第93話 バリアーの仕組み

 「このスマホ、電池が長持ちなのは良いけどかなり重く成ったよね」

 『鉛電池だからね』

 「時代に逆行だね。退化だね」

 「退化の改新…… あ、何でも有りません」

 「はい、おもしろーい」

 「くっ! 殺せ!」


 『冗談はさておき、初期設定のバリア反射率500%は、100%に変更して置いたよ』

 「バリアのフルパワーの連続稼働時間はどの位?」

 『新しい電池で二ヵ月位は持つと思うよ』

 「バリアって結構パワー食うんだね」

 『普通の生活なら時々発動する位で約百年は持つと思うんだけど、連続フルパワーだとキツイかもね。まあ、あれは特殊な条件だったよ』

 「私からもちょっと聞いて良い?」


 あきらもロデムに質問が有る様だ。

 そういえばあきらは、FUMASフューマスの研究室でバリアを商品化出来ないか研究中だったのだ。


 「あのバリアの仕組みって、もしかして拡張空間の仕組みと同一だったりする?」

 『流石はあきらだね。その通りだよ」

 「え? バリアと拡張空間が同じ物? どういう事ですか?」

 「つまりね、衝撃や物体を通さないで反射する仕組みが、同じなのよ。拡張空間の入り口と出口を同じ場所に設置したみたいな感じって言えば解るかしら?」

 「入り口と出口が同じ場所?…… ああ! 通さない仕組みは、入出権限か! 反射は入り口イコール出口だから?」

 「そう、反射率は、内部の時間制御ね。ゼロ時間で反射ゼロ、時間を加速させればエネルギーが加速して出て来るの」

 『中々鋭いね。ボクはあきらとこういう話をするのは好きだよ』

 「じゃあ、拡張空間を沢山設置すると、バッテリーの消費もどんどん多く成るって事?」

 『うん、設置する時にはエネルギーをある程度消費してる。だけど、設置済みの物の維持にはコストはかからないよ』

 「そうなんだ、良かった」


 ユウキは、設置済みの拡張空間に維持費が掛かっているとすると、当初の予感通りに無暗矢鱈に設置しまくるのは控えた方が良いのではないかと思ったのだ。

 しかし、一度設置してしまった物に関しては、スマホのバッテリーからのエネルギー供給は無く、放置でも大丈夫との事。

 もしそうなら、ユウキのスマホのバッテリーが切れた時に、設置済みの空間の幾つかが消滅している筈なのだから。

 そう成っていないという事は、何らかの他の方法で維持されているという事に成る。


 『つまりね、例えばユウキがナイフで紙の真ん中を四角く切り抜いて穴を開けたとするよね』

 「うんうん」

 『そういう事』

 「え? 良く分からない」

 「私から説明するわ。紙にナイフで穴を開ける時には、ユウキの筋肉がエネルギーを使っている訳よね? でも、その後は何もしなくても紙に開いた穴はずっとそのままよね? 勝手に塞がったりはしないでしょう?」

 「ああ、そういう事か。一度開けた拡張空間は何もしなければずっとそのままって事なんだ」

 『そう、あえて埋めたりしない限りはね。埋める時には開ける時の何倍ものエネルギーを消費するんだ』


 拡張空間は、四次元的に空間に開けた“穴”だという事らしい。

 確かに三次元でも壁を殴って穴を開けるのは一瞬だけど、それを元通り修復するのは大変な作業だ。


 「じゃあ、バリアの質問! 何でバリアはあんなに消費エネルギーが多いんですか?」

 『それは……』

 「それは!」

 『あ、あきらどうぞ』

 「あ、うん、間違ってたら訂正お願いね。バリアの場合は、入口と出口を一度に生成しているわけで、この時点で消費コストは二倍よね?」

 「うん」

 「で、動かない壁や地面みたいな面にでは無く、空間に作成されています」

 「はい?」

 「ユウキが動き回る毎に、新たに空間に作成され続け、元の場所にある物は都度埋められます。それが物凄い短時間に繰り返し行われています。大体百万分の一秒毎かしら?」

 『一千万分の一秒だよ』

 「そんなに!? 百万分の一秒なら例え音速で動いたとしても大丈夫かなと思ったんだけど……」

 『音速で動いた場合、百万分の一秒だと大体0.34mmだよね。身体に密着してた場合、皮膚が削れちゃうかも知れないから』

 「奥歯に加速装置のスイッチでも入って無ければそんな速度で動けないわよ」

 『三倍の安全圏を取るのは基本だよ。ボクは念を入れて十倍にしてみた』

 「だから、エネルギーは湯水の如く消費され続けたという訳か」

 「そう」

 「だったら、バリアが発動したら微動だにしなければ良いのかな? というか、空間に張らないで体表面とか身に着けている衣服やアクセサリーの表面に作成したら良く無い?」

 「えっ……」

 『えっ……』

 「何? どうしたの?」

 『ええーっと、ちょっとバリアのアップデートをしようかなー?』

 「ロデムさん?」


 ユウキ曰く、ロデムは完璧じゃないから好きなんだそうだ。

 ユウキが以前から思っていた疑問、移動する物体、例えばバスの車体とかに拡張空間を作った場合、そのバスが動いてしまったら、拡張空間は一緒に付いて行くのか、またはその場に置き去りに成るのか、その質問もしようと思っていたのだが、はからずも勝手に答えが出てしまった様だ。


 「でも、体表面から10cmとか距離を設定出来る方式も捨てがたいわ」

 『じゃあ、バッテリー消費爆速モードでそれも残して置くよ』

 「爆速モードって、あはは」


 その爆速モードでも連続二ヵ月は持つらしいので、多分使わないと思うけど一応残してくれると言うので、何かの時にはきっと役に立つ事でしょう。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 今日は、ドラゴンズピーの販促動画を撮影する日。

 アキラも出演しないのはズルイとのユウキの声により、今回はアキラが司会をする事に成った。

 カメラは、三脚で固定したまま回しっぱなし。後で編集する事にした。

 ユウキとロデムの二人は、後ろでバックダンサーだ。


 しかし、いざ撮影を開始すると、アキラの顔の角度が気に入らないとか、声のトーンを間違えたとか、声が変だとか、何回も撮り直しをしたせいで、ビデオの撮影時間は五時間を越えてしまった。


 「アキラ―、もうこれで良いよー。全部同じだよー」

 「いいや、全然ダメ! もっと良い物が撮れる筈! ああ、カメラマンも同時に出来ないのが歯痒い!」

 「切り張りしたら後ろで踊っているダンスが繋がらなく成るよ」

 「いや、そこはどうでもいいでしょ」

 「良く無いよ! あれを楽しみにしてくれている人も居るんだから!」

 「じゃあいいよ。不本意だけど、この最後のやつが一番出来が良い気がするからこれで行こう!」



 という訳で、販促動画第四弾!『ドラゴンズピーのピーって何?』が公開された。


 例によって、動画の構成は同じ。

 メインの司会者が商品を開設し、後ろでバックダンサーが踊っている。

 そして、詳細は概要欄でとの文字テロップ。


 Q:今回の司会のイケメンはどなたですか?

 A:動画監督のアキラです。何時もはカメラ担当なのですが、今回出演させたら自分の映りばかり気にして名乗るのを忘れていた様です。


 Q:で、ピーって結局何ですか?

 A:幼児言葉で『おしっこ』の事ですね。糞尿纏めてピーと言う事もあるみたいです。


 Q:本題ですが、後ろで踊っているユウキとロデムは何を踊っているのでしょう? 今回難しくて分かりません。

 A:こちらから答えを言う訳にはまいりません。


 Q:拙者が答えてしんぜよう。あれは『ハートキャッチ☆パラダイス』でござる。二人で踊っている所から直ぐに分かりましたぞ。

 A:正解です。江戸時代の方ですか?


 Q:オオカミの尿よりも強力だそうですが、どの位強力なのですか?

 A:原液の瓶の蓋を取っただけで近隣のペットが泡を吹いて気絶したそうです。森の生態系を破壊しかねないので、薄めて販売しています。やっと商品についての質問が来て嬉しいです。


 Q:過去の商品とは逆に安くて不安なのですが?

 A:実用品関係は出来るだけお安く提供しようと思っています。


 Q:これも対面販売ですか?

 A:対面というか、直接お届けに上がります。これは身分証明書は必要有りません。


 Q:これも現金のみですか?

 A:ご不便をおかけします。



 という訳で、購入者の筆頭は各地の猿害や猪害に悩む地域の農協さんと、個人購入の農家さん。その他、家庭菜園をしている個人が少し。

 畑関係以外では、北海道のハンター、山歩きのハイカーや登山者、山菜取りで山へ入る人等が、熊避けに持つというケースがあります。

 熊避けスプレーやオオカミの尿よりも遠くから効果が有るうえ安いので、順調に販売数を伸ばしています。


 内調の麻野さんに聞いてみた所、これは海外への販売も可能という事で、虎避け、ライオン避け、カバ避け等、日本には居ない動物用途にも仕様出来る為に徐々に海外展開も視野へ入れている。

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