第104話 異世界堂本舗農業部門
「お婆ちゃーん! いるー?」
縁側から家の中へ声を掛けると、台所の方から花子お婆ちゃんがやって来た。
「やあ、いらっしゃい。おや、後ろの居るのはロデムちゃんじゃないか!」
「そう、やっと出歩ける様に成ったんだよ」
『こんにちは』
「それはそれは、良かったねぇ。さあさ、上がって」
花子お婆ちゃんは、台所へ行って人数分のお皿に盛った色々なフルーツを持って来てくれた。
「これって、あそこで作った?」
「そう。試食してみようじゃないか」
「うん、美味しそう!」
『美味しーよ』
「ロデムちゃん! 皮剥かないと!」
ロデムは固い皮ごとバリバリ食べてしまったので、花子お婆ちゃんは慌てて教えた。
フルーツの中には、ライチみたいに固い外皮に包まれている物もあるのだ。
「ロデムって、食べ物からもエネルギーを吸収出来るの? 味分かる?」
『一応下層階位の人と同じ五感は有るよ。エネルギーさえ吸収出来れば生きている事は出来るけど、美味しい物を食べるのも好きだよ』
「そうかいそうかい、何万年も何も食べていなかったんだろう? たんとお食べ」
『有難う、花子お婆ちゃん大好き』
「そうかい、可愛いねぇ。孫がもう一人増えた気分だよ」
フルーツの試食会が終わり、ここからはビジネス展開の話に成る。
「これだけ美味しくて甘い南国フルーツに付加価値を付けるためにはどうしたら良いかを緊急議題に上げたいと思います」
パチパチパチ。皆が拍手した。
「それは、今まで通りに道の駅で販売するだけじゃダメなのかい?」
「それも継続して行いたいのですが、もっと知名度を上げたいのです」
「知名度ねえ……」
「異世界堂本舗の販促ビデオ撮る?」
「まあ、そこからでしょうね」
「流通はどうする? 傷みやすくて通常の方式では無理な物も有るよ?」
「それは、契約販売店に直接お届けする方式で」
「拡張通路で持って行くのかい? 人手が足りなく成らないかい? 世話も収穫も運搬もあたし一人じゃ無理だよ?」
「それは人を雇おうと思っています」
「遂にか」
遂に会社形式として動き出す事に成りそうだ。
「人はどうやって集めるの? 求人情報誌とか求人サイト? ハロワ?」
「私は、離島から人を雇おうかと思ってるの」
「離島から!?」
何か
優輝も花子お婆ちゃんも、何をとんでもない事を言い出すのかと思った。
『ああ、空間拡張通路で離島とこっちを繋ぐ積りだね』
「はい、ロデム正解!」
「ああ」
「成る程」
しかし、それには越えなければ成らないハードルが幾つかある。
まずは空間通路の一般使用を国に認めてもらわなければ成らない。
今までの様に個人で勝手に使っている分には大した問題には成らないだろうが、会社として大っぴらに使うと成ると、『内緒で』という事には出来ない。
何か言われる前にこちらからこういう物を使って仕事をしていますと届け出て置くのが後々のトラブルを回避するには良いだろう。
それには
そして、一般人にその通路を使う事を認めさせる事が出来るのかどうか。
その前に隠して置いた優輝とロデムのカードをどう切るかという問題もある。
優輝のお腹の中の子供の戸籍を得るには、優輝のカードは切らざるを得ないというのは確かなのだが……
「ロデムの事はまだ伏せて置こうと思うの」
『ボクは秘密なの?』
「そうそう、ロデムは秘密兵器だからね』
『ボクは兵器なんだね!』
「うーん、最後の切り札って意味ね」
『ボクはトランプのカードなんだね!』
「そうそう、国とそういう駆け引きのゲームをしているからね」
『ボクはジョーカーなんだね!』
「その通り」
『さあ、お前の罪を数えろ』
「一番カッコイイ仮面ライダー! 異論は認める」
という事で、農業部門の事業を拡大する方針に決まったのだが、その下準備に色々と暗躍する必要が有るのか?
アジェンダを作成してファシリテーターで根回しなのか?
良く分かりません。
アキラは直接麻野に電話をして、空間通路を販売したい旨を直球で聞いてみた。
アジェンダとか根回しとか一体何だったのだ。言って見たかっただけなのか。
「あのなあ…… ちょっと時間をくれ」
まあ、アジェンダだのファシリテーションだの根回しだのというのは、もっと上の政府レベルでの話なのかも知れない
麻野の言う、ちょっとと言うのはどの位の時間の事を言っているのだろう?
丸々五日もの時間を費やして、やっと返答が来た。
それに寄ると、一体どういう販売を考えているのか、どういう用途を想定しているのか、金額は幾ら位を考えているのか等、仕様書を書いて提出してくれという事だった。
「……と、いう返事だったわ」
「確かに、漠然としていたかもね」
あの電話では、空間通路を作る機械を販売するのか、それとも通路自体を販売するのかがあやふやだった。
通路を作る機械なんて作っていないのだから、通路自体の販売だろうとこっちは当然の様に思っていても、向こうにとってみればそんなの分かる訳無い。
だから、販売形態を厳密に規定してその仕様書を提出しない事には向こうも判断に困るという事なのだった。
「通路自体を成果物として販売するとして、どう値段を付けるのかという事だよね?」
「そうね」
「実際、二点間を繋ぐのに距離は関係無いのだから、全部同一金額で販売するか、それとも入り口のサイズで金額を変えるか、はたまた新幹線みたいに1km何億で計算して値段を付けるか」
「新幹線って、そんな販売形態なの?」
「そういう訳じゃないんだけど、総工費を距離で割って、1km当たり何億掛かったみたいな言い方するよね」
「参考例ある?」
「えーとね、一番安かったのは東北新幹線でキロ単価47億円、一番高かったのは、中央新幹線の一キロ210億円。これは、土木工事と電気設備の合計」
「随分違うのね」
「地価とか、トンネル工事区間が長いとか、色々あるのかもね。中央新幹線は大都市間を繋いでいるから地価も高かったろうし」
「えー、どうしよう。中央新幹線並みのは貰いすぎな気もするし」
「でも、あまり安くし過ぎると、既存のインフラを破壊しかねないよ?」
「新幹線やリニア、航空路線より安いとそっちを壊滅させるって事? 船便は安いじゃない?」
「その代わり遅いから」
「あそうか、速くて安いとなったら、そうか、そりゃマズイわ」
「でしょう?」
「異世界堂本舗としては、通路を販売するだけ、管理運営はあちらさんに丸投げで良いんじゃない? 利用料は向こうさんに好きな値段を付けて貰えば良いわよ」
「結局そういう事に成るのか。
そんな訳で、適当な仕様書と予定価格を書いて麻野宛にメールに添付して送信した。
そしたら直ぐにお怒りの電話が掛かって来た。
「何だこれは! 何でもかんでも面倒な事はこっちに押し付けるな!」
「でも、こっちで勝手に値段付けて既存の輸送業を倒産させたら困るのはそちらなのでは? 良いなら東京-大阪間100円とかでやるわよ?」
「う…… ちょっと、待て。後で連絡する」
麻野の言う後でというのは、どの位の時間を言うのだろう?
再び五日待って、やっと電話が掛かって来た。
内閣府のお偉いさんと国土交通省のお偉いさんと経済産業省のお偉いさんとで打合せするので、取り敢えず霞が関まで来てくれという事だった。
「はあ、何で俺がお前の会社の営業みたいな仕事してるんだ? まったく」
「まあまあ、頼りにしてるんだから。何だったら本当にうちで働いてくれても良いのよ? 今のお給料の倍出すけど」
「マジかよ、そりゃあ魅力的だなって、そんな甘言に乗る様な人間は、この仕事に付けねーんだよ!」
「それもそうね、うふふ」
「笑い事じゃねえよ!」
翌日、
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