第107話 結婚
「えーと、色々情報が多すぎて少し整理したいんだが、異世界渡航能力を持っているのはこちらの優輝君で、現在妊娠中だと?」
「そうね、整理する程の情報量では無いわね」
実際に付き合ってみれば、極普通に優しいお姉さんなのだが、初対面の人間には少々キツイ感じだと受け取られるきらいが有る様だ。
「それで、彼氏の方も同じ能力を持っていると?」
「渡航能力以外はほぼ」
「なんてこったい!」
麻野は
「何で今まで黙ってた?」
「あら、勝手に私だけだと勘違いしてたのはそちらですけど?」
「何だと? そんな事言った覚えは……」
「『君は関係無い。我々に用があるのは彼女だけだ。君は速やかに立ち去り、彼女の事は以後忘れて安穏に大学生活を送り給え』とかなんとか」
「くっ!」
「まあいい、我々情報機関が君の事を把握出来ていなかったのは、こちらの落ち度という事で良いだろう。まさか同じ能力者が二人も居るなんて思わないじゃないか。それが恋人同士だなんて誰が思う?」
「私も最後のカードとして取って置いた訳なんだけど、この告白は貴方を信用したからと受け取って貰って構わないわ」
「うむ、それは光栄な事なんだが、本当の所はどうなんだ?」
「ど、どうとは?」
「その最後のカードとやらを切らなければ成らない、何か止むに止まれぬ事情が出来たんじゃないのか?」
「……」
流石にエリート職員だ。頭が切れるし、こういった場面での交渉事はプロなのだ。
麻野は
しかし、麻野は優位を取ったからと言って、それをどうこう利用しようとはしなかった。
ふう、と息を吐き、ソファーの背もたれに体を預け、厳しい顔から一転柔和な顔に成って二人の話を聞く体制に成っていた。
「どうせまだまだ隠し事は有るんだろう? まあいいさ、その一つでも話してくれた事は有難い、礼を言うよ。詳しい事情は聴かないから、どうして欲しいのかを言ってくれ」
「有難う。いつも良くしてくれて私の方も感謝しているわ。お願いというのは、彼のお腹の中の子供の戸籍を生まれた時に取得して欲しいの」
「ちょっと良く分からないんだが、何で男の彼氏の方が妊娠したんだ?」
「これも言って無かったんだけど、異世界側では私達の性別は反転するのよ」
「えっと、つまり、異世界側では君は男で、彼氏は女に成るって事なのか?」
「そうね、そういう事」
「こりゃあたまげたなぁ。そんな事が…… まあ、今更か」
確かに
「へーぇ、でもそんな事は、敢えて秘密を暴露するリスクを負わなくても何とでも成ったろうに」
「え、そうなの? 産婦人科を受診した履歴も無しに、出産証明書も無くて大丈夫なの?」
「君達だってニュースで見た事位有るだろう? 未婚の女性が家族も知らない内に自宅で出産していたとかいうニュースは時々というか、結構な頻度で聞くぞ。その生まれた子供の戸籍がずっと無いなんて事は無いだろう?」
「確かに…… でも、出産は向こうの世界でという事になるから、いきなり生まれた子供を市役所に持って行って戸籍を頂戴、なんて出来ないのでは? 拾ったかも知れないし、誘拐して来たかも知れないのに」
「うむ、本当の子供かどうか調査とか手続きで少しもたつく可能性は無くは無いな。よし、それはこっちで引き受けよう。神田君だっけ? 予め政府機関専門医に見せて記録を取り、書類上は
「恩に着るわ」
「有難う御座います」
「その前に、お前らちゃんと籍入れとけよ! どうせまだなんだろう?」
「「あ、はい」」
そんなこんなで急遽結婚式を挙げなければ成らなくなってしまった。
確かにちゃんと結婚しておかないと、何かと不自然な事に成ってしまいそうだ。
優輝と
二人は、式場の予約、衣装選び、各方面に招待状の送付、披露宴会場と料理の手配、席順を決め、司会の依頼、友人にスピーチのお願い、引き出物の用意、エトセトラエトセトラ、ああメンドクセーとため息をついた。
「うちの親ったら、『結婚は家と家の繋がりだから』なんて言っちゃって、結婚資金出すって聞かないのよ」
「ああそれうちもだ。俺達十分に金銭的余裕が有るんだから大丈夫だって言ってるのにな」
「どうする? 出してもらう?」
「うーん、親のメンツも有るだろうから、ここは出して貰って、後で何らかの形でお返しすれば良いかな」
「そうね。そうしましょう。ところで、何式でする?」
「神前式は三々九度だっけ?」
「それは楽そうなんだけど衣装が面倒臭そう、教会式は列席者の前で誓いのキスが恥ずかし過ぎるわ」
「人前式は? うちの叔母さんがこれでやってたよ」
「どういうの?」
「神様やキリスト様じゃなくて、出席者の前で誓うんだ。衣装は好きなの着れるよ」
「それいい! 楽そう!」
「儀式っぽい部分は、皆の前で婚姻届けにサインして見せる所かな。式場によっては庭に設置したベルを二人で鳴らしたり、やりたければライスシャワーや花びら降らせたり、好きな演出が出来る。両親への花束贈呈もケーキ入刀もやりたければ組み込める。型が決まっていないので割と自由度が大きい」
「じゃあそれで。出席者は、花子お婆ちゃんと大学の時の友達と
「二人でこういうの考えるの、大変だけど楽しいね」
「本当ね」
招待状を出す前に、二人で考えたプランを花子お婆ちゃんに見てもらった。
「へぇー、あたしの頃は、家の座敷に親戚や地元の有力者を呼んで、神主さん呼んで
花子お婆ちゃんにはおおむね好感触だった。
次に麻野さんに会って、招待状を送る前にそっち関係の出席者の確認を事前に取って貰えないかとお願いしたところ、プランを見せろと言うのでそれを見せると、後は任せろと言って部下にプランを書いたノートを渡して持って行ってしまった。
式の手配は全部こっちでやるからお前らは身一つで指定した会場へ時間の二時間前に来いと言って、そのまま返されてしまった。
「ノート取られちゃったね」
「なんなのよ、もう!」
「でも、全部やってくれるなら楽でいいや。資金も全部出してくれるって言うし」
「うーん…… 何か嫌な予感がするなぁ」
優輝は、ああ、面倒臭い作業から解放されたと喜んでいたが、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、花子お婆ちゃんが招待状が届いたよと知らせに来た。
どこなの? と聞くと、何であんたらが知らないのよと大笑いされてしまった。
見せてもらった招待状は、大層立派な装丁の物で、会場名を確認すると、都内の超有名高級ホテルだった。
「桃園荘なんて、あたしらの世代には憧れのとこだよー」
「ふうん、麻野さんにしては中々良いチョイスなんじゃない?」
確かに都心からは少し離れているけど、落ち着いた雰囲気の格式の高い老舗ホテルだ。
花子お婆ちゃんは、何を着て行こうかねーと、自分の事の様にウキウキしている。
次の日には、実家の両親からも招待状が届いたよと連絡が来た。
「俺達は当日に身一つで行けば良いんだよな? 何だか不安に成って来た」
「段取りも何も事前の打ち合わせすら無いのだから、私だって不安よ。なんなのこれ? 自分達の式なのに、全く蚊帳の外感が凄いんですけど」
そんなこんなで式の当日に成り、二人は会場へと向かった。
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