第118話 森の魔女

 「うーん、この館も本当は形が違うみたいだね」

 「うん、そこの入り口に見える所は実際は入り口じゃなくて、こっちの壁に見える方が玄関みたい」

 「ごめんくださーい!」


 見かけは立派なお屋敷なのだが、実際は小さな山小屋って所だ。

 二人はその本当の玄関を開け、大きな声で中に声を掛けた。


 「ギャー!! 何だお前達は!」

 「あ、怪しい者じゃ無いです。森の魔女さんに会いに来ました」


 家の中でゆっくりと寛いで紅茶を飲んでいた魔女が、びっくりして叫んだ。

 黒い服を着て、いかにもな姿をしている。


 「森の魔女さんに用事が有って……」

 「お前達、どうやってここに入り込んで来たんだい!」

 「森の中の道を歩いていたらですね、立派な門が在ったので」

 「あれれ? 隠蔽の魔法を掛け忘れちゃってたかしら?」


 森の魔女は、うっかり玄関の鍵を掛け忘れたのかな? みたいな顔をしていたが、気を取り直して再び魔女っぽい口調でお決まりのセリフを言い始めた。


 「おやおやー? 私の家に勝手に入り込んだのはどこのどいつだいー?」

 「あ、ミバルお婆さんに紹介状書いてもらってます」

 「少しは怖がるとかしろよ!」


 ユウキは、ストレージから魔女のテーブルの上に紹介状を出した。

 テーブルの上に急に出現したロール紙を見て、森の魔女は驚いていた。


 「え? あんたらも魔法使いなのかい?」

 「いえ、私達のは魔法とはちょっと違うみたいなので、本場の魔法使いにご教授頂きたいと思いまして」

 「はあ? 何を藪から棒に。大体、ミバル婆さんなんてあたしゃ知らない…… ああ、あの狸獣人一家か。確か十年位前に来たね。ちゃんと逃げ延びて元気に暮らしているのかい?」

 「イスカででっかい商会主に成ってるよ」

 「やるじゃないか。ふーん、あの時の生意気そうなお嬢ちゃんがアサでねえ…… あんたらの事をよろしくって書いてあるよ」


 森の魔女は、ミバルお婆さんからの紹介状を読みながらそんな事を言った。


 「よし、あんたらがどの位魔法を使えるのか見てやるよ。表へ出な」

 「だから、私達のは魔法じゃないんですって」


 家の外へ出て、見えない筈の池の上の渡し橋を躊躇無く歩いて行く二人を見て、森の魔女はがっくりと項垂れた。


 「自信失くすよ」


 三人は、岸の先に在る広場へ行き、森の魔女は二人と距離を置いて立った。


 「さあ、あなた達の魔法の力を見せてもらうよ。私の撃つ魔法を防いでご覧」


 森の魔女は、何やらブツブツと唱え始めた。

 ユウキとアキラの目には、何か光るもやの様な物が魔女の身体から立ち上り、それがユウキの所まで伸びて来るのが見えた。

 そして、ユウキの胸元に握り拳大の丸い塊と成って吸着した。


 「何だこれ?」


 ユウキはそれを埃でも払う様に手でパッパッと払ってしまった。

 払うとその塊は、煙の様に消え失せた。


 「行くよ! マジックミサイル!」


 森の魔女がそう叫んだが、シーンとして何も起こらなかった。


 「あ、あれっ? 不発?」


 魔女は不思議そうだった。


 「ユウキ、もしかしてアレ、払っちゃ駄目だったんじゃない?」

 「あっ、そうかも!」


 ユウキとアキラは、魔法の構築プロセスが見えてしまったので、どうやらそれを邪魔してしまった様だ。


 「おかしいなぁ? 暫く使ってなかったからなぁ…… もう一度行くわ!」


 また魔女が呪文をブツブツ唱え始めると、また魔女の身体から光るもやがスーっと伸びて来て、今度はアキラの胸元にさっきより少し大きめの塊が吸着した。

 その塊は、細い紐の様なもやのラインで魔女の手元まで繋がっている。


 「マジックミサイル!」


 魔女がそう叫ぶと、魔女の手元が光り、それがラインを導火線の様に伝ってアキラの方へ迫って行く。

 アキラは、横の方へ避けてみたが、塊は胸に吸着しているので、ラインを伝った光は当然アキラの方へ向かって来る。


 「はっはっは、無駄だ、誘導魔法なのだ!」


 どうやら魔女には光の塊やラインは見えていない様だ。

 見えない人には、魔女の手元から光弾が発射され、誘導弾の様にアキラの方へ向かって飛んで行っている様に見えるだろう。

 しかし、ユウキとアキラには、予めセットされた爆弾に導火線の火が迫って来ている様に見えている。


 そして、光弾がアキラの胸へ当たり、爆発を起こす。

 当然だが、バリアが発動し、アキラに怪我は全く無い。


 「ふ、ふんっ、なかなかやるじゃない」


 魔女はちょっと悔しそうだ。


 「じゃあ今度のこれはどうかしら? 死なないでよ!」


 今度はさっきよりも随分と長く詠唱を続けている。

 魔女の身体から水蒸気でも噴き出している様に見える程の光るもやが放出され、周囲に霧でも立ち込めた様に視界を遮ってしまった。

 魔女は、なおも詠唱を続けている。

 周囲のもやはフラクタル図形の様に濃淡を描き始めた。


 「ちょっと、あの図形って、魔法陣?」

 「いや、エネルギーの干渉縞がその様に見えているだけなんだと思う」


 その魔法陣に見える様な干渉縞が、ユウキとアキラの居る場所へゆらゆらと移動して来た。


 「マジックデトネーション!」


 魔女が叫ぶと、干渉縞を描いていたもやが一気に圧縮され、まるでもう一つの太陽が出現したかの様にユウキとアキラの間で輝いた。

 そして、その真っ白な領域が拡大し、二人を包み込んだと思ったら、衝撃波が発生し、激しい上昇気流が爆炎を真上へ押し上げる。

 衝撃波により一気に外側へ押しやられた砂埃は、次の瞬間には真空と成った中心へ吸い込まれ、向きを変えて爆発の中心へ逆流して行く。


 中心の輝きが消え、爆煙が収まって来ると、その煙の中に立って居る二人のシルエットが見えて来た。

 森の魔女は、がっくりと両膝を着いて崩れ落ちた。


 「これは、今まで私達が見た中で最強の攻撃かも?」

 「そうだね。この一撃だけならドラゴンの攻撃を超えていたかも知れない」

 「何なのよー。あなた達一体何者なのー?」


 ユウキは、人間でもこれ程の攻撃力を叩き出せるという事を知って驚いた。

 魔女の方も、今の魔法に耐える人間が居るという事に愕然としていた。


 今の魔法は恐らくは連発は出来ないのだろう。詠唱にも時間が掛かっている。

 引き換え、ドラゴンの方は一撃一撃の瞬間攻撃力はこれよりは弱いかも知れないが、ただ暴れているだけなので、時間当たりの与ダメージ量はドラゴンの方が遥かに高いと思われる。


 比べる物では無いのかもしれないが、もしもドラゴンに人間が対抗しようと思ったなら、この魔法を使える魔法使いを百人も集めて連続で叩き込めば意外と良い勝負になるかも知れない。


 「てかさ、今の殺しに来てたよね?」

 「ひいっ!」

 「今度は私達のターンという事で良いの?」

 「イキッってしまい、申し訳ありませんでしたー」


 森の魔女は、土下座をして財布を二人の前に差し出した。


 「お金は要らないからさ、私達に魔法と言う物を教えてくれない?」

 「えっ? それで良いの?」

 「最初からそう言ってたじゃん」


 見た感じ、魔法の仕組みはなかなか面白そうだ。

 自分の身体から放出したエネルギーを使って、それで事象を起こす。

 ロデムが操ったアキラが、身体からエネルギーの帯を出して対象の魂を吸い取ったのと似ているのかも知れない。

 それにここの空間も、ロデムの拡張空間と似ている。

 この二つの能力に何か関係性は有るのだろうか?


 「あのさ、今日はもう魔女さんも消耗しちゃったみたいだから、日を改めてまた来てもいい? 今度はお菓子とか持って来るよ」

 「え、ええ、それは構わないけど……」

 「じゃあ、空間を繋げさせてもらうね」


 アキラは、この二つの空間が同質の物だとすると、ロデムポイントの自分達の拠点と繋がるのではないかと考えた。

 スマホを操作してみると、案の定ドアを設置しなくてもそのままロデムポイントへ空間が繋がり、自由に行き来出来る様になった。

 ただ、かなり強引に繋がったみたいで、接続に少し時間が掛かった。接続境界面の形も何だか歪だ。後でロデムに修正してもらった方が良いかも知れない。


 「やっぱり想像した通り、この二つの空間は同じ物なんだよ」

 「うん、その通りみたいだね」

 「これはまあ、驚いたわ……」


 森の魔女は、自分と同じ魔法が使える二人を見て目をパチクリしている。


 「プライバシー保護の為に境界面に扉付けましょう」

 「そうだね。呼び鈴も付ける?」

 「え、ええ、有難う」

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