第94話 優輝の実家
「ドラゴンの食事場をもっと増やしたいんだけど」
ユウキが唐突に言い出した。
「当ては有るの?」
「うん、私の実家近くと子供の頃行った事のある、長野のお婆ちゃんの家の近く」
思い出せば、ユウキは子供の頃から幽霊を見ていたのだ。
自宅近くや中学の時の通学路等で何回か見ている。
それと、田舎のお婆ちゃんの家の近くの森でも見ている。
人を見たという事は、集落が近くに在るという証拠であり、その近くの森を竜の狩場にして貰えば害獣被害も減らせるのではないだろうか?
尤も、そこに住む住人にドラゴンは人を襲わないと知らせる必要は有ると思うが。
「じゃあ、最初にユウキの実家からかな」
「どっちからでも良いよ」
「優輝のご両親に私を紹介してよ。未だ挨拶していないんだけど」
「あ、そうか」
ドラゴンの狩場を増やそうと言う話から、何故か優輝の両親に結婚の挨拶に行くという話に成ってしまった。
結婚と言うか結婚を前提にお付き合いしているという事だが、妊娠しちゃってるしなぁ…… 俺が、と優輝はどう説明しようか悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
優輝と
優輝の実家なのに拡張空間をセットして無いのかと思われるだろうが、実は優輝は
別に帰り難い事情が有るとかいう訳では無くて、
遠方の地方から出て来て東京で下宿なりアパートを借りるなりしている大学生は、大抵の場合、お盆とか正月に帰省する程度でそんなに頻繁に帰ったりしないのではないだろうか?
現に
優輝もお盆には一回帰ろうとは思っていたのだが、異世界探検からひょんな事から
今度は自分の番だなと覚悟を決める時だ。
「出来ちゃった婚に成るのかな? 俺が、だけど」
「今回は妊娠については伏せておきましょう。結婚を前提でお付き合いしていますと言う報告だけで」
駅前でタクシーを拾い、二十分程走って実家の玄関前で降りる。
「何だか凄い緊張する」
「何言ってるの、実家でしょう?」
「そうだよな、うん!
震える手でインターホンのボタンを押そうとするが、緊張で指が震える。
普通は、相手の家に挨拶に行く時に緊張するものじゃないのか? ここは俺の実家だぞと優輝は自分に言い聞かせた。
しかし、何でこんなに緊張しているのだろう。
それはきっと、無意識に
凡庸な自分が、こんなに優秀で綺麗な女性とお付き合いしているなんて、誰が信じるというのだろうか?
等とウダウダ考えて中々ボタンが押せない。
すると、急に玄関ドアが開いた。
「あーもう! 早く入って来なさいよ!」
痺れを切らせた両親が飛び出して来た。
事前に今日彼女を連れて行く事を連絡してあったのだ。
外にタクシーが止まった音が聞こえたので、玄関で待ち構えていたのに、いつまで待っても入って来ない。
とうとう待ちきれなくなって自分達から出て来てしまったのだそうだ。
「あ、父さん母さん、こちらが今お付き合いしている彼女」
「
「まあまぁまぁ! これはご丁寧に」
「これはこれは、お綺麗なお嬢さんだ。優輝には勿体無い位だなあ、母さん」
「こんな所で立ち話もなんですから、中へどうぞ」
中では
優輝は、二人は結婚の意思がある事、優輝の妊娠を言ってもどうせ信じては貰えないだろうからその事は伏せて、近い内に籍を入れる事、会社を設立している事、政府機関とも取引が有る事、既にかなりの収入がある事、家ももう建ててしまって一緒に住んで居る事、大学は二人共中退してしまった事等を報告した。
両親は、情報量が多すぎて頭がパンクしている様で、フリーズしている。
勝手に大学を辞めてしまった事に関して怒られるのかなと思ったのだが、
そもそも、大学を卒業するのは、その学んだ知識だったり大卒と言う肩書が、就職に有利だとか高収入を確保するのに有利だからだとかいう理由だろう。
卒業する前にその目的を達成してしまったのだから、もう大学へ通う理由そのものが無く成ってしまったとも言える。
両親は優輝を手招きし、台所まで引っ張って行って小声で訪ねた。
「優輝、あんな優秀なお嬢さんとどうやって知り合ってどうやって付き合う事に成ったんだ?」
「そうよ、あなたには勿体無い以上に、釣り合っていないじゃないの! どういう事なの?」
「そんな事言われても……」
「まさか、弱みでも握って……」
この人達は自分の息子を何だと思ってるんだ?
「お待たせしちゃって御免なさいね、ぜひ御飯食べて行って下さいね、おほほ」
やっと両親から解放されて
「優輝君にはとてもお世話に成っています。私の研究も事業も優輝君無しには有り得なかった物で、とても感謝しているんですよ」
どうやら台所での会話は聞こえていた様だ。
両親は面目無さそうな顔をした。
食事は、全て出前だったが、寿司に中華に和食と、どれも高い店から取り寄せた物で、随分張り込んでしまった様だ。
優輝の母親は、優輝の幼い頃から共働きだったので料理の腕はお世辞にも上手とは言えなかった。
なので街で美味しいと評判の店からの取り寄せにしたのだろうが、かなり頑張っちゃったんだなと優輝は思った。
きっと一人息子が初めて連れて来たお嬢さんに良い印象を与えたいと、奮発したのだろう。
食事はとても美味しく、終始和やかな雰囲気だった。
「どうも御馳走様でした」
「せっかく来てくれて何のお構いも出来ませんで」
「また来てくださいね」
両親は名残惜しいという感じだった。
最初は泊まって行って下さいと引き留められたのだが、仕事が押しているので直ぐに帰らなければ成らないという事で断り、実家を後にした。
「良いご両親ね」
「そうかぁ? 変な感じだったろう?」
「ちょっと面白かったわね」
「だろ? うちの親変なんだよ」
「あはは」
父親は、優輝達が帰った後、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、当初の目的だ」
「そうね。この辺りなのかしら?」
優輝と
優輝が中学生の頃、幽霊を見たという場所を見に行く為だ。
「だいぶ町の様子があの頃とは違っちゃってるんだよなぁ……」
今では道路は綺麗に整備されてしまっているし、古い家は建て替えられてしまったり、当時あった生垣なんかも無く成ってしまっている。
大きな敷地の農家のお宅だった場所も、分割分譲されて小さな新築の建売住宅が五軒位建って居たりする。
優輝が地元を離れていたのはたった二年程度なのだが、まるで浦島太郎の様な気分に成った。
町の変化する速度というのは、想像以上に速い物なのだ。
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