳では無さそうだが、ユウキ達はちょっと腰が引けてしまっている。

 これは一度行ってきちんと話を聞いて来た方が良さそうだ。

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