第49話 ブラとおパンツ

 町へ着いて直ぐに二人は鍛冶屋の経営する武器屋へ向かった。

 武器屋の店内に入り、奥へ声を掛けるとそちらから大きな声が聞こえた。


 「おー! お前らかー! 勝手に入って来てくれ、今工房に居る!」


 店番は誰も居ないのかな、不用心だなと思いながら工房の方へ行くと、親方が待っていた。


 「お前らは今度からはこっちの通用口の方から来てくれ。工房へ直通だからよ」


 指差す方を見ると、そちら側には大きなアーチの入り口が在った。

 そこから出ると、裏通りに出るそうだ。


 「注文してたナイフを取りに来たんだけど」

 「おう、出来てるぜ! 会心の力作で全部最上物エピーククラスだ。」


 壁側に武骨な頑丈そうな作業台が在り、親方はそこへナイフを十本並べて見せた。

 ユウキはポケットからメジャーを取り出し、長さを測った。


 「何してんだ?」

 「うちの国では、長さが基準内じゃないと法律に引っ掛かっちゃうんだ」

 「へえ? 何処の国だい?」

 「日本国って言うんだけど、知らないかもね。遠いんだ」

 「そうか、面倒臭い国も在るんだな」


 長さは全て基準内、形も問題無し。

 全て手作業で作っているというのにサイズはどれもピッタリ同じで、形状も指定した通りだ。高い技術が窺える。

 グリップは綺麗な木目の木製で、フルタング(グリップエンド迄ブレードの金属が来ていて、グリップ材でサンドイッチにしてある構造)。

 ブレードのグリップ近くにはこちらの文字で六桁の通しナンバーの刻印が打ち込んである。

 限定シリアルナンバーを入れて、特別感を出す為である。


 「これって、前言っていたミスリルは使ってあるの?」

 「おう、有るぜ! ブレードの刃先にほんのちょっと貼ってあるだけだがな。全て注文通りだ。苦労したぜ」

 「試し切り、良いかな?」

 「おうよ、ちょっと待ってな」


 裏から前にアキラの剣鉈で試し切りをしたのと同じ真鉄木の薪を持って来た。


 「見てな、通常の刃物ではこいつには刃が立たねーんだが、こいつなら、よっと!」


 親方が力を入れると、真鉄木の薪にガリガリと刃が食い込んで行く。

 ミスリル銀は、そのままでも鋼よりも強い金属なのだが、魔力を通す事により硬度や靭性等といった強度が何倍にも高まるそうだ。

 それによりこれで作られた鎧や盾は防御力が、刃物は切れ味が増すのだそうだ。


 「ざっとこんな感じよ。俺程度の魔力では、おっとこれは内緒な。これが限界だが、お前さん達ならもっと行けるんだろう?」


 ユウキはナイフを受け取り、エネルギーを通してみる。

 豪角熊の爪程では無いが、こちらもエネルギーの通りがかなり良い様だ。

 ブレードの刃先が0.5mm位の幅で光りはじめる。

 ミスリル銀は本当にほんのちょっとしか使われていない様だ。


 そのまま真鉄木の薪に刃を当て、軽く力を入れると、スカッと下迄真っ二つに割れ、勢い余ってその下の金敷アンビルにまで刃が食い込んだ。


 「おいまたかよ。金敷もただじゃねーんだからよ!」


 親方は手を目に当てて大げさに嘆いて見せた。


 「手加減したんだけどなー」

 「まあ、お前らならまたやるとは思ってたがな」

 「親方でもこの位出来ると思うよ?」

 「馬鹿言え」

 「本当だって。ちょっと腕見せて」


 ユウキは親方の右腕を取ると、微笑んだ。

 そして、左手の人差し指を親方の肩から手の甲迄添わせると、親方にナイフを握らせた。


 「ふおおおお!!」

 「変な声出さないの」

 「だ、だってよぉ、ネーちゃんエロいぜ」

 「ちょっと!」


 何故かアキラが怒っている。


 「馬鹿言って無いで、どう? その魔力っていうのの通り道が細く成ってたからちょっと流れを良くしてみたんだけど。もう一度やってみて」


 今度はブレードの刃先が極うっすらと光って見える。

 真鉄木の薪を立て、その上にナイフを当て、バリバリバリと音を立てて下迄一直線に割った。


 「おお、すげえ! こんなに力が出たのは初めてだ。肩の調子が凄く良いぞ!」

 「うーん、それ魔力か? 殆ど力任せの様に見えたけど」

 「おう! 今ならそんなちっこいナイフなら何本でも打てそうだぜ」

 「ほんと!? じゃあ、次は二十本でお願いして良い?」

 「まかせとけ!」


 代金を清算しようとしたが、前回に置いて行った手付金で十分間に合うと言うので、今回は支払い無し。

 一本当たり幾ら程度で作れるのかを聞いたら、ミスリル銀という超希少な金属を使っているとはいえ、ほんのちょっぴりなので工賃込みでおおよそ大金貨三枚程度でお釣りが来るそうだ。

 日本円にして約百四十万とか、その位なのかもしれない。


 「シースは革じゃなくて木製なの?」

 「うちでは大体木で作ってるな。革だと錆びるだろう? 作れなくもないが、革が良いならラコンのとこにでも外注に出すかな」

 「いやこれで良いよ。恰好良いし」

 「お、分かるか」


 親方嬉しそう。

 刀なんかは木の鞘だし、鉈なんかも木の鞘に入っている事が多い。革のシースは見た目の格好は良いのだが、入れっぱなしにしておくと錆び易いのが難点だったりする。

 親方の工房で作ったであろう木の鞘は、これはこれで武骨で良い感じなのでそのまま受け取った。


 「じゃあ、来月は二十本の発注で大丈夫?」

 「任せて置け」

 「定期的に発注するので宜しくね」


 加治工房を後にして、少し歩いた所でアキラが不服そうな顔で文句を言って来た。


 「他の男にあれはやめろよな」

 「あれって?」

 「手握ったろ!」

 「エネルギーの経路が細かったからちょっと修正しただけだよ」

 「でも!」

 「何だよ、分かったよ!」


 アキラってそんなヤキモチ焼く奴だったっけと意外な一面を見た。

 次は服屋だ。




 「御免くださーい!」

 「あらあらまあまあ、あなた達が来るのを待ってたのよー!」

 「未だ売れるとは決まった訳じゃ無いからね、それぞれの種類サイズ別に三着分ずつ持って来たよ」


 店の奥の服のサイズ直し等をする為のちょっとしたスペースの真ん中に置いて在る、ちょっと大きめの作業台の上へ注文してくれた下着を並べて行く。


 「まあ、実物見ると本当に凄いわー。このレースといい縫製の良さといい、これは素晴らしい物よ!」

 「幾ら位で買ってもらえますか?」

 「そうねぇ、これはちょっと上流のご家庭に買ってもらおうと思うから、この上下セットで小金貨一枚でどうかしら? ここに有るの全部買うわ」

 「じゃあそれでお願いします。四種類三サイズが3セットずつなので、中金貨九枚です」

 「え、ええ、はい、ありがとう。今持って来るわね」


 店主さんはかなり値切った値段を言ったつもりだったみたいで、それをあっさり了承されてしまって拍子抜けしたみたいだ。

 でも、こっちからしてみれば二千円程度で買って来た物を三万円で買い取るって言われたら即決で売るよね。


 店主さんは店の奥の金庫から中金貨九枚を持って来てテーブルに置いた。


 「それでね、次に注文したいのは……」


 カタログを持って来てページを開いた。

 四冊の分厚いカタログの全部にハリネズミの様に栞が挟み込んである。

 きっと二人が来るまでに目を皿の様にして読み込んでいたのだろう。


 「でも未だ売れると決まった訳じゃ無いので、そんなに大量注文したら危ないですよ?」

 「いいえ! これは私の勘が絶対に買えと命令してますの。これは絶対に売れますわ!」


 アキラは店主が指差す商品の注文番号と値段、そして個数をメモに書き写して行った。

 納品の時に値段交渉をするのは面倒なので、その場で価格を決め、それもメモに書きこんで行く。

 次からは、ここの記号と数字、といってもこちらの人には記号も文字も数字も全部謎記号にしか見えないのだろうけど、それと買い取り値段を書いたメモを渡してくれる様に頼んだ。

 今度来た時にその注文票を貰うだけで仕入れが楽に成る。


 「あ、そうだ、これの着け方分かりますか? まあ、写真を見れば大体分かると思いますけど、試着してみます?」


 アキラがそう言ったら店主さんが怪訝そうな顔に成った。


 「あ! アキラ今男なんだから」

 「あ!」

 「あのぅ、それは私が手伝いますから」


 ユウキはいつもはスポーツブラやブラトップしか着ていないのだけど、一応普通のブラの着け方も習っていて良かったと胸を撫で下ろした。

 一緒に試着室に入り、店主さんに上だけ脱いでもらう。

 案の定、上半身に下着というものは着けていなかった。

 持って来た物を当ててみるのだが、明らかに小さい。


 「アキラ、ワンサイズ上の取って」


 ユウキはそれをカーテンの隙間から外へ差し出し、アキラに上のサイズの物を取って貰った。


 「こっちのサイズみたいですね。後ろ側でこのホックを掛けるのですが、後ろに手は回りますか?」

 「回るには回るのだけど、見ないで止めるのは練習が要りそう」

 「じゃあ、ですね。前でこの様に留めてから、後ろに回します」

 「ああ、それなら出来るわ」

 「慣れると一人で見ないで留められる様に成りますよ。そしたら、こうして後ろにこうして肩紐をかけて、カップの中に脇の肉を詰め込みます!」

 「あいたたたた」

 「我慢して! はい完成!」


 上着を着せてから試着室を出る。

 直ぐに姿見の所へ走る店主さん。

 この世界には姿見程のサイズのガラス板を作る技術は無いのだが、厚めの銅板の表面を磨いて水銀メッキをしたものを鏡として使っている。

 姿見で自分の姿を正面や横から確認していた店主さんが叫んだ


 「ふ、ふおおおおおおお!」

 「この世界の人って何ですぐふおおって言うのかな?」

 「変態仮面っぽいよね」


 多分それがこの世界の人の感嘆詞なのだろう。

 中国人が驚いた時に『アイヤー』って言うみたいなもんだ。漫画的表現かと思っていたら本当に言うんだぞ。フランス人は『オゥララ―』って言うよね。


 「ありがとう、ありがとう!」


 ユウキは店長さんに両手握手され、腕が千切れそうなほどブンブン振られた。

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