第119話 サマンサ
ピンポーン♪
「はぁーい!」
「こんにちは、森の魔女さん」
「あらいらっしゃい。あら? その後ろの方は?」
「友達のロデムです」
『ロデムです。初めまして、森の魔女さん』
「私、サマンサって名前が有るのよ。そう呼んで下さると嬉しいわ。それにしても、あなたの顔、何処かで見た覚えが有る様な…… まあいいわ! 上がって上がって!」
「約束の魔法を教えてもらいに来ました。これ、お土産」
あれから数日後、アキラとユウキとロデムの三人は、森の魔女のサマンサの家を訪れた。
お土産は、近くのスーパーで買って来たコージーコーナーのイチゴのショートケーキだ。
サマンサは、直ぐに紅茶を淹れてくれた。
「うまっ! 何これ!?」
「気に入ったならまた買って来るよ」
「お願い! 絶対!」
エルフって、動物性のクリームとか食べても大丈夫なのだろうか?
事前に確認しないで買って来てしまったけど、美味しそうに食べているので大丈夫かな?
「あ、そう言えばエルフって肉とかミルクとか大丈夫なんだっけ?」
「あまり食べないけど、まあまあ大丈夫よ」
ミルクは乳糖分解酵素を持っていない人が食べるとお腹壊したりするからちょっと心配だけど、後で体調の確認をしておこう。
もぐもぐタイムが終了し、本題の魔法に関しての座学に入る。
「あのさ、マジックデトネーションの時、こういう図形が見えたんだけど」
サマンサはアキラが紙に描いた図形を見て、ハッとした顔をした。
それは、マジックデトネーションの魔法式、魔法円だったからだ。
一回見ただけでその図形を記憶していたアキラも凄い。
サマンサは、本棚から革表紙の分厚い立派な本を持って来て、あるページを開いて見せた。
「これがマジックデトネーションの魔法式」
「似てる、かな。細部で違う所があるみたいだけど……」
「魔法を唱える時に、この魔法式を頭の中でイメージ化するの。正確にね」
「これって、魔法毎に図形が違うの?」
「そう、こっちがマジックミサイルの魔法式。かなり簡単でしょう? だから簡単に発射出来る代わりに威力もそれなりなの」
「ふうん…… じゃあこれを沢山覚えれば、沢山魔法が使えるって事なの?」
「そういう事に成るわね。発動するにはそれなりに魔力量が必要だけど」
つまり、魔法を使うには記憶力と魔力が必要という訳だ。
「でもさぁ、この魔法円って、何でこんな文字とか記号とかで出来てるの?」
『本当は、アキラの描いたこっちの方が正確なんだと思うよ。本の魔法式は、覚えやすい様に文字や記号を組み合わせて似た図形を描いてる。キミ達の知っている言葉で言えば、アスキーアートみたいな物だよ』
「アスキーアート! これが?」
正確性は無いけど、大まかな形は何と無く分かる、そんな事を言っているのだろう。
「えっ? ちょっと待って、魔法円としては実はこっちの図形の方が正確だって言うの?」
『そうさ』
「むむ…… 信じられないわ。だって私達エルフは、何千年にも渡ってこっちで覚えて来たのに」
『じゃあ、論より証拠。こっちの魔法円でやってみてごらん?』
四人は家の外へ出て、サマンサはアキラの描いた魔法円をじっと見つめながら図形を記憶しようとしている。
「ちょっとこれをそのまま記憶するのは難しいわね。この濃淡も覚えなければ成らないのでしょう?」
『そうだよ。君の使っている魔法円は、そのグラデーションの有る図形を白黒の二値化して文字や線を似た形の部分に当て嵌めて書き直したみたいな感じかな。覚えられなければ、その図を見ながら魔法を唱えてみると良いよ』
「え、ええ…… 本当かしら。いきます! ちょっと離れてて」
サマンサは、図形の描かれた紙を目の前に突き出し、何かをブツブツと唱え始めた。
ユウキ達の目には、サマンサの身体から再び光る
前回の時とは比べ物に成らない位にハッキリとした大きな図形が、サマンサから前方へ走ると、50m程先で収束し始め、周囲が真っ白に成る程の眩い光を放つ。
「マジック・デトネーション!!」
ギュバッ!!
そんな様な音がしたと思う。
爆発より先に衝撃波が球形の雲を作り、遅れて球状の爆炎が発生し、その雲を突き破って膨らんで来る。
衝撃波が四人の立って居る池のほとり迄到達し、サマンサは池の中へ吹き飛ばされてしまった。
ユウキ達三人は、バリアのお陰で何とも無い。
「ぶはっ! なな、何が起こったの!?」
「大丈夫ですか? さあ、手に捕まって」
アキラがサマンサに手を差し出し、池から引き上げた。
爆心地の様子はと言うと、地面が抉れ、円形の窪地に成ってしまっている。
「あー! 私の家がー!」
サマンサの池の島の上の家は、大部分が吹き飛ばされ、島の向こう側の水面に板切れが浮かんでいるのが見える。。
「あああ、私の大事な魔導書がー!」
頭を抱えてしまっている。
慌てて橋を渡って家へ向かおうとしたのだが、橋も真ん中辺で崩れてしまっていて、それに気づかず再び池へ落ちてしまった。
「透明の橋は自分でも見えないの?」
「ふええん」
再びアキラに助けてもらっている。
多分見えていないから、蓮の葉を目印に置いているのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何でこんな事に成るのよ!」
『さっきのでこの魔法の本来の威力の20%位かな』
「うそでしょー!?」
まだ魔法円の完成度が甘かった為に、あれでも威力控えめだったらしい。
「まるで核爆発みたいだった」
『うん、大体合ってる』
「え?」
「ええっ?」
「「うそでしょー!!?」」
ユウキとアキラは同時に二人でハモってしまった。
まさか核爆発の魔法式だったとは、驚きだ。
魔法名を『マジック・ニュークリア・デトネーション』に変更して頂きたい。
正確には核反応でエネルギーを引き出しているのではなく、そこら辺に在る地面の土とか空気とかの原子の質量をダイレクトにエネルギーへ変換しているだけなんだそうだ。
「……だけって、ねえ……」
一点から発生した膨大なエネルギーは、電磁波として膨張拡散して行く。電磁波の一部が人間に熱や光として捉えられているだけなのだ。
電磁波は全帯域が放射されているのだが、可視光線領域の波長が光として、赤外線領域の波長が熱として感じられているに過ぎない。
だから、感じられない領域としてはエックス線やガンマ線も紫外線も強力に放射されているので非常に危険な現象であり、危険な魔法だと言う事は間違いないだろう。
まあ、
それをこんな至近距離で撃たせるロデムさんって、お茶目さん。
サマンサは、池に落ちてしまったので熱線に焼かれずに済んだのだろうか?
『熱線や放射線はボクが防いでた』
「じゃあ、衝撃波も防いでよ!」
『それ、本当は術者が自分でやるべき事なんだけどな』
サマンサは口をパクパクしながら、二の句が継げない様だ。
確かに自分で放った魔法で自分が怪我してちゃ世話無い。
影響が軽微に成る程の遠くへ放つか、自分に防御の魔法を掛けるべきだったのだろう。
まあ其れはともあれ、無事だったのだから良しとしよう。
実はロデムは、サマンサがユウキとアキラに対して超危険な、普通だったら即死してもおかしくないレベルの魔法を放った事に対してちょっと怒っていたというのは秘密だ。
アキラとユウキとロデムの三人は、サマンサの家が吹き飛んで大事な蔵書が池に散らばってしまったので、それを回収したり家の残骸を片付けたりするのを手伝い、夜も更けて来たので一旦三人はロデム領域の方へ帰る事にした。
ロデム領域の方へ帰った三人だったが、アキラとユウキが日本側へ帰ろうと言うのに、ロデムはちょっと用事が有るというので、二人だけが日本の自宅へ帰り、ロデムだけが異世界側に残る事にした。
二人は、ちょっと珍しい事も有るなとは思ったのだが、ロデムは自由に動ける様に成ったのだし、何かこちらの世界でする事もあるのかも知れないと思い、あまり気にもせずに自宅へ帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深夜、ロデム領域の中で一人佇むロデムは、サマンサの方との空間の境界に設置したドアの呼び鈴が鳴ったのを確認した。
『いらっしゃい。来る頃だと思ってたよ』
「あら? あの子達は居ないのね?」
『居ないのを知って来たのでしょう?』
サマンサは、魔導書の一冊を持参して来ていた。
そして、あるページを開いてそれをロデムに見せた。
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