第38話 現地でお買い物
二日目は、こちらで何か仕入れられないかと思い、商店街を中心に見て回る事にした。
「そうだ、こっちの町へ来る事が増えるなら、こちらの服を買わないか?」
「そうだね、そうしよう!」
アキラの提案に賛同し、服屋を覗いてみる事にした。
いくら地味目の服を選んで着ているとはいえ、やはり化繊の生地は見る人が見れば異様に思われるかもしれない。
それに、通りを歩く人を観察してみると、ユウキ達の服の色はやはり目立つ。
こちらの世界では草木染とかの自然の染料で布地を染めている筈で、化学染料の色は発色が良すぎるのだ。
服屋の並ぶ通りで、ふと目に付いた小さな店構えの服屋へ入り、吊るしてある服を物色していると店員さんが近寄って来た。
「お客さん、どういった用途の服をお探しですか?」
「あ、普段着です。私達、旅行者なんですけど、こちらの町で過ごすのに馴染める服装が欲しくて」
店員さんは、二人の服をジロジロと眺めて、触っても良いかと聞いて来た。
良いよと言うと、袖口やら裾やらを触りながら、『おお』とか『まあ』とか声を出している。
「凄いですね、お客さん。こんな生地見た事が有りません。色が良いし、引っ張ると伸びるし、布の織り目も細かすぎて見えない。ステッチも驚く程細かくて均一です。それにこのデザインの斬新さ! 見た事も無い服の閉じ具。本当に凄い! まるで魔法で作られたみたいです!」
見た事も無い服の閉じ具と言うのは、ファスナーの事を言っている様だ。
「そうなの? でも、この町を歩くには目立ちすぎるから恥ずかしいんです。着替えを買いたいと思って」
「そうなんですね! ではこちらへ!」
店員は店の入り口側で広くスペースを取ってある場所へ案内してくれた。
「この辺りが一般的に良く売れております普段着で御座います。あちらが女性物、こちらは男性物です」
「ありがとう、自由に見てていい?」
「はい、御用が有ればお声かけください」
こちらの世界の服は、全体的には西洋っぽいのだけど、服の前合わせは和服っぽくて、男女共に右前合わせに成っている。そしてボタンでは無く、紐や細い帯で結ぶ形の物が殆どだった。
二人はそれぞれ上下二着ずつ服を買う事にした。
インナーはどうせ見えないので日本の物のままだ。
「店員さん、これを買います」
「はい、畏まりました」
四着上下を買って、小金貨二枚程だった。
一着上下で日本円換算一万五千位か。普段着としては日本の既製品の感覚としては高い様な気もするが、一着一着お針子さんの手縫いだとするともしかすると凄く安いのかもしれないし、こちらの世界賃金とか物価の相場が分からないので何とも言えない。
二人は試着室を借りて今買った服に着替えた。
「ユウキ似合うね」
「アキラもカッコイイよ」
ユウキは手に持った日本の服をじっと見詰め、ちょっと前から考えていたあるアイデアが実現出来るのかを確かめてみる事にした。
「この店の店主さんって会えますか?」
「はい、店主は私ですが…… 何か御用でしょうか?」
「あ、それなら話が早いや。あのね、私達が着ているこういう服ってこの町で売れると思う?」
そう聞いた途端、店員もとい店長さんの顔がちょっと曇った様な気がした。
「うーん、そうですねぇ…… 物はとても良いと思うのですが、ちょっと斬新過ぎて買う人が居るかと言われると自信が有りませんが……」
「そうかー、こういう服も売れるなら、こちらで売って貰えればと思ったんだけど、まあ、仕方ないか」
「えっ!?」
「ん?」
店長さんの顔がぱっと明るく成った。
二人は、ははあ、さては競合店が出来るのかと訝しんだんだなと思った。
「競合店のスパイだと思いました?」
「はっ! い、いえっ! すみません! そ、その、もし、その商品を取り扱わせて頂けるのでしたら、ぜひっ!」
解り易い性格の様だ。でも、商売人として、感情が顔に出過ぎるのはどうなのだろう?
ユウキはちょっと心配に成ったが、接客業としては好感が持てる気がしたのでまあ良しとした。
ユウキが実は大店では無くてこの小さな店を選んだのには理由が有った。
日本で仕入れた品をこちらの世界で売るに際して売れ行きや社会への影響を観察する為に、現地の文化に急激な変化を与えず目立たない様に徐々に馴染ませて行きたいと考えているからなのだ。
それは、競合他店の嫉妬や敵意を成るべく押さえ、または公権力者に目を付けられるリスクも最低限に減らしたいという思いも有った。
「じゃあ、今度商品のカタログを持って来るから、その時にこちらで売れそうな物を選んでくれますか?」
「は、はい! よろしくお願いしますっ!」
約束を取り付け、二人は店を出た。
「委託販売するの?」
「委託っていうか、卸しかな。金やアルミの貨幣の輸入は止めて置いた方が良いってアキラ言ったでしょう?」
「うん、経済をぶっ壊すからね」
「だったら、品物を持って来て売るのはどうかなと思ったの。向こうの品をこっちで、こっちの品を向こうで販売する、商社みたいな商売出来ないかなって」
「ああ、それならアリかも!」
二人は頷き合い、日本で売れそうな品が何か無いかを焦点に品物を探す事に成った。
色々な商店を見て回り、日本で売れそうな品を物色する。
「うーん、なんかどれもピンと来ないなー」
「確かに、民芸品とか服とかで大きく稼げる気がしないし、道具類も日本の百均の方が上なのも辛いかな」
文明は高い所から低い所へ流れるのならば、日本の物はこちらで売れるのは道理なのだが、こちらの物が日本で売れる可能性は低いのかも知れない。
「せめて魔法関係、魔道具みたいな物が在るならと思ったんだけどな」
「魔道具っぽい物といえば、豪角熊の爪で作った鎌かな」
「うん、あれがこっちの世界で見た唯一の魔道具だね。でも爪は全部売っちゃったしなぁ」
「あ、そうだ!」
ユウキが何か思い付いた様だ。
「もう一度武器屋に行ってみよう」
「何か良い物有ったっけ?」
「魔剣や聖剣レベルじゃなくても、中間位のそこそこの物が有りそうじゃない?」
「でもさ、刃物に関しては日本で買った物の方が優秀だったじゃない。神剣だよ?」
「それなんだけど、オレ、わ、私の仮説が正しいのならば、きっと良い物に巡り合えると思うの」
「その仮説って?」
いつもなら仮説を披露するのはアキラなのだが、今回はユウキが何かを思い付いた様だ。
「私達はゲートを潜って向こうとこっちを行き来する度に魂のエネルギーが増えて行くとロデムは言っていたでしょう? でもそれは何も人間だけに限らないのではないかと思うの」
「ああ、物にも少なからずエネルギーが蓄積して行っているって事? うん、それは何と無く感じてた」
「察しが良いね。つまり、こっちの世界の物でも、私達が身に着けてゲートを行き来していればエネルギーが溜まって行って、向こうでも通用する物に成るんじゃないかと考えたの」
「んー、でもそれなら、日本で買った刃物を身に着けていた方が、より効果的なんじゃない?」
「それはそうなんだけど、刃物特にナイフ類には時としてプレミアムが付いたりすんだ」
「つまり、コレクターズアイテムとしての価値って事?」
「正解。私がククリナイフを好んで使っているみたいにね。人は何故か刃物に魅せられる動物みたいなんだ」
そう、確かに人は刀剣類に惹かれる。
日本には刀剣女子なんていう人種まで居るし、男達の間ではナイフコレクターは意外と多い。
メーカーはガーバーだ、スパイダルコだ、コールドスチールだ、サカイだ、やれ材質はダマスカス鋼だ、パウダースチールだ、青紙だ、D2鋼だと、数え上げたら
コレクターは色々な種類のナイフが次々に欲しく成るし、似た様な形なのに材質違いや長さや厚み、ブレードのカーブの違い等、のめり込めばのめり込む程にコアでマニアックな自分好みのナイフの探求を止めない。
それが特殊なナイフで有れば、そして他では手に入らない希少価値が有れば、欲しい人は絶対に居る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「と、いうわけで、やって来ました武器屋さん」
「な、何だお前ら! あの神剣を取り返そうったってそうはいかねーぞ!」
「一度売った物を取り返したりしないよ」
「じゃあ、何の用で来やがった!」
「何の用って、ここは武器屋でしょ。ナイフを買いに来たんだよ」
「……何だよ、驚かせるなよ」
店に入って来た二人を見付けて、思わず立ち上がった鍛冶師の親方は、一拍間を置いた後ほっと胸を撫で下ろして再び椅子に腰を降ろした。
「弟子がお前達に世話に成った様だな。すまない、借金の返済はもうちょっと待ってくれ」
「今日は取り立てに来た訳じゃ無いよ。ナイフを買いに来たって言ったでしょう。こういうマチェットや鉈みたいな大きいナイフじゃ無くてね、もっと小さな解体用とかキャンプで使う用の……」
ユウキがサイズを見せる為に抜いたククリナイフに親方の目の色が変わった。
「な、なんだよ、その曲がったへんちくりんな形のナイフはよ、異様なオーラを放って、てか、神剣がもう一本? 嘘だろ!? おい! 頼む! そいつも売ってくれ!」
ユウキが手に持ったククリを眺めている内に段々と顔色が蒼く成り、そして急にそれも欲しく成ったのか今度は真っ赤になり興奮して来てしまった様だ。
「やめてくれ親方! うちの工房が破産しちまう!! あんたも早くそれを仕舞ってくれ!」
奥から出て来た弟子達に羽交い絞めにされ、親方は地面に押さえつけられてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます