第39話 内調さん?

 「あー、でも、日本の銃刀法調べてからじゃないと買えなくない? それと刃物を売るのに何か免許とか資格みたいな物が必要だったりしないかな?」


 ユウキが今更気が付いた様に言うので、アキラはスマホでポチポチと検索を始めた。


 「んーとね、刃渡り5.5cmより大きいサイズの刃物は、正当な理由が無い限りいかなる場合も携帯禁止」

 「はあ? じゃあ、包丁とかどうすんの? 大きいよ?」

 「家庭で料理をするという正当な理由があります」

 「じゃあ、キャンプで使うフォールディングナイフやダイビングの時に携帯するダイバーナイフは?」

 「キャンプをするとかダイビングをするという正当な理由があります」

 「お、おう。成る程、正当な理由ね」


 「その刃物を使う職業というのも正当な理由だし、ホームセンターで買って家へ持ち帰ると言うのも正当な理由になります」

 「持ち帰る途中が良いのであれば、何とでも言い逃れ出来そう」

 「その場合、何処の店で何時買って家は何処かまできちんと説明出来るならね。無暗矢鱈に持ち歩いて買って帰る途中でーすは通らないと思った方が良いね。キャンプやダイビングもちゃんと用具も一緒に持っているかどうかが証明になるみたい」


 「販売は?」

 「売るのは特に免許や資格は要らないみたい」


 「うーん、こっちで売る分には構わないのだろうけど、やっぱ日本に刃物を持って行って売るのはハードル高いのかなー?」

 「多分ね、使用目的の定まっていない刃物とか、武器に類する形状をしていたら駄目なんだと思う。だから、現在日本で販売されているナイフの形を参考にしたら良いんじゃないかな」

 「おう、お前ら、買うのか買わねーのかどっちなんだい!」


 品物を見るでもなく店内で話し込んでしまったユウキとアキラに親方は痺れを切らしてしまった。


 「あのさ、ここに有るのは全部武器なんだよね?」

 「あたりめーだろ!」

 「あのさ、特注で作って貰う事って出来る?」

 「特注? やっちゃいるが…… 武器じゃねーって事か?」


 アキラはベルトに下げていたシースからナイフを抜いて親方に見せた。刃渡りは10cm程度の物だ。

 親方はそれを受け取ると繁々とながめ、一言呟いた。


 「これ、売ってくれ。金なら……」


 全部を言わない内に弟子達に取り押さえられた。


 「狩猟の時に剥ぎ取りとか解体に使うので武器形状じゃなくて良いんだ。大体これに似た形状と大きさで最高の物を作ってよ」

 「最高、だとー?」

 「そう、親方が作れる最高の物をお願い。高価な材料使ってくれても良いからさ」

 「高価な材料っていうと、ミスリル銀とかか」

 「えっ!? こっちってミスリルあるの!?」


 アキラはびっくりした。

 ミスリル銀って言えば、ファンタジー世界で定番の超有名な超金属だからだ。

 金属でありながら羽の様に軽く鋼鉄以上に強靭で、魔力も通すというスーパーレア素材。

 そのミスリル銀がこっちの世界に存在していると聞いて、アキラは色めき立った。


 「本当に? 未知の元素? いや、でも、鉄や金は普通に在ったし、元素の種類がこっちと向こうで違うなんて事は…… もしかして私達の知らない合金だったりする?」

 「何かぶつぶつ言い始めた」


 アキラは学者として自分の知らない物質の存在に、あれこれ考え込んでしまった様だ。

 こうなったら中々戻って来なさそうなので、ユウキは勝手に話を進める事にした。


 「まあいいや、ミスリルがあるんだったら使ってくれて良いよ」

 「そうかい? 普段使う道具にしては結構値の張る物に成っちまうが? そうだ、ミスリルの無垢じゃなくて、刃先にだけ使うって手もあるぜ? それなら幾らか値段も抑えられるぞ」

 「じゃあそれで、親方の考える最高の物を作ってよ。それを自分の国に持って行って売るつもりなんだ。評判が良ければ量産してもらう事も考えてる」

 「おいマジか、定期的な商売に成るのか? 張り切るぜ!」


 どうやら剣鉈を全財産で衝動買いしてしまった為に、頑張って仕事をしなければ鍛冶屋商売そのものを廃業しなければ成らなくなってしまいそうなんだとか。


 「ディユクラスで頼むね」

 「ちょっとまて! それは無理だ!」

 「じゃあ、その下の神話ミソロジークラスでも良いよ」

 「うむむむむぅ……」


 親方は冷や汗をかき始めてしまった。

 ユウキはミスリル銀を使ってもなお難しいのかと思い、聞いてみる事にした。


 「ミスリルを使っても難しいの? 親方が安定して作れるのはどのクラスまでなの?」

 「このサイズなら剣程は難しくは無いとはいえ、伝説レジォンドクラスまでだ。済まない……」


 親方はとても面目無さそうに小声で言った。

 大きい剣は均質に打ち仕上げる事が難しい為、伝説レジォンドクラスに近いとはいえ最上物エピーククラスまでしか打った事は無いそうだが、刃渡りが精々10cm程度のナイフで有れば全体を均質に仕上げる事は比較的容易いそうで、伝説レジォンドクラスであれば、親方の腕なら何とか打てるかもしれないという事だった。

 なので、弟子に任せる事は出来ないので親方自ら打って日に一本が限界だろうと言われた。


 「じゃあ、それでお願い。試しに十本、一月後に取りに来ます」

 「おう、任せて置け!」


 威勢よく請け負った親方だが、ユウキとアキラが立ち去った後に弟子達に心配されていた。


 「親方ぁ、本当に大丈夫なんですかい?」

 「う、うるせえ! やるしかねぇんだよ!」


 親方の衝動買いのせいで今の鍛冶工房の経営は火の車だった。

 この大口の取引は是非とも成功させなければ成らない。


 「あ、そうそう! 忘れてたんだけど」


 そんな会話をしている所にユウキが戻って来て、親方と弟子は気まずそうにしている。


 「これ、製作依頼の前金ね」

 「こ、こんなにか! 


 ユウキは大金貨100枚を置いて立ち去った。

 日本円にして凡そ四千八百万円である。

 ユウキが店を出て完全に姿が見えなく成るのを扉の陰から確認すると、親方と弟子は抱き合って喜んだ。


 「よーし! お前ら! 気を引き締めて取り掛かるぞ!」

 「「「「「おー!!!!!」」」」」



 こちらの世界での用事は取り敢えず完了したので二人は泊まっているミラエステラル・ホテルへ向かった。

 帰り支度をして日本へ帰還するためだ。


 「これさ、豪角熊の爪で作った方が安上がりだったかも」


 武器屋の店から少し離れた所で、現実的な感覚のアキラがボソッと呟いた。

 確かに豪角熊の爪なら一本十二万円程度の材料費とラコンさんの加工賃で、合計しても五十万円行くかどうかだろう。

 だけど、材料自体が手に入り難いという問題点が有る。

 それに、日本で売るならやはり金属製でないと受け入れ難いかもしれないという考えも有った。


 ナイフに架空の金属であるミスリル銀が含まれているという点も押しポイントだ。

 この様な物を販売して、直ぐに売れるとは考えていないが、ユウキにはあるアイデアがあるのだ。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 鷲の台駅を降りてあきらのアパートへ向かう二人の前に、濃いグレーのスーツを着た複数人の男達が待ち構えていた。

 背後からも複数人が現れ、逃げ道は完全に塞がれた形に成った。

 まるで警察官に取り囲まれた指名手配犯の様な異様な状態に、優輝はあきらを守ろうと身構えた。

 すると、正面に居た男達の後ろから四十後半から五十歳台と思われる男が一人現れ、優輝をスルーしてあきらの前迄歩み寄ると、スッと名刺を差し出した。


 あきらは名刺を受け取ると、驚いた様に男の顔を見た。


 「内閣情報調査室の麻野さん、ですか?」

 「はい、私達は早急にあなたを保護する必要があると判断し、ここでお待ちしておりました」


 あきらは突然の話に動揺し、固まってしまっている。

 優輝はあきらと男の間に体を割り込ませ、事情を尋ねた。


 「何なんだ、あなた達は。あきらを連れて行こうとしているのか?」

 「君は関係無い。我々に用があるのは彼女だけだ。君は速やかに立ち去り、彼女の事は以後忘れて安穏に大学生活を送り給え」

 「何を勝手な事を……」


 優輝はカッとして男に掴み掛ろうとしたがその瞬間、体がくるりと回転し、気が付いたら地面に仰向けに倒れ、男達を下から見上げていた。

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