第50話 ルパンダイブ

 「次はお婆さんの雑貨屋へ行って消石灰を納品しないと」

 「道具屋じゃなかったっけ?」

 「まあ、どっちでもいいっしょ」


 お婆さんの所が雑貨屋で、ラコンさんの所が道具屋だった。

 まあそれは良いとして、店の前まで来ると、人でごった返していてお婆さんの怒鳴り声も聞こえる。


 「頼むよ! どうしても必要なんだ。何時入荷するんだよ!」

 「そんな事私に聞かれても分からないんだよ! 偶々入った物なんだから!」

 「その商人とは連絡は取れないのかい!?」

 「知らないって言ってるだろ!」


 「お婆さん、どうしたの?」

 「あ、来た」


 お婆さんは慌てて口を両手で塞いだが、その一言を聞き逃さなかった連中が一斉にこちらを見た。


 「ひっ!」


 ユウキは思わず息を呑んだ。

 それ程その場に居る連中の圧が凄かったのだ。


 「お前さんらがあのブロブ避け粉の卸し人なのか!? 頼む! あれを売ってくれ!」

 「ちょ、ちょっと!」


 服を掴まれ、アキラも不快そうな声を上げる。


 「お前ら! 卸しと直取り引きしようなんてしたらぶっ殺すよ!」


 お婆さんの大声でアキラの服を掴んでいた男はパッと手を放し、さぁっと海が割れる様に左右に人が分かれた。


 「さあ、こっちへおいで。お前ら! 今順番に分けてやるから大人しく外で待って居な!」


 お婆さんに手招きされ、二人は店の中へ入って行く。

 お婆さんに怒鳴りつけられた男達は、少し涙目に成って店の外で列を作っていた。


 店の奥に入ると、お婆さんはどっかと椅子に座った。

 ユウキはストレージから消石灰20kgの袋を5つ取り出した。


 「じゃあ、これが今月分に成ります」

 「ありがとうよ、これが代金だ。ちゃんと数えておくれ」

 「ちゃんとあります。毎度有難う御座います」

 「いやしかし、あんたらとんでも無いキラー商品持って来てくれたよ。お陰でたんまり稼がせてもらっているよ」


 お婆さんの不服そうな顔が一転、ニヤリと笑顔に変わった。


 「これは息の長い商品に成るとは踏んでいるが、今の売れ行きは物珍しさも相俟あいまってたまたま好調なだけさね。皆に行き渡ったら落ち着いて来ると思うが、この特需の内にガッポリ稼がせて貰おうじゃないか。来月分は二袋余分に追加で七袋持って来てくれるかい?」

 「それじゃ、僕達はこれで」

 「待ちな、表から出るとまた五月蠅い連中に絡まれるかも知れないから、裏口から出て行きなさい。今度持って来る時もこっちのドアからおいで」

 「わかりました」


 鍛冶屋といい、裏口からの出入りを許可されたのは、こっちの世界での信用を得て来ている証拠なのかもしれないとユウキは思った。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ロデムに戻り、アキラは今日の売り上げの集計を始めた。全てスマホで管理している。

 経理はアキラの担当なのだ。金貨や砂金も全てアキラのストレージへ入っている。


 そんな仕事をアキラに押し付けて、ユウキはロデムの中に入った途端、パパっと服を脱ぎ棄てて小川の中に飛び込んでいた。

 ロデムの中を流れる小川は、温水プール程度の温度で一定しており、ユウキはいつも風呂代わりにしていた。

 外の拡張空間内に風呂とトイレも作ったのだが、そっちの風呂は一度も使用していない。

 石鹸やシャンプーを使うと、せっかっく快適な環境のロデムの中を汚染してしまいそうなので一切使っていないのだが、テレビで体はお湯だけで洗えば良いし、頭も湯シャンとか言ってお湯だけで洗う人も居るって言うのでそれで良いかなと思っている。

 実際は洗わなくても向こうとこっちの世界を行き来するだけで体の構成物質は再構築されているらしいので、汚れも溜まらないし臭いも発生しない。体調もすこぶる良い。


 「ちょっとー、人が一生懸命にお金数えているっていうのに、視界の隅にカワイ子ちゃんの全裸姿がチラついて集中出来ないんですけど?」

 「アキラもこっち来て汗を流そうよー!」

 「もう、しょうがないなー」


 とかいいつつ、いそいそと服を脱ぎだすアキラだった。

 二人でキャッキャ言いながら水を掛け合い遊んでいると、ロデムが川岸にやって来て手を水の中に入れ、触れないのでつまらなそうにしている。


 『ボクもキミ達と触れ合いたいな……』


 ロデムは聞き取れない程の小さな声で呟いた。


 水を掛け合ってはしゃいでいたのから一転、アキラはユウキを真剣な目で見つめている。


 「綺麗だ……」


 アキラはユウキの裸体を綺麗だなと思い、思わず言葉に出してしまった。

 その言葉を聞き、ユウキもアキラを見つめ返す。

 無意識だったのかユウキからアキラの方へ近寄り、アキラの厚い胸板に指を這わせて頬を付けると顔が火照り鼓動が高まるのが分かる。

 何故そんな行動をし、男の裸にときめいているのか分からなかった。ユウキは今、自分は女なんだなと自覚した。

 アキラは、そんな仕草をするユウキが愛おしくて胸にぎゅっと抱きしめた。

 ユウキは顔を上げ、下からアキラを見上げる様に見つめた。


 「ねえ、して欲しいんだけど」


 ユウキの口からそんな言葉は初めて聞いてアキラは昂った。

 アキラはユウキを強く抱きしめ、岸の柔らかな草原の上にそっと倒れ込んだ。


 今までユウキの方から求めた事は無かった。アキラの激しい性欲に答える形でいつも受け身だったから。

 だけど、今回に限ってはユウキの方から求めてしまった。

 やっと体と心バランスが取れ、馴染んで来たかも知れない。

 内から沸き起こる欲求に抗え無かった。


 その日ユウキは女の体で初めての快感を感じ、絶頂というものを知った。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「気持ち良かった。女の気持ち良さって、この満たされる感じなのかな」

 「うん、直接的な快感というよりも、メンタル的な部分が大きいのかもね」


 「ねえ」

 「何?」


 「ユウキさ、ちょっと胸大きく成ってない?」

 「えっ? そうかな?」

 「うん、前より大きく成ってると思う」

 「自分では良く分からないな」

 「ブラトップばかり着てるから分かり難いのかも。今度ちゃんとサイズ測った方が良いかもね。わた、俺が測って上げようか?」

 「それ必要?」

 「うん、必要。服買うにも下着買うにも、自分の体のサイズは知っていた方が良いと思うよ」

 「うへぇ、でも向こうでは男だから、女物の下着なんて買いに行けないよ」

 「じゃあ尚更測ってあげるよ。向こうでは女のあきらが買って来てあげます」


 アキラはストレージからお裁縫箱を取り出した。


 「あっ! それっ! 小学校の時のやつだ!」

 「そう、ずっと愛用してます」

 「なつい! これのロケットの絵のやつ持ってたな」


 裁縫箱からテープメジャーを取り出すと、ユウキを立たせて腕を万歳させてアンダーとトップを測り、何か謎の対応表に当て嵌めてカップ数を割り出していた。


 「ほう、Bカップですか。向こうの私と大体同じスペックですな」

 「そうなの? 見栄張ってるでしょ」

 「こらっ!」

 「ごめんよぅ」

 「冗談はさておき、これなら私が自分の物を買うついでに買って来れるから楽だわ」

 「そんなもんなのか。じゃあお願いします」


 「あ、そうだ! ちょっとこれ着てみない?」


 アキラが何かを思い付いた様にストレージから可愛い系の服を取り出した。


 「何これ?」

 「うーんとね、私にはちょっと可愛過ぎるかなと思って。ユウキにどうかな?」

 「何でこんなの持ってるの?」

 「うん、酔っぱらった時に買い物はするべきじゃないなという戒め?」

 「それを私に着せちゃうの?」

 「そう、絶対に似合うから!」

 「いや、こういうのはちょっと」

 「一回だけ、一回だけだから! 先っちょだけ!」

 「ミニスカートなんて恥ずかしいですし」

 「慣れて置いた方が良いって!」

 「えー……」

 「さあ! さあ!」


 アキラに血走った目で押し切られ、渋々着てみる事に成った。

 アキラの要望で、着替え用テントを出し、その中で着替える。

 ここで着替え用テントなんて必要無いと思うのだけど、着替え終わってパッと完成形を見たいのだそうだ。


 「なんかさぁ、スース―して落ち着かないよ。世の女はスカートなんていう物をよく穿いていられるよな」

 「うん、防御力は殆ど無い」


 「どうかな? 変じゃない?」


 ユウキは着替え終わってテントから出て、アキラの前に立つとくるりと一回転して見せた。

 恥ずかしそうに頬を染めている。

 それをアキラは無言で見つめている。


 「どうかな?」

 「いい……」


 反応が無いのでユウキはアキラにどうなのか聞いてみるた。

 するとアキラは鼻血を一筋たらしながらそう言うと、ルパンダイブでユウキに飛び掛かって来た。


 「お願い、もう一回戦!」

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