第98話 センギの武器屋さん

 「あっ! ここじゃない?」

 「この店は生活雑貨のキッチンナイフや鎌なんかを扱っている店みたい。武器屋っぽい店は無いのかな?」

 「あっ、あっちじゃない?」


 この通りの雰囲気は、日本の東京の河童橋商店街に似ている。

 生活雑貨や鍋、調理器具、そして刃物類を扱う商店が幾つも並んでいる。

 その中に武器刀剣類を扱う店も在った。

 ユウキとアキラはその店の中へ入ってみた。


 店内には壁や棚に武器が所狭しと陳列されている。

 店内を物珍しそうに見て回る二人に店員が声を掛けて来た。


 「どういった物をお探しでしょうか?」


 その男性店員は、イスカ国の武器屋のあの親方とは違い、大変物腰が柔らかだ。


 「あのね、藪漕ぎ用にこの位の長さのマチェットが欲しいんだ」


 ユウキは両手を広げて、大体の長さを示した。


 「マチェットで御座いますか。するとこのあたりに成りましょうか……」

 「ブレードの長さが40cm位有ると良いんだけど」

 「では、これ等はいかがでしょう?」

 「結構酷使すると思うんで、ブレードにミスリル使ったやつ無いかな?」

 「ミスリルですかー…… 当店では扱っておりませんが、本店の方ならあるいは…… この先の十字路の角なのですが」

 「あっ、そうなの? じゃあ、本店に行ってみます。どうもありがとう!」


 二人は店を出て、本店へ向かった。


 ドラゴンロプロスの餌場を探す目的そっちのけで何をやっているのかというと、餌場は人里から離れた場所にしたい訳で、その為には森の中へ分け入って適当な場所を見つけてドラゴンロプロスの出入り出来る拡張空間をセットしなければ成らない。

 その為に藪漕ぎする為のマチェットが欲しいという訳だ。

 出来れば人家から10kmは離れたい。人里近くにドラゴンが出たー、なんて騒ぎに成りそうだからね。


 10km程度だと目撃されちゃいそうな気もするのだけど、こちらの世界ではそんなに高い建物は無いし、人は殆ど森の奥へは入らないので大丈夫なんじゃないかなと思っている。

 打ち上げ花火は5kmも離れれば見えなくなってしまうので、概ねその倍位離れれば大丈夫なんじゃないかなという適当な感覚だ。

 打ち上げ花火がどの位の高さまで打ち上がって、ドラゴンロプロスはどの位の高度を飛ぶのかは全く知らないので、偶然の事故は起こらないとは言えないけれど、まあ大丈夫でしょう、多分。

 見られたら見られたで、その時はその時だ。ドラゴンロプロスには人は食わない様に言い聞かせてあるので、人間側から喧嘩を売る様な真似をしなければ大丈夫なんじゃないかな、多分。

 その為にはこちらの世界の国の位置とかを把握しておく必要があるのだ。


 「マチェット買ったら、関所の向こう側の国にも行ってみよう」

 「そうだね」


 さっきの店員に教えてもらった十字路の角の本店へやって来た。

 確かに本店というだけあって、なかなか立派な建物だ。

 これは期待出来そうだと二人は店内へ進んだ。


 「なんか、武器屋ってワクワクするよね」

 「うん、その辺の感覚も何と無く分かる様に成って来たかも」


 アキラはユウキと比べて色々と適応能力が高い様だ。

 しかし、イスカ国でもそうなのだけど、良く考えたら一般市民にこんな戦闘用の武器を販売しているという事は、それなりに需要は有るのだろうか?

 戦うのが軍人だけとは限らないのかもしれない。

 一般人でも武器を手にする必要な場面が有るという事だ。

 アメリカは銃社会で一般人も銃を持っているが、こちらは銃は無いから剣社会という事なのかな?

 一家に一本ロングソードとか、成人祝いに片手剣とか、寝室の枕の下にダガーとか、あるのかも?


 そんな事を考えながら短剣のコーナーを物色していたら、店員の綺麗なおねーさんがやって来て声を掛けてくれた。


 「何かお探しでしょうか?」

 「あっちの店で聞いて来たんだけど、刃渡り40cm位のマチェットを探しているんだ。ミスリルを使ったやつ」

 「支店から聞いて来たのですね。ええ、こちらにはミスリル銀を使用した武器も置いていますよ」

 「武器じゃなくても良いんだけど、藪漕ぎするためのマチェットが欲しいんだ。結構荒い使い方すると思うから、丈夫なミスリルのが欲しいのだけど」

 「ミスリルの武器で藪漕ぎですかー…… 魔力が無いと、普通の鋼の方が切れますよ」

 「えーと……」


 アキラとユウキは、言って良いものかどうか迷って顔を見合わせた。

 すると、その女店員さんは、顔を近づけて来て、小声で教えてくれた。


 「この国では魔力持ちでも徴兵されないので言っても大丈夫ですよ。私も他の人に言いませんし」


 ユウキはほっとして、魔力は有る事を伝えると、店の奥の扉の鍵を開け、部屋の中へ通してくれた。

 そして、鍵の掛かったケースを開け、剣やマチェットを何本か出してテーブルの上へ置いてくれた。


 「ミスリルの道具は高価なので、店頭には置いていないんですよ」


 店員さんは、テーブルの上の剣を取り、魔力を流して見せた。

 ブレード全体が薄く光っているのが見える。


 「ミスリルの無垢なんですか?」

 「無垢だと重くなってしまうので、鉄の上にミスリル張りなんです。効果は一緒で重量を軽くする技術なんですよ」

 「ミスリルって重いんだ? ファンタジーだと羽の様に軽い金属って言われているけど」

 「オスミリジウムの合金だから、鉄より2.8倍も重いよ」

 「そうなんだ……」

 「ちょっと持ってみます?」

 「良いの?」


 ユウキは店員から剣を受け取った。

 剣はユウキの手に渡った瞬間、直視出来ない程の輝きを放ち、ブレードのエッジの方向全周に向けて薄い膜の様な輝くエネルギーの奔流を放出した。

 その薄い膜の様なエネルギーは、壁や天井まで届き、内装を貫通して石の構造体までを切断して行く。


 「ユウキ! エネルギーを抑えて!」

 「う、うん!」


 思わず手放しそうに成ったのだが、落としたらブレードが人の居る方向に向くかも知れない。ユウキは心を落ち着かせて右手に流れるエネルギー量を絞って行った。

 すると、剣から放出されているエネルギーは徐々に小さくなって行き、極限まで絞るとやっとの事で放出を抑える事に成功した。しかし、そのブレードは今なお全体がLEDで作られているかの様に白く輝いたままだ。

 それを店員さんに返そうと差し出すと、『ひっ』と軽く悲鳴を上げ、後退られてしまった。

 仕方ないので、ブレードが人の方を向かない様に気を付けながら、そっとテーブルの上へ置いた。

 ユウキがグリップから手を離すと、白熱電球のフィラメントが徐々に冷えて輝きを失って行く様に、ブレードの輝きも少しのタイムラグの後、すーっと消えて行った。


 気が付くと、部屋の中に他の人、多分女店員さんと似た制服を着ているので他の店員達だと思うが、数人の男達が室内に居た。


 「御免なさい、壁や天井の修理費は払いますから」

 「君達は、何処かの王族とか近衛騎士だったりするのかい? それがお忍びで……」

 「いえいえ、そんな大層な立場の者ではありません! イスカ国のミバル商会に籍を置く者です」

 「マジかよ、宮廷魔導士か王族護衛騎士並み、いやそれ以上の魔力じゃないか」


 集まって来た誰かがそう呟いた。


 「あーあ、藪漕ぎ用のマチェットが欲しかっただけなんだけどなぁ」

 「藪漕ぎにミスリルの剣なんて使う奴あるかい!」


 また誰かのツッコミが聞こえた。


 「うーん、そうなのかな。鍛冶屋に特注で作ってもらおうかな」

 「それが良いかもね」


 部屋の修理代に金貨二十枚程を置いて、店員達に変な目で見られながら店を後にした。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「ちょっと店長! このさっきのが触った剣なんですけど」


 テーブルに出したミスリル剣を片付けようと、それを持ち上げた女店員は、ちょっとした異変に気が付いた。

 先程の店員達の中に店長も居た様で、一人の年配の男が振り向いた。


 「どうした?」

 「この剣なんですけど、前より魔力の通りが良くなっているみたいなんです」

 「何だって!?」


 店長と呼ばれた男は、その剣を受け取り、自分の魔力を通してみる。

 確かに以前よりもスムーズに魔力が通り、ブレードの輝きが増している様だ。


 ミスリル銀の特性なのかもしれないが、ユウキやアキラが持つ様な強力なエネルギーを一気に通す事により、原子配列が最適化されるのだろう。

 まるで鉄を何回も叩く事によって内部に含まれる不純物を追い出し、より洗練された鉄へ鍛えて行く様に、ユウキ達はミスリル銀を鍛える事が出来るのかも知れない。

 店長は直ぐに店を飛び出し、通りの左右を見回して彼等の姿を探したが、何処か路地に入ってしまったのか人混みに紛れたのか、その姿を見つける事はもう出来なかった。


 その剣は、店の最奥へ今までの値段の五倍の値を付けられて厳重に保管される事に成った。

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