第103話 ロデム解放

 「でもさあ、ロデムが自由に出歩ける様に成ったら、この快適空間はどう成っちゃうのかな?」

 『うーんとね、無くなっちゃう』

 「えーー……」

 『でもそれだとボクは一生ここから動けない事に成るよ?』

 「それはそれで駄目だよね」

 『動ける様に成った後でもここと同じ環境に成る様に拡張空間で作ってあげるよ』

 「そう言えば、ロデムは何も無い空中にも拡張空間を作れるんだっけ」

 「アプリだと何かの物の表面にしかセット出来ないけれど、ロデムには出来るんだった」


 難易度で言うと、絵筆で紙に絵を描くのと粘土を使ってフィギュアを作る位の難易度の差が有るらしい。

 前者は、三次元空間上に在る物体を親として、そこに貼り付ける事によって子である空間の相対位置で座標を定義出来る。

 だから親座標を原点とする為、親の物体が移動しても相対座標は変わらない為、親と一緒に移動して行く事が出来る。

 しかし、空中に空間を作ろうとすると、途端に難しく成る。

 まだ地球上であれば、地球の大地または中心を親座標として定義する事は可能だが、そこからの距離を常に一定に保たなければ成らない為、物体の表面よりも難易度は何段階か跳ね上がってしまう訳だ。

 より多くのリソースを消費するし、消費エネルギー量も膨大なものに成ってしまうそうだ。


 「ロデムにばかりそんなに負担させられないよ」

 『大丈夫、ボクに取っては微々たる物だから』


 そうなのか、四次元人半端無い。


 「それでさ、いつ位に動ける様に成りそう?」

 『うーん、もうちょっとの気がするんだけどなぁ』

 「だったらさ、その足りない分、2%と言わずに取ってくれて良いよ」

 『えっ? 悪いよ』

 「良いから良いから」

 『うーん……』

 「どの位あげたら足りそう?」

 『うーんと、二人から36%位ずつ貰えば足りると思うんだ』


 ユウキとアキラは、お互いに顔を見合わせて頷き合った。


 「じゃあそれ、取って!」

 「遠慮しないで良いから!」

 『でも、最初の約束でそう決めたのに……』

 「「真面目か!!」」


 真面目故に渋るなロデムに、半ば強制的に二人のエネルギーを渡して自由に成ってもらう事にした。


 『じゃあ、二人から36%ずつ貰うよ? いいのね? 本当に貰うよ? 本当に……』

 「「いいから!!」」


 申し訳無さそうに言うロデムの背中に蹴りを入れる勢いで無理矢理押し付ける形に成ってしまった。

 『本当に取るよ?』『取るよ?』『取っちゃいますよ?』と何度も確認するロデム。


 「「早くしろ!!」」


 半ば切れ気味の二人に、ようやく決心出来たのか、ロデムは二人から36%ずつのエネルギーを吸い上げた。

 流石にこの量は、ユウキも『ひゃうっ!』と声を出していた。


 『あああー!! 満たされて行く!!』


 ロデム空間内が真っ白に輝いた。

 そして、光が収まるとあの広い極彩色のお花畑は消えて普通の森の中と成り、そこには神様の様な純白のローブを着たロデムが立って居た。

 目を閉じて立って居るロデムの身体は発光している様で、周囲の木々が照らされている。

 こちらから見ると、まるで後光が差しているみたいだ。


 そして、ロデムはゆっくりと目を開いた。

 そのブルーの瞳は真っすぐにユウキとアキラを見つめている。

 二人は畏怖というか畏敬というか、現生に降臨した神様でも目の前にしてしまった様に固まってしまった。


 『ユウキ、アキラ……』


 その声は確かに口から発せられているのだが天上からの響きの様で、まるで天啓でも与えられている気分に成る。

 思わず両手を組んで拝みそうに成ったその時……


 『わーい! やったー! ボク、動けるよ!』


 いつもの口調で、固まって動けない二人にロデムは飛び付いて来た。

 それはいつものロデムだった。


 「なんか、凄みが増したっていうか、凄いね」

 「うん、凄いわー。とっても凄い」


 二人とも語彙が退化してしまっている。


 『もう、なんだよ、二人とも凄い凄いってさ。いつもの様に話してよ!』

 「うん、何だかそれ以上の感想が出て来ない」

 「胸がいっぱいで、感動しているのか何なのか自分でも分からなく成ってる」


 ユウキは自然にロデムへ口づけをした。

 アキラもロデムへ口づけをした。

 ロデムは二人をぎゅっと抱きしめた。


 『もう、何万年経とうが何億年経とうが、ずっと一緒だからね』

 「うん、でも人間はそんなに長く生きられないからね」

 『何言ってるの? 今の君達の寿命は五千年位にまで伸びてるし、これからもどんどん伸びるよ』

 「えっ?」

 「ええっ!?」

 『だって、友達契約したじゃない』


 友達契約にそんな副作用が有るなんて聞いていなかった。


 「あの時、あえて言っていないデメリットは無いか聞いたよね?」

 「これって、デメリットなの?」

 『ボクはメリットだと思ってたんだけど』

 「まあ、良いんじゃない?」

 「うーんと、まあ良い、のかな? 研究時間も一杯取れるしね。些細な問題かもね」


 実際、ユウキとアキラの寿命が延びているのは、友達契約の作用もあるのだが異世界間を行き来している作用の方が大きいのかも知れない。普通の人間よりも何十倍もの生命エネルギーを蓄えてしまっているのだ。

 そして、そのエネルギー量に適応出来る様に身体の方も対応して行っているのだ。


 『じゃあ、早速ここの拠点を再構築するね』


 ロデムが手を振ると、元々ロデム空間が在った場所へ、元と同じ様な広さの花畑や小川が構築された。


 「これは凄い。元と寸分とたがわない感じだ」

 「清流も流れているし、花畑はふかふかだし、温度も最適! でも、砂金は無くなっちゃったのかー……」

 『砂金が欲しいなら幾らでも』


 ロデムが小川の中へ入っていくと、ロデム中心に川底の砂の中にキラキラと光る物が散らばり始めた。

 それを一粒拾い上げてみると、間違い無く小石大の砂金だ。


 『これでどう?』

 「安定資産もバッチリです!」

 「でも排泄物……」

 『老廃物って言ったよね!?』




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「さて、これからどうする? ロデムを向こうの世界へ案内する?」

 「ああ、それが有ったね。ユウキの事を公表するかどうかの問題も」

 『ボクが一緒に居れば、多分どんな危険も防げると思うよ』

 「バリアーより安心」

 『うん、精神への攻撃も二人が居ない場所での陰謀も全部防いであげるよ』

 「何かヤバい事言い出したけど、頼りに成る事この上無い」


 二人が居ない場所で巡らされた陰謀まで防いでくれるとはどういう事なのだろう?

 謎は尽きないが、二人はあまり深くは考えないで、まあそんな感じの安心感か位に軽く考えていた。


 「じゃあ、早速日本へ行ってみようか」

 「そうしようそうしよう!」


 三人は広場にマークしてある円の中へ入った。

 それは、優輝とあきらの家の玄関の位置を示す印なのだ。

 そこでゲートを開けば、二人の家の玄関内へ出られるという訳。


 ユウキは、ストレージからブルートゥースイヤホンを取り出し、装着した。


 『ふうん、それがユウキが界移動する時に使うツールなんだね?』

 「うん、これで黒板を引っ掻く音を聞くと、ゲートが開くんだ」

 『前にも言ったと思うけど、界移動の門を開く能力はユウキの能力だから、それは上手く行う為のキーというか引き金トリガーでしか無い事は理解しているよね?』

 「うん、それは気に成っているんだけど、他に良い方法が見つかっていないんだ」

 『うーん…… 今は一緒に居られる様に成った訳だから、近くで観察させて貰って良いかな?』

 「いいよ。ロデムが一緒に考えてくれるなら、こんな頼もしい事は無いからね」

 『了解だよ。アキラもそれで良いね?』

 「うん、俺からもお願いするよ」

 『よし、じゃあ、門を開こう!』


 ユウキはスマホに録音された音を再生するボタンをタップし、イヤホンから大音量の黒板を引っ掻く音が流れた。

 ユウキがうっ、という顔をした後、ロデムは空間の揺らぎを認め、その中心に穴が開いた事を確認した。

 三人は、ゲートを潜り、優輝とあきらの家へと出た。


 『へぇー、これが優輝とあきらの家なんだね。脳からの映像では何回も見ていたけれど、実際に自分の感覚で見るのとは全然違って良いね』


 そうか、ロデムは優輝やあきらの見たり聞いたりした感覚を共有していたのだった。

 とすると、アノ時の事も詳細に見られていたって事に成るのか。

 と、ちょっと思ったのだけど、ロデムの中で何回もやってたのだった。今更だね。


 ロデムがそのまま床に上がったのを見て、慌ててあきらが止めようとしたのだが、足元を見てみるとロデムは裸足だった。

 足の裏は汚れているのではと思って見せてもらったのだが、全く汚れが付いていない。

 あきらは自分の履いている靴の裏を見てみると、泥汚れが付いていない。

 あれっ? と思ったが、能能よくよく考えてみると、パーソナルバリアは衣服やアクセサリーも含めた体全体の表面を覆っているのだった。

 全く便利な物だ。

 だけど、家に上がる時には靴を履いたままなのは何と無く気持ちが悪いので一応玄関に脱いだ。

 そういう所が日本人だなあと思う。


 ロデムはそのままの姿だとちょっと外を連れて歩くのははばかられるので、あきらはクローゼットを開けて適当にロデムに合いそうな服を選んでみた。


 「これなんてどうかしら?」

 『了解だよ』


 ロデムはアキラに手渡された服をじーっと見て、あきらへ返した。


 「気に入らない?」

 『いや、あきらの選んでくれた物なら何でも気に入るよ』


 ロデムは、右手を頭上でくるりと回して下に下ろすと、今玲あきらが手に持っている服と全く同じ衣装へ変わった。


 「おおー! なんという便利能力」

 「これ、服屋へ行って見て回ればただで……」

 「お金有るんだから、そういう事言わないの」


 確かに。

 優輝は未だに貧乏学生気分が抜けていないのだった。

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