第99話 ミスリルマチェット

 「親方―! 居る―?」

 「早えな、まだ納期じゃねぇだろう」

 「いや、ナイフの件じゃなくて、特注で別の物を作って貰いたいんだ」

 「おう、良いぜ何だ?」

 「うーんとね、前に藪漕ぎ用のマチェット探してるって言ったでしょう? それをミスリル張りで二丁打って欲しいんだ」

 「ああ、そう言えば初めて来た時にそんな用事で来たんだったな。何と無く有耶無耶に成ってたが」

 「そうそれ! ナイフみたいに、ブレードにミスリル張りで作って欲しいの」

 「それは良いんだが、この前預かった分のミスリルじゃ足りなく成りそうだぞ?」

 「ああそれなら……」


 アキラがストレージから出したビニール袋に、無造作に何枚ものミスリル合金の破片が入っているのを見て、親方は度肝を抜かした。


 「お、おまっ! こんな高価なもんをそんな粗雑ぞんざいに!」

 「まあまあ、俺の伝手で幾らでも手に入るから、欲しいだけ用意するよ」

 「嘘だろー……」


 ユウキは、藪漕ぎ用なので片刃で、ブレードの長さは40cm、重心は先端寄りに、鉈の様に扱える物という条件で、紙に絵を書いて渡した。


 「お前らそれより凄い神剣を持っている癖に、こんな物も手に入らないのかい?」


 親方の言う事も最もである。


 「私達の国ではミスリルの刃物なんて無いんだよ」

 「こんな純度の高いミスリル銀は有るのにか?」

 「そうなんだよね、変な国だよね」

 「変な国だな、がはは」


 ミスリルの産地だというセンギ国へ行って来た話をし、そこの武器屋でもピンと来る物が無かったという話をした。


 「ミスリルなんて高価な金属を、一般の刃物に使える訳無いだろうが。お前達の常識はどうなってやがんだ」

 「世間知らずでごめんよー」

 「まあいいや、俺はナイフの方に掛かりっ切りなんで、これは弟子に任せても構わねーか? 腕なら折り紙付きだ」

 「良いよ」

 「こいつなんだが、最近メキメキ腕を上げて来てな。そろそろ独立しても良いんじゃねーかと話していた所なんだ」


 親方が手招きして呼んだのは、あの時アキラがエネルギーラインをほぐしてあげた人だ。


 「全然構わないよ。よろしくお願いしますね」

 「おう! 任せてくれ。あんた達には恩があるからな! 最高の仕事をしてみせるぜ!」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ユウキとアキラは、ロデムの所へ戻ってマッピングを確認していた。


 「これって、ゲームのオートマッピングみたいだよね」

 「結果的に似た感じに成っちゃったわね」


 地図アプリを開いて、マッピングされている箇所を確認すると、虫食い状態で地図が描かれている。

 ユウキ達が実際に行った場所しかマッピングされない為だ。


 「今度はセンギ国と関所の反対側の国へ行ってみよう」

 「そうだね。それでこの空白地帯のマッピングが大体済みそう」


 ユウキはその二つの国の真ん中辺り、日本の地図で言うと蔵王山の辺りを指差した。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 後日、ユウキとアキラは、最初にセンギ国から関所の村への街道に作った木の裏の拡張空間へ移動した。

 このポイントは、仙台の自宅から徒歩圏内のゲートポイントなので重要なのだが、日本側の位置が通りから丸見えの場所なので少し使い勝手が悪い。

 まあ、ゲートポイントとは言っても、『世界間を移動するのに比較的安全な場所』という意味合いでしか無いので、もうちょっと良い場所が在れば変更しようと思っている。


 拡張空間から出て街道へ降りると、村へ行く途中の見知った人と目が合ってしまった。


 「おや! あんた達かい! 本当に森の中から来るんだな」


 何の事かと思ったが、そう言えばそういう設定だった。

 最初に不審人物と疑われたので、自分の国から森の中を突っ切ってやって来た旅商人だと嘘を言って胡麻化していたのを思い出した。

 会った男は、村で商人の元締めをやっていると言っていた男だった。


 「これから村へ行くのかい? 一緒に行こう」

 「そうですね」


 男は、胸の所に染み付いてしまったにおいが中々落ちてくれなくて、家の飼い犬がパニックを起こすので困ったと言っていた。

 臭いの液体が染み込んでしまった服は、細く裂いて街道の所々の木の枝に縛り付けてあるのだとか。


 「ほら、あれがそうだよ」


 男が指を差す所を見てみると、確かに街道脇の木の枝に布が下げてある。

 街道を通る人の安全が守られているわけだ。


 「前にあんたら、農作物の被害も抑えられるって言っていたろ? もっと欲しいんだが、今日は持って来てくれたのかい?」

 「ええ、持って来ましたよ。それから、向こう側の国にも行ってみたいのですけど、通行証みたいな物って有るんですか?」

 「いや、そんな物は無いねぇ。見るからに怪しい奴だったり身元の不確かな奴、目的の無い奴、それと犯罪者は通さないってだけだよ」

 「そうなんだ! それは助かりますけど、俺達って通れそうですか?」

 「旅商人は通れるよ。商売っていう目的があるからね。身元がイスカのミバル商会ってなら間違い無いやね」


 ユウキは、あれ?村でミバル商会って言ったかな? と少し違和感を感じた。


 「俺達、ミバル商会って言いましたっけ?」

 「いんや? でも、ゼンギの武器屋でちょっと騒動起こしたろ? あそこの人があんたらを探してたよ」

 「えー、弁償金足りなかったのかなー?」

 「怒られるの? だったらもうゼンギ国には行かない!」

 「いやいや、そんな感じでは無かったな。大事なお客様を探しているみたいな感じだったぞ?」

 「そうなの? なら良いんだけど」


 村へ到着し、男の店へブロブ避け粉とドラゴンズピーを納入して、さらに前回約束したデオドラント石鹸を渡して、反対側の村へ行ってみる事にした。

 関所の境界を抜け、反対側へ入ると、成る程、確かにちょっと雰囲気が違う気がする。建物の形や服装なんかが微妙に違うのだ。やっぱり違う国だと実感する。

 境界を通ると、すかさず一人の男が話しかけて来た。


 「なああんたら、ブロブ避け粉と豪角熊避けを持っているって本当か?」

 「うん、有るけど、あちらの店に持って来た分は全部置いて来てしまったので、今はもう無いです」

 「そっかー、残念だ。うちの国は山の中にあるんでよう、向こうよりも被害が多いんだよ。今度来た時で良いから、うちにも卸してくれねえか?」

 「良いですよ。お店はどこです?」

 「ああ、俺の店ならあれだ。それじゃ、宜しく頼むよ」


 ブロブ避け粉とドラゴンズピーはめっちゃ売れる。


 「笑いが止まりませんなー。キラー商品を見つけると、勝った! って感じがするよね!」

 「今の所俺達が持って来る商品は全部キラー商品だけどね」


 村を出て、反対側の街道をもう一つの国へ向けて歩き出した。

 途中で村が見えなくなった辺りで街道脇に在った大木の裏側へ拡張空間をセットする。

 そのままだらだらと国の方向へ歩いて行こうと思ったのだが、20kmを歩くのは流石に疲れる。

 スマホでマップを表示して、日本側の地図で道路か空き地が近くに無いかを探してみる。

 丁度そこはユウキが中学生の時に通っていた中学校の敷地から出た、細い路地に当たる様だ。

 その道は記憶に有る。学校側は校庭のフェンス沿いにポールが4m間隔位で何本も建てられていて、ビニールの木の葉の付いたネットが掛かっている。

 たぶんそれは、防犯対策なのだろう。道側から校庭内部を覗き見られない様に成っているのだ。


 昔は近所の人達に校庭を開放して公園の様に使わせていたと聞いた事がある。だけど、いつの頃からか防犯とか安全とかにうるさくなり、校庭内の遊具も撤去され、中を覗くのも許されなくなって来てしまった。世知辛い世の中です。


 道の反対側は、住宅に成っているのだけど北側に当たるのであまり窓が無く、今素通しのガラスを入れている家もあまり無いので、人に見られる確率も低いかも知れない。

 ユウキとアキラは、そこでゲートを開き、日本側へ移動した。

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