第66話 実体化ロデム君
頭の上から渦を巻く様に、顔、体、脚へと色が付いて行く。
ロデムは何だかジョジョ立ちみたいなカッコいいポーズをしている。
つま先まで全部色が付き終わると、ゆっくりと目を開いた。
その眼の色は、吸い込まれる様な美しいブルーだった。
薄ピンク色の肌の色と、髪の毛は金髪。
顔の造作は、ギリシア彫刻の様に彫りの深い顔立ちなのだが、男なのか女なのか良く分からない中性的な顔立ち。
胸の辺りを見ると、男なのかな? と思うのだけど、もっと下を見ると、???となった。
無いのだ。何も無い。男の物も女の物も何も無い。
「綺麗……」
アキラが思わず呟いた。
確かに、男として見ても女として見ても違和感が無い。どっちだと思って見ても『綺麗』だと思った。
「ねえ、ロデムは男なの? 女なの?」
ユウキは、疑問に思った事を素直に聞いてみた。
『ボクは、男性でも女性でも無いよ。中性なんだ』
ロデムの口は確かに動いていて喋っているのは分かるのだが、その声はこの空間内の何処からともなく聞こえているという、以前と同じ不思議な感じだった。
「中性というのはどういうの?」
「男も女も出来るって事?」
『うーん、説明するとちょっと長く成るんだけど、いい?』
「「どうぞ」」
ロデムによると、中性というのは文字通り男と女の中間の性なのだそうだ。
我々の世界では、有性生殖はオスとメスの二者で行われる訳だが、ロデムの種族ではオスとメスと
何故高等な生物は単性生殖ではなく雌雄交配を行うのかというと、遺伝子の組み合わせを変えて多様性を生み出す為なのだ。それは何故か。
単性生殖では子孫は全てクローン体となるが、それだとその種族特有の病気等が流行した時に全滅しかねない。
現に食用のバナナや桜のソメイヨシノはクローンで増やしている訳だが、バナナはパナマ病という病気が広まり、絶滅の危機に陥りかけた。桜も桜特有の伝染病が流行り、何度も全滅しかけた。
その点雌雄交配の生物は、遺伝子に多様性を持たせる事が出来る為、絶滅に瀕する様な環境変化や病気が蔓延しても生き残る可能性を生み出せる。
ロデムの種族の三者交配では、更に遺伝子の組み合わせを増やしている。これは種族保存の為のセーフティなのだそうだ。
つまり、ロデムの様な寿命が極端に長い種族は、次世代が生まれる確率が非常に低く個体数も少ない。つまり遺伝子のバリエーションが少ないのだ。
そこで、組み合わせのコマを増やす事に寄って、多様な遺伝子のバリエーションを増やす様に進化したのだという。
男性が中性と交配し、男性の遺伝子を中性が受け取り両者の遺伝子が組み合わされる。その後中性が女性と交わり、二者の組み合わされた遺伝子を女性が受け取り、三者の遺伝子の合わさった子を妊娠するという、そんな種族なんだそうだ。
「へー、じゃあ、アキラの遺伝子を受け取ったロデムが私とやれば、三人の遺伝子を持った子供が出来たりするの?」
『うん、出来るよ』
「え? ちょ、ちょっと!」
『心配しないで、三者の合意無くしてそれは出来ないから』
「ホッとした」
四次元人であるロデムの種族は三次元人とも子を成せるというのか、驚愕の事実だ。
アキラはユウキがロデムとこっそりそんな事をしようと思ってるのかと思って焦った様だけど、ロデムの言葉で安堵した様だ。
ロデムの言葉は、倫理的に出来ないという他にも、男性の遺伝子を受け取らない内に女性とそういう行為は出来ない様に体の構造が出来ているという意味でもあった。
人間以上に倫理観の強い種族なのかも知れない。長寿の種族故なのか、人間みたいに異性に対してガツガツしていない感じがする。
『でも、ボクとしてはアキラもユウキも大歓迎だから、そういう気に成ったら言ってね』
「うん!」
「うん、じゃないでしょ、もう!」
四次元人と三次元人の間で子供が作れるというのも驚きだが、アキラはユウキがちょっと満更でも無い風なのが少し気に成った。
これは、女性の特徴というか傾向なのかもしれないが、他所の土地へ行って他所の民族と交配する心理的ハードルは、圧倒的に男性よりも女性の方が低いと思われる。
実際に日本に住んでいる国際結婚カップルで、日本人男性と結婚した外国人女性の方が、その逆よりも二倍以上も多いのだから。
これは、今に始まった事では無く、世界中で古代からそういう傾向が有るのだ。
例えば、縄文時代に弥生人が大陸から渡って来て、現地の縄文人と混ざり合って定着した。
この場合、弥生人の男が現地の縄文人の女と結婚したというよりも、弥生人の女が縄文人の男と結婚して二つの民族が融合していったと考えた方が合理的だと思われるからだ。
何故なら、侵略者側が現地の女性を取ったら戦争に成るだろう。逆に侵略者側の女が現地の男とつがいに成るなら争いは起こらないだろうと推測出来るからだ。
縄文人と弥生人が戦争をしたという話は聞かない。穏やかに両者は融合していったというイメージだ。
つまり、男は性欲という本能に支配され、女は遺伝子の多様性を本能的に求めている。だから、女は自分から最も遠い遺伝子を求める。
ぶっちゃけると、男は遺伝子を多くばら撒きたい、女は受け取る遺伝子を厳選したいと思っているという事だ。
アキラは、今女性のユウキが異民族どころか四次元の異種族でも受け入れオッケーに成っている所が、段々と女性脳に最適化されて来ているのかもしれないと思った。
「と、それはそうとロデム、早くこの服を着て」
『うん』
ロデムがいつまでも裸ん坊のままなので、服を着せる事にした。
二人より10cm程背が高いけど、フリーサイズだから何とか成るでしょう。
……と思ったら、パンツが七分丈になってしまった。脚長いというか、東洋人が短足胴長なんだけどね。
ユウキのストレージから出した服を着せると、ロデムはまるでスーパーモデルの様だ。
「男の服を着せれば超イケメンだし、女の服を着せれば超美人って、なんだそりゃ!」
「おお、これは着せ替えが捗る」
何を着せても着こなしてしまうなんて、ずる過ぎる。
「そうだ! 次のナイフの広告動画は、ロデムメインで撮りましょう」
「えー、私はバックダンサーに格下げですかー?」
「まあまあ、大事なのはアクセス数なんだから我慢して。それにユウキはメインやるの嫌がってたじゃない」
「それはそうなんだけどさー。何か納得いかない」
『ユウキが嫌ならボクやらないよ?』
「いやいや、そうじゃないよ、ちょっと拗ねただけ。私もロデムがやったら凄く良いのが撮れると思う」
『そう? ならやるよ』
かくしてロデムメインでミスリルナイフの販促動画は撮影され、公開された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
動画のコメント欄には様々な意見が寄せられた。
Q:動画のメインで喋っている美人さんはどなたですか?
A:以前に後ろで踊っていたロデム君です。バージョンアップしました。
Q:メイン司会を何故変えたし。
A:ユウキよりバックダンサーだったロデム君の方がより優秀だった為交代に成りました。
Q:ロデムはCGですか? やけにリアルですが
A:四次元生物ですが、三次元へ実態化する事に成功しました。
Q:ユウキの踊っているのは、ピンポンパン体操ですか?
A:音楽が無いのに良く分かりましたね。その通りです。
Q:この動画は販促ビデオなのか? それともジェスチャークイズなのか?
A:販促ビデオです。
Q:ミスリルナイフは改良されてますか? 例えば誰にでも扱えるようにとか
A:職人の腕が上がって以前の物よりも出来は良いですが相変わらず誰でも使えるという訳では有りません。
ミスリルナイフ二十本は、あっという間に売り切れた。
一本一千万円なのに、これだけ現金で買える人が居る事に驚きだ。
ロデムの正確無比な精密機械の様な手捌きで、砲丸がトマトの様に薄くスライスされて行く様は圧巻だった。
ミスリルナイフの購入者が、それを動画サイトやSNSに上げている事も人気に拍車が掛かっていた。
次の販売前に予約をしたいという声が多数聞かれるのだが、転売屋または外国人による成り済まし購入を避けるために同一人同一地域からの予約は弾き、その中から抽選にする事に成った。
実はこのミスリルナイフは、内調の麻野から戦略物資指定を受ける事に成ったと言われたのだ。
まさかこんな高額賞品に転売屋は居ないだろうと思ったら意外と居るもので、二倍から三倍で転売しても欲しがる人が居るらしいのだ。
また、外国人が金を掴ませた日本人に代理で購入させるという手口があると言われ、その対策を考えていた所だった。
そういった良からぬ考えの
抽選にしたら物凄い物量で攻めて来る事も考えられるのだが、他に思い付かない。
販売数が少ないので、一般的な転売対策もあまり効果は無いかもしれない。
まあ、優輝が一人一人の所へ出向いて対面で売買契約をしているので、同じ人の購入かどうかは直ぐ分かる。
購入希望者についても、同一人は元より同一地域からの購入者は成るべく避け、成るべく地域を分散させた上で抽選としている。これである程度外国への流出は避けられそうだ。
金属加工業者及び金属加工工具メーカーからも幾つか問い合わせが来ているが、実際に人間が手に持ってエネルギーを通さないと使用出来ないので、そっちの話はお断りしている。
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