第31話 武器屋って本当に在るんだ

 金融商のカウンターのお姉さんが、この町の観光客が安全に泊まれそうな宿までの地図を書いてくれたので、そこへ宿を取るべく行ってみた。

 ホテルっぽい大きな建物は直ぐに見つかったが、念の為に看板の文字にカメラを合わせてみると、『ミラエステラル・ホテル』の文字が表示される。

 間違いなくここの様だ。


 ユウキとアキラは建物へ入り、フロントの奥に居る身なりの良い男性へスマホの翻訳音声で、今日の空き室が有るか聞いてみた。


 「予約の無い旅行客ですが、今日泊まれますか?」


 その男性は、スマホを物珍しそうに眺めていたが、要件を理解したのか、にこやかに大丈夫だと言い、手続きをしてくれた。

 二人で一泊金貨一枚だそうだ。日本円換算だと、大体一人六万円になる。そこそこ高級なホテルを紹介してくれましたよ、あのお姉さん。

 まあ、あんなに大量の金貨を受け取れば、この位のホテルを紹介しても大丈夫だと判断されたのでしょう。


 部屋に案内してくれたボーイさんにお礼を言って部屋の中を見ていたら、ボーイさんはニコニコしながら帰ろうとしない。


 「あ、こっちの世界でもチップ制度が有るのかも?」

 「そう、でも相場が分からないね」

 「銀貨…… は、多い様な気がする」

 「銅貨で良いのかな?」

 「ええい、聞いちゃえ」


 外国からの旅行者なので、この国のチップの相場が良く分からない事を伝え、幾ら位渡したら良いのかを聞いてみた。


 「はい、銅貨一枚頂ければ結構です」


 それから、ルームクリーニングとベッドメイキングをしてくれた人用に枕元に一枚置いておくのと、外でトイレに入った時にも一枚を係の者に渡すと良いと教えて貰った。


 「大体、私達の世界と同じ感覚かも」

 「そうだね、それ程文化の乖離は無いかもしれないね」


 ボーイさんには色々教えて貰ったお礼に銅貨二枚を渡したら、嬉しそうにお礼を言って帰って行った。


 「さて、ボーイさんも帰った事だし……」


 アキラは、ベッドに座っているユウキの隣に座ると、鼻息荒く聞いて来た。


 「する?」

 「しないよ! まだ日が高いよ! 観光だってしたいよ!」

 「冗談だよ、そんなに怒るなよ」

 「その割に、その残念そうな顔は何なんだよ!」


 アキラは、男に成ると猿の様にその事ばかり言って来るので困ったものだ。


 「ていうか、ユウキが淡白過ぎない?」

 「そうかな? そういう衝動には男性ホルモンが関係しているのかも。でもさ、向こうでのアキラも結構積極的だよな」

 「いや、人を痴女みたいに言わないで! 普通だから! 多分」

 「だよな、何となくは分かってるんだよ。アキラを求めている自分も居るし、アキラに答えてあげたい気持ちも有るんだ。だけど、あの日、無理矢理されてしまったのがトラウマになっているというか、なんか……」


 そこまで言った所でアキラはユウキの背中からぎゅっと抱きしめた。


 「ごめんなさい。一生掛けて償うから。絶対に無理強いしないから」

 「いや、償って欲しいとかそういうんじゃ無くて、アキラの気持ちだってちゃんと分かってる。だって魂の一部を共有している仲なんだから。ただ、少し時間が掛かるのかなって」


 ユウキは、首に回された腕をポンポンと叩いてアキラに優しくキスをした。



 部屋の鍵をフロントに預けて、二人は町へ繰り出した。

 地面は殆ど石畳舗装、建物は一階部分が石または煉瓦造りで、その上に木造の家屋が乗っている構造の建物が多い。

 良く見ると、木造だけど、壁は煉瓦の家も在るみたいだ。

 石造りの一階部分は、商店になっていたり、うまやとして使っていたりする様だ。

 結構大きな町みたいで、ぐるっと一周するには結構時間が掛かりそうだなと思われる。


 「こっちの食事も食べてみたいと思わない?」

 「じゃあ、そこのカフェテリアっぽい所へ入って軽食でも食べよう」


 スマホのカメラを向けると、画面に『カフェテリア』と文字が表示される。間違い無い様だ。

 店に入るとエプロン姿の女性店員がやって来て、空いているテーブルに案内してくれた。

 店員に銅貨を一枚渡すと途端に笑顔に成り、饒舌に今日のおすすめとかを教えてくれた。

 ユウキは、おすすめの軽食とアルコール無しの飲み物を二人分注文した。


 「こっちはどうも通貨が四進法みたいだね」

 「ええ、昔の日本と同じね」

 「四進法ってどうやって数えるの?」

 「四枚で一つ上の硬貨に繰り上がるのよ」

 「アキラ、言葉言葉」

 「あっ、いけない。中々慣れないものだね」


 金融商で聞いて来た情報を元に、アキラはテーブルの上に銅貨、銀貨、金貨を出して説明した。


 「この銅貨の下に小銅貨というのがあって、それが四枚でこの銅貨一枚。この銅貨が四枚で小銀貨、小銀貨四枚でこの銀貨、銀貨四枚で小金貨、小金貨4枚でこの金貨という具合ね」


 つまり、金貨が日本円で12万円相当だとすると、逆算して小金貨は一枚3万円、銀貨は7500円、小銀貨は1875円、銅貨が役469円、小銅貨が117円という所だ。


 「今ここには小の付く貨幣は無い訳か。小銅貨が100円玉、銅貨が500円玉位の感覚かな?」

 「そんな感じの認識で良いと思う」


 そんな話をしている内に先程の店員が料理と飲み物を運んで来てくれた。

 そして、アキラの耳元でそっと小声で囁いた。


 「お客さん、旅行客だろ? この国のお金が珍しいのかもしれないけど、迂闊にテーブルの上に金貨なんて置くもんじゃないよ」


 アキラはハッとして直ぐにお金をポケットへ仕舞った。

 確かにそうだ。おばあちゃんなんかも夜中に金を数えるなとか言ってたっけ。ましてや日本とは治安が違うかもしれないこんな所で金貨なんて出したら、どんな奴が見ているとも限らない。

 平和ボケ日本人の感覚で外国を歩いたら危ないぞという事を改めて思い出した。

 そう、ここは異世界だけど外国みたいなものなのだから。


 食事はまあまあ美味しかったと思った。でもパンは硬かった。

 二人はゆっくりする間も無く、料金を払って足早に店を出た。

 誰も後ろを付いて来て無いよなと、必要以上にキョロキョロして、完全に不審者だ。



 町外れ辺りまで歩いて来た時に、ユウキはファンタジー世界に有り勝ちなある店を発見して興奮した。


 「アキラアキラ! ほら見て、武器屋が在るよ!」

 「え、嘘! 武器屋って本当に在るんだ!?」


 アキラも興奮を隠せない様で、二人して武器屋へ入ってみる事にした。

 中は薄暗い感じで、所狭しと色々な武器が置いてある。

 西洋風の物から東洋風の物迄、品揃えが凄い。


 ユウキは藪を払うのに使う、もう少し大き目のマチェットが欲しいなと思っていた。

 60cm位有ると良いのだけど、日本ではあまり刃渡りの長い刃物は持ち歩けないので、こっちで買ってこっちに置いておこうと考えたのだ。

 きっと、刀剣類を現役で使っている世界なら、さぞ良い物が手に入るんじゃないかなとちょっとワクワクした。


 しかし、これぞと思う物を見付けてもあまりピンと来ない。

 武器としては良いのかもしれないが、マチェットとして使うにはどうもイマイチなのだ。


 「それにさ、思ったより切れ無さそうなんだよな。鉄の材質が良くないのかなぁ?」


 一応鉄では出来ているみたいなのだがどう見ても鋳鉄製で、おまけにが入っている。こんなんじゃ駄目だ。


 「何だとこの野郎! お前なんかに何が分かる!」


 ユウキの言葉が聞こえてしまったのか、店の奥から怒鳴り声が聞こえて来た。

 良く見ると、奥の椅子に厳つい男が座っていて、こっちを睨んでいる。店の店主の様だ。

 ロデムさん、二人だけの会話の時までご丁寧に翻訳してくれなくても良いのに。


 「お前、刃物の目利きが出来るってんだな? ちょっとこっち来い!」


 殴られるのかと思って動けないユウキの前にアキラが出て、店主の方へ歩き出した。

 ユウキはアキラを止めようとしたが、力が強く服を掴んだままズルズルと引き摺られてしまった。


 「何か!?」

 「ちょっと奥へ来い」


 店主の男は人差し指をクイッと曲げて来いと言うジェスチャーをすると、二人を店の奥へ連れて行った。

 裏の扉から一旦出て、その脇の石壁の別の扉に入ると、そこは工房に成っていた。

 数人の鍛冶師の弟子が剣を打っている。


 「お前らが本当に目利きが出来るなら、この中から選ばせてやる。ただし……」


 壁際には幾つもの剣が立て掛けて有り、その中から選ばせてくれるという。


 「最上物エピーククラスを見付けられなければ一切の物は売らない」


 刀剣類の作成には材料や鍛冶師のコンディションなんかも関係して来る。

 毎日同じ様に作っていても、駄作も有れば良作も出来る事もある。

 良作スペシャルクラスは、数十本の内の一本。この男の腕ならば、駄作が出る事はまず無い。この男の作る普通コモンクラスでそこいらの鍛冶師の良作レベルだ。

 上物レアクラスで数百本の内の一本。最上物エピーククラスで万本中の一本だろう。


 ユウキは、その剣の並ぶ壁をロデムの目で集中して見てみた。

 多分、良い物は潜在エネルギーみたいな物が高いのではと思ったからだ。

 そして、その中では一番輝いている剣を一本選び出した。

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