第106話 求人
ある日、日本各地の離島に、ある求人広告が出された。
ある大手求人サイトへ出されたその広告は、そのサイトを見た人々に衝撃与えた。
〇異世界堂本舗農業部門、正社員及びパート募集。
仕事内容:農作業スタッフ(果樹の世話及び収穫作業、ドライバー、蜂蜜の収集作業。どれかでも可)初心者歓迎、経験者優遇。
正社員、初任給:手取り27万円~
パートタイム:時給1,600円~
長期間働ける方を希望します
勤務時間:9時から18時
休憩時間:二時間に一回10分、昼休暇1時間
総労働時間:160時間/月 完全フレックス制
休日:土日祝、年休20日
勤務地:東京都大山市、自宅から通えます
条件:離島居住者
年齢制限:無し
賞与:年二回
募集人数:10人程度
昇給:年一回
福利厚生、各種社会保険完備
農作業経験者大歓迎 未経験可
ウェブサイトで申し込み後、電子メールまたは郵送で履歴書をお送りください。
そのサイトには質問メールが殺到したため、『良くある質問』のページが設置された。
Q:うそだ!
A:本当です。
Q:異世界堂本舗って、あの異世界堂本舗ですか?
A:その異世界堂本舗です。その農業部門です。
Q:農業なのにフレックス制?
A:そうです。
Q:フルタイムでパート待遇で働く事は出来ますか?
A:短期で働きたいという事でしょうか? 最低でも二年以上の就労を希望して募集を掛けています。
Q:果樹の種類は何でしょうか?
A:南国フルーツです。今10種類を育てています。
Q:離島から内地へどうやって通えと言うのですか?
A:空間の二点間をショートカットする技術が弊社には御座います。
Q:ジョーク広告ですよね?
A:至って真面目です。
Q:ミスリルナイフや
A:社員は、弊社製品を二割引価格で購入可能です。
離島向けの求人であったが、予想外に募集人数の50倍もの応募が有った。
異世界堂本舗を知って、冷やかしで応募して来た人も居るのかも知れないが、中には離島限定と書いてあるのに北海道の田舎の寒村から応募して来た人も居る。
主に求人広告を出した場所は、東京都の伊豆諸島、小笠原諸島、長崎県や鹿児島県や沖縄県の離島等だ。
優輝と花子お婆ちゃんとロデムは、なるべく遠くの島を中心に満遍無く、一つの島で一人ずつ選んでいった。
勿論これは、拡張空間どこでもドアを設置する目的も兼ねている。
取り敢えず20人まで絞り、優輝が飛行機や船を乗り継いで島まで出かけて行ってドアを設置し、その後花子お婆ちゃんが待つ農場へ連れて来て面接をする段取りだ。
選定された島は、与那国島、西表島、多良間島、久米島、徳之島、与論島、屋久島、上甑島、福江島、壱岐島、対馬、島後島、粟島、飛島、奥尻島、天売島、礼文島、八丈島、父島、母島、の二十島。
優輝とロデムは、いちいち普通の旅客便で移動していては時間が掛かって仕方が無いので、ビジネスジェットをチャーターし、与那国島から日本列島を時計回りで回る事にした。
空港の無い島は、一番近くの空港へ降り、漁港から漁船に乗せてもらって行った。
島へ着いた後、漁船の船長に帰りはどうするのか聞かれるが、片道で結構と断りを入れる。
船長は金払いが良いので、二人分往復で稼げるかなと思っていたのだが、当てが外れてちょっとがっかりした顔で帰って行くのだった。
優輝達は漁港に降り立ち、防波堤の壁にドアをセットし、応募者に会わずに直ぐに空港へ帰り、再び飛行機に乗って次の島へ向かう。
これを繰り返して何とか丸二日で小笠原諸島の母島迄を全て回り切る事に成功した。
「ふう、強行軍だった。もうやりたくない」
『お疲れ様。何だったらボクが行ってドアを設置して回れば半日で出来たよ』
「それを先に言ってよー!」
何だろう、この徒労感。
ロデムは何か楽しい遊びかスポーツか何かと思っていたらしい。
ボディーガードの積りなのか、動ける様に成って色々自分で見て回るのが楽しいのか、ずっと優輝と一緒に行動している。
だけど、仕事と遊びの概念の違いが今一つ区別できていない様で、こういう頓珍漢な事に成る。
お金を稼ぐ行動が仕事で、楽しみの為にする行動が遊びだよと説明したのだが、優輝や
お金を稼ぐか否かで区別するなら、今回の行動は稼いでいないし寧ろ払ってたし、遊び寄りの行動なのかなと理解していても無理は無いのかも知れない。
そもそもが、ロデムはお金を稼ぐという行為が何故必要なのかを根本的に理解していない。
何故なら、ロデムにとってお金など無くても生命活動を維持するのに全く支障は無いのだから。
お金を使って住む所を確保する必要は無いし、食べ物を買う必要も無い。着る物も買わなくても良い。衣食住移動全てに於いてお金が必要な場面が無い。
だから、尚更仕事と遊びの区別が
それに人間には、わざと面倒な手順を踏んでそれを楽しむ文化が有るのを
それは三次元人の特性なのかなと思い、敢えて口は出さなかったのだという。
例えば登山は、リフトやロープウェーで登れば速いのに、わざわざ徒歩で山歩きを楽しむ遊び寄りのスポーツだ。
マラソンだって車で走れば早いし楽だし快適なのに、それを自分の足で走って疲れるのを楽しむスポーツだと認識しているし、トライアスロンなんて以下同文。
更に言えば、高い所から飛び降りたりする様な、恐怖を楽しむリクリエーションやスポーツだって存在する。『もう訳が分からないよ』だそうだ。
だから、優輝がやっている事をもっと簡単に出来るよと言うのは野暮だと思っていたそうだ。
「うん、ロデムに最初に相談しなかった自分が悪いんだから、まあいいや。目的は達成した訳だし。今度からはロデムにも相談するからね」
『うん、頼って頼ってー』
ロデムにとって最も価値の有る事は、優輝や
だから、それを害そうとする者に対しては、恐ろしい程の冷酷性を見せる。
人間が博愛とか人類皆兄弟とか言うのは、人間が弱い生物なので、自分を守る為には自分の身近な人間も守る必要が有るからだと考えられる。
自分の安全を確保する為には、自分の所属する団体を守らなければならない。
それが、個人>家族>友達>ご近所さん>所属学校、クラブチーム、会社>市町村>県>地域>国家、という風に拡大解釈を行っているに過ぎないのだ。そういう本能が組み込まれているのだ。
しかし、ロデムは強力な生物であり、ドラゴンがそうであった様に集団として己を守る必要が無い。
精々が己と直接の関係が有る配偶者、そしてその子孫までなのだろう。
つまり、友達契約で結ばれた関係の相手を棄損されれば、その時の怒りは量り知る事が出来ない程のものと成る。
それはユウ国の関所の村で見た通りなのだが、もしも現代地球レベルの国家的規模が敵に回る事に成ったとしてもそれは同じだろう。
そしてこれは想像だが、それでもロデムはきっと負けない。相手を殲滅するまで戦うのだろう。
そう成らない事を願う限りだ。
当初は自分達の保護が目的だったが、未だ自由に動く事の出来なかった段階のロデムのパワーを見知った今と成っては、そして遂に自由に成りこちらの世界へも来る事が出来る様に成るに至っては、逆に人類の方を守る為と成っているのかも知れない。
国同士の関係は良く分からないが、きっと上の方の外交のプロ達が上手く立ち回ってくれている事を祈る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで忙しく働いていた優輝のスマホが鳴った。
相手は
「優輝の事を公開する準備が出来たわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます