第62話 異世界卸し業が大盛況

 「優輝、ちょっと作るの手伝って!」


 あきらの目の前には、ビベランから注文を受けた電気コンロと卓上IHクッキングヒーターが十台ずつ並んでいた。

 それに永久電池エターナルバッテリーを組み込んで、向こうでも使える様に改造しなければ成らない。

 永久電池エターナルバッテリーは、機器内部に組み込むにはあのままでは大きすぎるので、特別に作った機器内部組み込み用AC100vコンセント一口タイプだ。

 サイズはサイコロキャラメルの箱程度の大きさだが、内部の構成部品はほぼDC-ACインバーターの部品で占められている。


 「電気コンロの方は改造は簡単なのよね。ただの電熱線だから直流DCでも使えるから」


 裏蓋を開けると、中の仕組みが見える。優輝はかなり簡単な仕組みに拍子抜けしてしまった。

 ただ、コンセントからの電流をスイッチでオンオフしているに過ぎなかったのだから。

 火力調節出来るタイプはもうちょっと複雑なのだが、大差は無い。大きさの違う抵抗器に切り替えているとか、電熱線の長さを半分にしているとかで熱量を変えている程度の仕組みだ。

 だからこちらのタイプは、永久電池エターナルバッテリーを組み込むまでも無く、中でコンセントへ繋がるコードを取り外し、両端を結線して銅線自体の質量から電力へ変換して、ぐるぐる電流が流れる様に細工するだけだ。


 だけど、IHの方はちょっと面倒臭い。通常は家庭用100vの交流ACを中の回路で一旦直流DCへ変換した後、高周波の交流ACへ再変換している。

 制御回路は直流DCで動いていたりと複雑な構造をしているのだ。

 直流DC電流が流れている部分の電圧を調べて、それと同じ電圧の電流を流してやれば良いだけの話なんだけど、計測機器が大学の研究室にしか無いので取に行くのも面倒臭い。

 なので素直に一口電源タップ型の永久電池エターナルバッテリーを中にぶっ込んでしまった方が楽だという事に成った。

 直流DC交流ACへ変換し、それを直流DCに変換してまた交流ACに直すみたいな、なんともエネルギーロスだらけの装置に成ってしまうけど仕方が無い。


 ちなみに永久電池エターナルバッテリー直流DC交流ACへ変換するDC-ACインバーター部分には市販品を組み込んである。この部分だけあきら謹製では無いのだ。

 多分、ロデムなら直接交流AC出力させる事なんていとも簡単に出来るのだろうけど、あきらには出来なかったのでそこは市販の物を利用させてもらっている。

 余談だが、逆の交流AC直流DCへ変換する装置はコンバーターと言います。


 「無限電池エターナルバッテリーさ、こっちでは一つ二百万円で売ってるのに、向こうじゃIH込みで十二万円って、こっちの世界でボッタクリ過ぎだよな」

 「確かに。でも、こっちの世界ではその値段でも買う人が居る。向こうではその値段では買ってくれる人が多分居ない。需要と供給の関係ってそういうものじゃない?」

 「そうかもしれないな。こちらの電化製品が溢れた世界では電源は必要不可欠だからなぁ」


 そんなこんなで優輝とあきらは手分けをして、コードレス電気コンロ十台とコードレスIHクッキングヒーター十台を完成させた。


 「ふう、家内制手工業」

 「うん、思いっきり家内制手工業ね」


 二人は一仕事を終えたとばかりに伸びをした。

 家内制手工業をマニュファクチャーと習った覚えのある人は、結構ご年配みたいだ。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「お婆さんこんにちは、消石灰の納品に来たよ」

 「おお、お前達かい。お昼を食べてくかい?」

 「ご馳走に成ります」


 こちらの世界ではお昼には店が休みに成るというのを聞いたので、商売の邪魔に成らない様に納品はお昼時を狙ってやって来たのだ。


 「でも、お昼ご飯を時をわざと狙って来ちゃったみたいになっちゃったね」

 「そんな事若い子が気にするんじゃないよ、もう。さあさ、席に着きな」


 「お母さーん、パンを持って来たよ。お、キミ達も来てたのか、足りるかな? お母さん、足りなかったら俺の分要らないからね」

 「お邪魔してまーす」

 「こんにちはー」

 「こんにちはー!」


 ラコンさんと奥さん、そして末っ子の二人も続いてやって来た。


 「お母さーん、肉と野菜―。あら、あんた達も居たのね、いらっしゃい」

 「お邪魔してます」


 裏口横の拡張空間のドアからビベランが入って来た。

 空間通路が開通してから、ほぼ毎日昼食を一緒に食べにやって来る様になったらしい。


 「ビベランさん、夜にでもコンロの納品にレストランの方へ行きますね」

 「了解了解! よろしくぅ!」

 「あの通路便利だよなー。俺も姉さんに会いに行けて嬉しいよ」

 「ボクも!」

 「あたしもー!」

 「一応あそこは仕事場なんだけどな。ま、良いけど」


 どうやらラコンさんよりビベランさんの方が年上らしい。

 食事が終わり、皆で雑談しながらお茶を飲んでいると、アキラが想い出した様に言った。


 「そうだ、ビベランに下着持って来たんだった」

 「そうなの! 見せて見せて! 楽しみにしてたんだ!」


 アキラがストレージから色違いデザイン違いを何種類か取り出して置いた。


 「ビベランのサイズに合わせて有るから、この中から一つ差し上げます」

 「えー! これも良い! あれも良い! どれにしようか迷う!」


 その中からワンセットを選び、ユウキが着け方のレクチャーをする為に隣の部屋へ移動する。

 暫くごそごそやった後、隣の部屋から『ふおおおおおおぉぉー!』と叫び声が聞こえた。

 その声を聞いて、ラコンさんの奥さんと妹さんが再び目の色を変えてラコンさんに迫った。


 「あなた!」

 「兄ちゃん!」

 「「洗い替えって必要だと思うの!」」


 ラコンさんはまた頭を抱えてしまった。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 昼休みの時間も未だ余っている様なので、暫く顔を出していなかった服屋の方へ行ってみる事にした。

 店は閉まっていて、ドアノブに『昼休み中』という札が掛かっている。

 ドアも鍵が掛かっている様なので、裏口へ回ってみる事にした。


 「御免下さーい!」


 裏口のドアをノックして呼んでみた。

 すると、中から走って来る音がドタドタ聞こえ、ドアがガチャリと開いて息を切らせた店主さんが凄い形相で顔を出した。


 「あなた達! 早く入って!」

 「あ、はい」


 店主さんはドアを後ろ手に閉めると、深く息を吐いた。


 「はあぁー…… あなた達、誰にも見られていないわね?」

 「え? はあ」


 店主さんは深い安堵のため息を吐いた。


 「ふうぅ~、良かった。いや、良くない!」

 「一体どうしたんです?」

 「いやもうどうしたもこうしたも……」


 話を聞いてみると、どうやらあの下着の売れ行きが凄まじいのだとか。

 口コミが口コミを呼び、最初に仕入れた分は瞬く間に売り切れ、入荷はまだかまだかと連日ご婦人達が詰めかけて来るのだそうだ。

 近隣の国からもやって来ては売り切れと聞くと酷くがっかりして帰って行く。

 その内上流階級ばかりかお貴族様達の耳にも入ったらしく、いつ入荷するのだと叱られる毎日。

 しまいには買って帰らないと自分が叱られるのだと泣き落としまで……

 貴族達は他の店にも回っているらしく、同業者からは何処から仕入れているのだとしつこく問い質され、もう何日も眠れない日々を送っているそうだ。


 「ライバルに仕入れ先なんて教えて堪るもんですか!」

 「そうなんですかー、お気の毒に」

 「何を呑気な! あなた達のせいなんですからね! 責任を取って頂戴!」


 責任を取れって言われても、知らんがな。


 「と、とにかく、今持って来ている分を全部買い取ります! もうこの際サイズ別なんて関係無いわ。全種類全サイズ買い取るから全部出せ!」

 「何で命令口調なんですか。出しますよー」


 アキラは奥の作業テーブルへ行き、ストレージに今入れてあるブラとパンツのセットを全部出して並べた。


 「全部で100セットね。もう無いわね!? じゃあ、これ全部をこの前の値段の倍で買い取ります」

 「え? いいの? 金貨五十枚にも成るよ?」

 「この前は悪かったわ。値切っちゃったのよ。本当はこの位の仕入れ値が妥当だと思うの。だから」

 「だから?」

 「ぜっっったいに他の店には卸さないでね!」

 「あ、はい」


 目が血走っていて怖いよ。

 次回の仕入伝票を書いて渡され、誰にも見られない様に店主が先に裏口から顔を外に出し、キョロキョロと辺りを伺ってから良し行けとこっそりと帰された。

 帰る途中、店主さんの名前を聞くのを忘れていた事に気が付いた。


 「まあ良いか、今度来た時に聞けば」

 「また一月後にね」

 「下着でこれじゃ、美容化粧品なんて持って来た日にゃ血の雨が降りそう」

 「化粧品は止めて置きましょう。あれは沼だから」

 「そうなの?」

 「そうなのよ」


 「そうだ、納期にはちょっと早いけど、ついでだから鍛冶屋にも寄ってみるか」

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