第67話 ユウ国
「ねえ、こっちの世界にはどうやら冒険者ギルド的なモノは存在しないという事は分かったけど、ファンタジー的な要素、例えばドラゴン的な生物は居るのかな? ゴブリンとブロブと豪角熊だけじゃおっかないというか詰まらないんだけど」
『うん、ドラゴンは居るよ。前に見た事があるよ。といっても、一万年以上も前だけど』
「へー、未だ居るのかな? 絶滅していなければ見てみたいな」
『うーんとね、西にずっと行った、海を越えた先のとっても大きな火山の所に居たよ』
「海を越えるって事は海外なのかな? いや待てよ、火山って事は九州辺りの可能性も……」
ドラゴンが居ると知れば、俄然見てみたく成るというもの。
ロデムが出歩ける様に成ったら案内して貰おうとユウキは思った。
「こっちの世界ってさ、他にスキルとかレベルアップとかのファンタジー要素は無いのかな?」
「それ、ファンタジー要素じゃなくてゲーム要素だよ。そんな物は無いんじゃない? あ、でも魔法は有るって言ってたよね、確か」
「言ってた言ってた! 魔法! 見てみたいな」
「何処へ行けば見れるんだろう?」
「確か魔法使えると徴兵されるって言ってたから、軍隊?」
ビベランとの商談の途中、ビベランがエイベルに耳打ちされて途中離籍したので、ストレージからアイスクリームを出して食べながら二人で雑談していると、戻って来たビベランにそれを見られてしまった。
「あー! ちょっと何それ! 何食べてるの!?」
「ちょっと食べてみる? あーん……」
「あーん…… ん! んん? ちょっと! 何これ何これ―!?」
「よし! お約束キタコレ! これはアイスクリームと言いまして、うんぬんかんぬん」
はい、絶対食い付いて来るのが分かってて、わざとアイスを食べてました。
アイスクリームのレシピと業務用冷凍冷蔵庫をセットでお買い上げ。
ビベランには新しいアイスクリームを出してあげて、エイベルやシェフ連中も興味深そうにこっちを見ているので、皆に一個ずつ出してあげて、商談の続き。
「冷たいお菓子って言うのが斬新だわー。暑い夏とか絶対に受けるわー」
「「「おおおお!」」」
厨房の方から野太い声の歓声が聞こえて来る。
「でしょでしょ」
「あなた達、狙ってたわね?」
「まあね、せっかくだから色々商売したいし」
「こんな物、思惑通りに乗るしか無いでしょう!」
「毎度アリー!」
「精々稼いで頂戴。私達の商会も儲かってお互い損は無いしね。元は直ぐに取れると思うわ。ところで、さっきちょっと聞こえちゃったんだけど、魔法に興味有るの? あなた達、もう魔法使ってるじゃない」
「私達のは魔法とはちょっと違うモノなんだ」
「ふうん、そうなの? でも、出来る事は似た様な感じよね?」
「私達、本物の魔法は見た事が無いから、同じかどうかは良く分からないの」
「軍隊は駄目よ、危ないから。……ちょっと待って、ちょっと心当たりが有るわ」
ビベランはちょっと考え事をしてから二人の方を向き直って言った。
そして立ち上がると、二人を手招きして拡張空間の扉を開けた。
「お母さーん、居る―?」
「ああビベランかい? どうしたこんな夜に」
夜とはいえ、日本での午後七時位だ。
日が落ちたばかりなのだが、街灯等の明かりが全く無いので周囲は真っ暗だ。
「あのね、この子達が魔法に興味が有って、魔法を使える人を探しているのよ」
「魔法使いを探しているだって?」
「それでね、軍隊へ行ってみようとか言ってたから、それは止めたんだけど」
「駄目だよ! 軍隊は!」
凄い大きな声で怒られた。
子供と亭主を取られた恨みは一生消えないのだろう。
「それでね、あの森の魔女はどうかなって思って」
「ああ、あいつかい?」
「あいつを紹介しても良い物かどうか、お母さんの意見を聞こうと思って」
「うーん、あいつかぁ……」
お婆さんとビベランが腕を組んで考え込んでしまっている。
「ねえねえ、あいつって誰なの?」
「え? あ、うーんとね。ちょっと知ってる魔法使いなんだ。国とか軍隊とかは関係無いから、そういう点では安全というか、でもそうでも無い様な……」
「歯切れが悪いな!」
「どんな人なんですか?」
ビベラン達一家が逃亡生活をしていた時に偶然出会ったそうだ。
悪い奴という訳では無いそうだが、とにかく人嫌いで森の中の一軒家に一人で住んでいるのだという。
「いかにもなのキター!」
「え? 誰か来たの?」
「あ、いや何でも無いです。もっと詳しく教えて」
「とにかく人嫌いなエルフでね、最初の出会いはそりゃあもう……」
「エ、エルフ! キキキ、キター!」
「こら、ユウキ!」
「え? あのエルフが来たのかい?」
「違うんです、私達エルフに会った事無いんで、特にこの子エルフに会いた過ぎて興奮してるんです」
「そうなのかい? あんた達も森に住んでいたなら噂位は聞いた事有るんじゃないのかい? まあ一応紹介状は書いてやるけどさ、向こうの方が遥かに年上なんだから、失礼の無い様に行儀よくするんだよ」
「「はーい」」
何か色々属性盛り込んで来たっぽいエルフの魔法使いに会いに行く事になった。
どうやら
一応森の中に細い道らしき物は在ったそうで、お婆さん達一家はそこを通って来たのだそうだ。
ただ、その道は北の方角に在るという治安の悪い国の方へ続いていて、そこを経由して行かないと絶対に迷うというか、辿り着けないだろうという事なので、その治安の悪い国『ユウ国』へ向かわなければならなくなってしまった。
お婆さん曰く、『まああんた等二人なら大丈夫だろう』という事で、危なく成ったら例の空間通路で帰っておいでと言われ、送り出して貰った。
「ねえ、ロデムはそのエルフの魔法使いの話は知ってる?」
『ボクが眠りに就いたのは一万年以上も前だから、いくらエルフでもそんなに長く生きてはいないんじゃないかな』
「そうだよねー。何か手掛かり無いかな。そうだ、その辺りの地図を出せる?」
『出せるけど、ボクの知っている時代にその辺りに人は住んで居なかったから、道も無いと思う』
「そっか、だよねー……」
「行って確かめてみるしか無さそうだね」
スマホのロデム謹製地図アプリにこちらの世界の地図を表示させても、北の方角は広大な森が広がっているばかりで道など無さそうだった。
「あ、そうだ、じゃあ、日本の地図に切り替えて」
『分かったよ』
日本の地図へ切り替えて、イスカ国から北へ40km地点を見てみると、そこは丁度熊谷市の辺りだと分かった。
「よし、明日早速電車で熊谷へ行ってみよう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日朝、電車で新宿、赤羽と乗り換えて、二人は高崎線へ乗り込んだ。
「また、アサ国の時みたいに探すのね」
「正解。如何に治安が悪かろうが、国ならば人は大勢住んで居るだろうから、誰か向こうの人間が見えればそこの近くに町は在る筈だからね」
熊谷駅で電車を降り、優輝は北口のロータリーをぐるりと見回してみたが、人は全く見えない様だ。
「南口側に荒川があるから、異世界でも町が形成されるとしたら川からそう遠くない位置だと思うんだ。駅周辺でもう少し探ってみよう」
「そうね」
二人は手分けして探す事にした。
優輝は目視で見る事が出来るのだが、
ロデムに改造されたスマホを使えば異世界に居る人間を透かして見る事が出来るというのは、それは伊豆ヶ崎駅で写真を写して確認していた。
だったら、別に写真を撮らなくてもカメラを通して液晶ディスプレイで確認出来るのではないのかと思い、浅草でやってみてそれも実際に確認済みだった。
暫くして、
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