第109話 完全フレックスタイム
自宅に帰って来た優輝と
「お婆ちゃーん、
「おやおや! 優輝君と
「そうなんですか?」
「俺達、言われるが儘に座っていただけだから、事態を良く把握出来ていないんですよね」
「うん、スポットライトのせいで列席者席は全然見えなかったですし」
「そうなのかい? あたしゃテレビでしか見た事の無い様なお国の偉い人達を生で見ちゃって、そりゃあたまげたよ」
「あなた達の親御さん達も、料理には全く手を付けられない様な有様で、血の気が引いてしまっていて気の毒だったよねえ」
「そうなんですか!? 後で電話して様子を伺ってみます!」
「そうしなそうしな、何だか、ちゃんと帰れたのかも怪しい感じだったから心配だよ」
二人は、スイス土産の紙袋を縁側に置くと、直ぐに自宅へ戻り、両親へ電話してみた。
「もしもし? あ、お母さん?」
「ちょっと
電話を掛けて来た相手が
怒られたと言うか、根掘り葉掘り問いただされてしまった。
うちの娘はせっかく入った大学を中退して、会社を設立したまでは聞いていたけど、一体あれは何なのだと。
確か、政府機関と取引が有って、物販をしている様な事はチラッと聞いたかもしれないが、結婚式でスピーチしたあの御歴々は一体どういう事なのだと。
「う、うん、私もね、知ってる政府機関の人に相談して任せたら、あんな事に成っちゃって驚いているの」
「それにしたってねぇ、あんた……」
「あ、それから、私赤ちゃん出来たから」
「あらそうなの、おめでとうって! 何ですってー!!??」
しまったと思ったが、もう遅い。
「ちょっと! どういう事なのか説明しなさい!」
「勘違いしないで! 出来ちゃった結婚じゃないから! ハネムーンベイビーよ! 出来てたら良いなーって思っただけで、つい言っちゃった」
「そ、そうなの? あー、びっくりした。まあ浮かれている時期なのかもしれないけど、あのね、
「う、うん、御免なさい。気を付けます」
「とにかく、ああいった偉ーいお方達とお付き合いする様な仕事をしているなら、もっと大人の女性としてしっかりしなさいね!」
「はい、分かりました」
「全く、何時まで経っても子供みたいなんだから。元気にやっているなら良いわ。優輝君に宜しくね」
電話を切って、自分が親に何を報告してしまったのかを考えて
最初出来婚だと思われたみたいなので慌てて訂正したらそれがまたドツボにハマってしまったのだった。
うっかり初エッチで舞い上がって報告して来たとでも思われたのだろうか?
恥ずかし過ぎる勘違いだが、今更訂正も出来そうもない。
ふうっと溜息を洩らすと、隣の部屋で電話をしていた優輝の方も似た様な状況だったみたいで、スマホ片手にげっそりした顔をして出て来た。その顔を見て大体の事を察した。
「親に言い訳済んだ?」
「まあ大体……」
「私も」
「後、次は」
「麻野を問い質す!!」
「はい麻野」
「ちょっと麻野さん! どういう事ですか!?」
「ん? どうした? 新婚旅行楽しかったか?」
「ええまあ、あんな高級ホテルのスイート、有難うございました…… って、そうじゃない! 何なんですか、あの結婚式は!」
「ああ、その事に付いては謝る。出席したい人数を確認しようとしていたらな、我も我もと集まって来てしまって、断るに断れず。皆お前達とコネクションを持ちたがっているんだよ」
「私、挨拶に来た誰の顔も覚えて無いですよ?」
「まあそれは構わんさ、向こうにはしっかり印象付ける事に成功したからな。お前もこの前の国土交通省との会議で気が付いたと思うんだが、役所ってのは縦割りでな、横の連絡が通り難いんだよ。酷い所はお前の顔すら認識していない所も有った。だから、あの結婚式で一気に顔見せ出来たのは都合が良かったとも言えるんだ」
何だか、向こう側で政治的な思惑も絡んでいた様だ。
「そうですか、あっ、でも、何か、陛下とか言ってる声がチラッと聞こえた様な気がしたんですけど?」
「ああ、いらしてたぞ。ご挨拶も頂いたぞ?」
「ひ、ひええええ……」
「気が付かなかったのか?」
「スポットライトが眩し過ぎて列席者の方が全く見えなかったわよ! 何の尋問受けてるのよって感じだったわ」
「でな、お前達の処遇が決まったんだ。宮内庁内部組織の管轄に成るぞ」
「はあ? 私達、皇族でもお公家さんでもありませんけど?」
「政府内でもなぁ、何所がお前達の面倒を見るか揉めたんだよ。いつまでも
「皆で押し付け合ったって訳ですか」
「逆だよ逆! 皆うちに任せろと取り合いだよ」
「はあ……」
「だから俺がな、草案の取り決め通り『彼の者を利用しては成らない、支配しては成らない、搾取しては成らない。不可侵の存在にして、それを守り、下賜される恩恵を受け取るのみ』と一喝してやったんだ。そしたら、つまり神仏と同じって事か? じゃあ神を管轄する部署で良いだろうって事に成ったんだ」
「はあ? 何やってくれてんの? 私、そんな文言書いたかしら? アレンジしてない? それに神仏って……」
「まあ、多少はな。意図する所は一緒だ。お前達を国として国内外の敵から守るには、そう定義して置いた方が都合が良いんだよ。宮内庁は政治的に不可侵だからな。そこの内部組織と言っても、書類上の下部組織に位置するってだけで完全に独立した外局だから何処からも制約は受けないぞ」
「それって、私達が商売する妨げには成らないでしょうね?」
「それは心配無い。今まで通り好きに商売をしてくれて構わないぞ。後日引継ぎと顔合わせが有るからその時また連絡する」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日役所に婚姻届けを提出に行って来た。
保証人二人は、二十歳以上の成人なら誰でも良いとの事だったので内調の麻野さんと花子お婆ちゃんにお願いした。
「さて、面倒な手続きも終わった事だし、農業部門の面接を再開しましょうかね」
「優輝はここの所ずっとこっちで忙しくしてたのだから、向こうへ行って静養してて。私が代わりにやってあげる。大事な体なんだからね」
「はいダウト! 今は
『ふたりの体調管理はボクがしっかりやってあげるから心配しないで』
「凄いな、歩く人間ドックみたいだ」
「いいよいいよ、二人とも。島にはドアは設置済みなんだろう? じゃあ、あたしが一人で行って直接会って来るよ」
花子お婆ちゃんは、そう言って履歴書選考で絞った20人へ電話で連絡を取り、会いに行ってしまった。
たった一日で全島を回り帰って来たお婆ちゃんに、面接大変だったでしょう? と聞いてみたところ、色々な島を観光出来て楽しかったと言っていた。
流石に40代の身体なだけある。しかも、異世界間を何度か行き来しているので、魂も身体のエネルギー量も増えているからなのだろう。
そう言えば優輝はドアを設置しに行っただけで観光なんて全然しなかったなーと思った。
個人的に与那国島とか屋久島とか、ゆっくり観光してみたかったなと思った。
花子お婆ちゃんの面接の結果、即戦力として使える十二人を正社員として雇用。
残り八人は、希望が有れば仕事を覚えるまでパートタイムもしくはフルタイム雇用で働いてもらう事も出来ると提案したところ、全員がフルタイム希望したので、こちらも全員雇う事に成った。
フルタイムの人は、仕事を覚える迄の一年間働いてもらえれば正社員登用出来ると言う条件だ。
定年は無いが、65歳以上は嘱託雇用という事で、パートタイムと同じ扱いには成るが、希望が有ればいつまでも働いてもらっても良いですよというシステムに成る。
労働時間は、完全フレックス制。
一か月の労働日数二十日の場合は、総労働時間は160時間と成るが、それを自分の判断で好きな様に割り振れる。
例えば、ある一日を4時間だけ働いた場合、残りの4時間分を他の日に9時間労働の日を四日にしても良いし、10時間の日を二日にという様に自分で自由に割り振っても良い。
完全に一日休んで、他の八日を9時間労働という風にする事も出来る。
逆に、先に残業を2時間したなら、他の日を6時間労働にする事も出来る。
もちろん、月の総労働時間を超えた分には残業代が支払われる。平日は1.25倍、休日は1.5倍。
これを相手に伝えると、決まって嘘だと言う様な顔をするのだが、外資系の会社などでは良く有る雇用形態だ。
先進国の中で日本の労働条件だけがおかしいのだ。ヨーロッパの一日の平均労働時間は六時間だというのに日本は八時間労働だ。
成人男性の一日の労働時間は、なんとダントツ世界一なのだそうだ。
本当は異世界堂本舗も六時間にしたかったのだが、農業は何時何が起こるか分からないので、申し訳無いが八時間労働にさせて頂いている。
空間通路は、社員だけの入出権限を与える訳だが、通路内ににも機械式のゲートが設置される。
支給の社用スマホが入館証の代わりと成り、それをタッチする事で通過する事が出来る様に成る。
これは、国の方から無暗に無条件で一般人が通行出来る通路を設置してくれるなとお達しが出たからなのだ。
既存の交通機関の経営を破壊しかねないので、国の判断で徐々に時間を掛けて一般開放する積りらしい。
そういった実務的な運用の判断は、勿論国に丸投げだ。個人でやるには面倒過ぎるからだ。
そして、農場へ入るゲートで勤退を管理する。
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