第63話 ビベちゃんに叱られる

 「こんにちはー! 親方居るー?」

 「ああ、あんたらか。親方なら店の方だが、呼んで来ようか?」

 「いや、良いよ。ちょっと来たから寄ってみただけ。進み具合はどうかなって思って」

 「それがな、前にあんたらが来てから親方の調子が良くってな、物の十日程でナイフ二十丁打ってたぜ」


 奥の棚から木箱を持って来て、その中に入っているナイフを見せてくれた。


 「どうだいこの出来。前の物とは比べ物に成らないだろう? 間違い無く伝説レジォンドクラスに至っているんじゃないか?」

 「私らには刃物のランクなんて良く分からないけど、凄く良い出来なのは分かるよ」


 ユウキがその刃物を手に取ると、ブレードのエッジが光り輝く。間違い無くミスリルは使われている様だ。


 「俺も早くこのレベルの刃物を打てる様に成りたいぜ。あとちょっとで何か掴めそうな気がするんだがなぁ」


 結構修行を積んでいるらしいその男の右腕は、太く逞しい。

 神経のエネルギーラインを見ると、結構育って居るのが分かる。

 道路で言えば、国道レベルといったところか。もうちょっとで交通量倍増しそうではある。免許皆伝も近いかも知れない。

 ユウキ達の力を使えば、それを高速道路ハイウェイレベルに修正してやる事も出来るだろう。


 「ねえ、力加減のコントロールが難しいって事だよね? この間親方にやってあげたみたいにほぐしてあげようか? ちょっと右手見せて」


 ユウキがその男の右腕を取ろうとしたら、横で見ていたアキラが横槍を入れた。


 「はーい、ストップ! それは俺がやりますー!」


 ユウキに他の男に触れて欲しく無いらしい。

 アキラはユウキを退かし、男の右腕を取った。

 男は少し残念そうな顔をした。


 「アキラの方が上手だから任せてみて」

 「お、おう、そうか」


 アキラが男の腕のエネルギーラインを透視すると、全体的に太く良い感じに育ってはいるのだが、手首の辺りが少し細く滞っているのが分かった。

 肘から手の甲に掛けて、細く見えるラインをアキラは人差し指でなぞって行く。


 「ふ、ふおおおおおぉぉぉーー!! やべえ、何か変な感覚に目覚めそうだぜ!」


 その声が聞こえたのか、店の方から親方が怒鳴りながらやって来た。


 「お前ら! 何変な声を出してやがる! あれ、あんた達来てたのかい」

 「お邪魔してます! 近くまで来たので、ちょっと様子を見に来ました。ナイフの出来が素晴らしいですね!」

 「そうだろう、そうだろう! 会心の出来だぜ。伝説レジォンドクラスと名乗っても文句はあるめぇ」

 「通し番号ももう入っているみたいなんで、今日これを持って行っても構いませんか?」

 「おう、良いぜ! 代金は預かっている分でまだ足りてるからな、そのまま持って行ってくれ!」

 「じゃあ、次の制作に入って貰って構いませんよ。二十本と言ったけど、出来たら出来た分全部買い取りますから宜しくお願いします」

 「そうかい? ありがてえ! やればやる程儲かるな! あんたらは神様だ」

 「喜んで頂いてこちらも嬉しいです。じゃあまた一か月後に」

 「おうよ! またな!」


 親方は終始にっこにこだった。

 鍛冶屋はそうそうドカンと儲かる仕事でも無いのだろう。定収入の当てが出来て嬉しそうだ。


 「夜まで時間有るけど、一旦日本に戻る?」

 「戻らなくたってロデムの所で良いじゃん。やろうよ」

 「だから、向こうに戻ってやりたいんだけど」

 「どっちでも同じでしょう?」

 「全然違う! 男の優輝で女のあきらを抱きたいの! だってさ、邪魔されてばっかりなんだもん」

 「確かに、うちの親だったり医学部のあいつだったり、いざって時に邪魔されてるよね」

 「もうね、いいかげん優輝の優輝が暴発しそう」

 「わかったわかったから!」


 ユウキはアキラの手を引いて伊豆ヶ崎駅ポイントへ出る裏路地へ走った。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 裏路地からゲートを通り伊豆ヶ崎駅ポイントへ、そこに設置した拡張空間からあきらの部屋へと移動するなり、優輝は服を脱ぎ出した。

 あきらはその様子を楽しそうに眺めている。

 優輝は上半身裸になり、あきらをぎゅっと抱きしめ、首筋にキスをした。

 そのままベッドへ倒れ込み、優輝はそのままの姿勢で止まった。


 「どうしたの?」

 「いや、前回はここで邪魔者が入ったから」

 「今日はもう大丈夫」

 「そうだな」


 優輝はあきらの服のボタンに手を掛け、上から一つずつ外して行く。

 ここであきらがクスッと笑ってしまった。


 「何だよ」

 「いえ、男の人の性欲って、可愛いなと思って」

 「向こうでのアキラはもっと凄いんだけど」

 「そうなんだけど、女の体の時に男性の優輝から向けられる欲望を感じると、何か嬉しいって言うか私の体に夢中に成っているあなたが可愛くて仕方が無いの」

 「んー、ああ、何か分かる。そうだよな」

 「男は女を可愛いと思って抱くでしょう? でもその時女も男を可愛いと思うのよ」

 「そうだね」

 「だからといって、誰でも良いという訳無じゃいのよ。優輝だから良いの」

 「そうそう、アキラだから良いんだ」

 「愛してる」

 「俺も」


 それから二人は凡そ四時間程愛し合っていたのだが、優輝が何かに気が付いた様に飛び起きる。


 「あっ! いけね! もうこんな時間だ!」

 「ん~、なぁにぃ?」

 「ビベランの所に納品しないと!」

 「あっ! そうだった!」


 二人は慌てて服を着替えると、伊豆ヶ崎駅ポイントからゲートを潜り、そこの拡張空間からアサ国にあるビベランのレストラン横の路地へ飛んだ。

 急いで裏口へ回り、ドアをノックして警備の人に通して貰う。

 待っていたエイベルさんに三階の社長室へ通して貰うと、そこにはカンカンに怒ったビベランが待っていた。


 「遅ーい! 一体何やってたのよ!?」


 エッチしてましたとは言えない。


 「御免なさい、ちょっと野暮用で」

 「仕事ビジネスは一分一秒が命なんですからね! ボーっと生きてんじゃねーよ!」

 「本当に御免なさい、反省してます」


 勢いでつい怒鳴ってしまったけど、二人の落ち込み様を見てビベランはちょっと言い過ぎたかなと反省した。

 このまま絶望して国にでも帰られたら、いやそこまで行かなくても取引中止になんて成ったら困る。損をするのは自分の方なのだ。

 あの空間通路だって止められたら絶対に困る。お母さんにだって怒られる。怒ったお母さん超怖いんだから。

 この場は何とか取り繕わなければならないと焦り始めた。


 「済みませんでした。今日はこれで帰……」

 「あ、あー! 待って待って! ま、まあ、反省してくれたなら良いわ。さあ、あなた達の為に夕食を準備してるんですからね。食べて行って頂戴」


 下の階のレストランフロアに降りると、大テーブルにお婆さんやラコンさん一家も勢ぞろいしていた。


 「おや、随分と遅かったね。もうお腹ぺこぺこだよ」

 「はい、上で遅刻したことをビベランに怒られて……」

 「あ、あー! あー! その話はもう御終い! 水に流しましょう!」

 「はあ? 遅刻でビベランに怒られてたってのかい?」

 「はい、ビジネスの基本を疎かにしてました。すみませんでした。」

 「おやおや? あの遅刻魔のビベランが? 偉く成ったもんだね」

 「わー! わー! お母さん!? お料理が冷めちゃうから皆、頂きましょう!」


 テーブルには沢山の美味しそうな料理が並んだ。

 特にメインなのは、アキラの持って来た香辛料と調味料を使った料理だ。


 「おお! これは美味いな! 初めて食べる味だ!」

 「でしょでしょう。うちのシェフと毎日遅くまで研究したんだから」

 「へえ、大したもんだ。なあ、アキラ君」

 「そうですね。とても美味しいです。このパンさえ何とかなれば」

 「ん? このパンが何か?」

 「はい、もっと柔らかく成れば良いのになと」

 「パンを柔らかく?」

 「パンなんて何処でもこんなもんじゃ無いのかい?」


 アキラはストレージからロールパンを取り出し、皆に配った。


 「おお!」

 「まあ!」

 「なんと!」

 「ふっかふかだー」

 「これって、どう成っているんだろう?」


 ビベランがパンを割って中身を確かめている。


 「中に細かい気泡がいっぱいあるんだ」

 「そうなんです。こっちのパンって、何を使って膨らませているんですか?」

 「いや、膨らませてはいないかな」

 「そこなんです。こちらのパンは、中身がぎっしりと詰まっている。つまり硬い訳です。私達の国で言うところのクッキーに近いかも」

 「どうやって作っているんだい? これなら私等みたいな歯の悪い年寄りでも美味しく食べられるよ」

 「これは私達の店でも作れるのかい?」

 「ええ、では次の商談はこれという事で良いですか?」


 アサ国での商売も、なかなか順調な様である。

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