第30話 ついに町へ

 「やったやった! 町に来た!」

 「やったやった! 人が居る!」


 優輝とあきらは手を取り合って喜んだ。


 「よし、ゲートの場所をマッピングしておいてと」

 「ところで、言葉は通じるのかな? 普通に考えて通じないよね……」

 『通じるよ。ボクが翻訳するから』


 スマホの音声対話型ガイドのロデムが呼び出してもいないのに何か言い出した。


 「もう、ヘイ、ロデムとか呼ぶ必要すら無いのね」

 「何処まで便利に成るんだろう、このスマホ」

 『身体は離れていてもいつも一緒にいるみたいでボクは幸せだよ』


 「まず、こっちのお金に換金出来る場所に連れて行って」

 『わかりました。この先百メートルを、右です』

 「何で急に機械音声っぽく成ったし」

 『その方が親しみやすいのかなと思ったよ』

 「ロデムって、時々面白いよね」


 ロデムの言う通り、100m先の道を右へ曲がると、そこに大きな店が在り、何か看板に文字が書いてある。


 『スマホのカメラを起動して、看板を映してください』


 言われた通りにすると、文字の部分が翻訳されて漢字表記に変わった。

 それによると、金融商と書かれている。多分、銀行とか両替商みたいな物の仲間なんだろう。


 「あ、これ、課金アプリでこういうのあるよ」


 アキラがスマホを覗き込んでそう言った。最初はお試し無料期間があるのだけど、期限が過ぎると結構高い料金を取られるらしい。そして、解約方法が分かり難いのだという。

 でも、ロデムのおかげでそれが無料で使えるのだから、便利なもんだ。

 そう言えば、地図アプリなんかも昔は有料サービスだった筈。だとしたら、こういったアプリも何年か後にはやがて無料に成る可能性もあるかも知れない。


 二人は取り敢えず建物の中に入ってみた。

 砂金はある程度持っているので、この世界の通貨に幾らか換金して貰おうと思ったのだ。

 受付カウンターっぽい所に居る、お姉さんに声を掛けてみた。


 「すみませーん。ここで金を換金したり出来ますか?」


 こちらの話す日本語をスマホがリアルタイムでスムーズに翻訳して向こうへ伝えてくれる。


 「金の換金? ええ、出来るわよ。どの位持っているの?」


 ユウキは、取り敢えず手持ちの金の中から一握り分位の砂金をカウンターに置いた。

 お姉さんは天秤を取り出すと、砂金を片側に載せ、反対側に分銅を乗せ、慎重に重さを計る。

 その重量分の金貨と、端数を銀貨と銅貨を組み合わせてテーブルの上に置いてくれた。


 「手数料を引いてこれだけに成ります」

 「ありがとう」

 

 ユウキはそれをポケットに仕舞った。


 「ねえ、あなた達、他所の国から来たの?」

 「そうですけど」


 今度はアキラが答えた。


 「だったら、その国の通貨を両替してあげられるわよ」


 両替というのは考えて無かった。こっちの通貨じゃなくて日本のお金だけど両替出来るのだろうか?

 アキラはあまり期待はしないで財布の中に入っている小銭をカウンターの上にじゃらじゃらと出した。

 もしかしたら十円玉は銅貨として両替してもらえるかもしれないと思ったからだ。


 お姉さんは、そのコインを一つずつじっくり見ながら確認し出した。


 「この茶色いのは銅貨ね。ちょうど同じ位の銅貨と交換出来そう。こっちの銀色のは、何で出来ているのかしら?」


 お姉さんは、五百円玉と百円玉を手に取り、物珍しそうに見ている。


 「これは、凄い鋳造技術ね。細工がこんなに細かいなんて。でも一体何の金属かしら? 銀じゃ無さそうだし……」


 しきりに首を捻っている。その内、一番小さな硬貨を手に取り驚いた声を上げた。


 「あ、この小さいのは銀貨かしら…… って、何この軽さ! え!? まさかこれ、聖白銀貨!!? それが11枚も!」


 お姉さんが言うには、聖白銀貨は銀に似た色でとても軽い金属の貨幣の事なんだとか。

 この金属を作る事が出来るのは、数万人に一人の神聖魔法の一つである雷光魔法の使い手が、炎熱魔法との組み合わせで放つ強力な魔法を使い、特殊な材料から精製するのだという。

 なので、この聖白銀はミスリル銀に匹敵する高価な金属だと言われているそうだ。


 「うーむ、なんて言ったら良いのか…… 一円玉だよね、それ」

 「それなら私も何枚か持っているよ」


 ユウキも自分の財布を取り出し、小銭入れの中から一円玉をひょいひょいと取り出し、お姉さんの前に十枚置いた。

 お姉さんは目を丸くしてそれを眺めていた。


 「ちょ、ちょっとお待ちください。今鑑定士を呼びますから!」


 お姉さんは奥へ駆けて行き、一人の男を引っ張って来た。

 その間、隣のカウンターにいた別のお姉さんも、聖白銀貨という声が聞こえたらしく、物珍しそうにこちらを見に来ている。

 その鑑定士の男は、一円玉の重さを慎重に計り、何やら計算をし始めた。


 「ふむ、これは間違いなく聖白銀貨ですな。表面に施された精緻な彫刻も素晴らしい。ですが……」

 「ですが?」

 「このままではわが国では使用出来ませんのでな、地金としてしか受け取れませんのです。そして、聖白銀は鋳潰すと何割か量が減ってしまいますので、両替はこの金額に成ります」


 机の上には、大きな革袋に一杯の金貨が入っていた。


 「聖白銀の地金としての換金額合計金貨210枚から手数料を引きまして、208枚となります」

 「あ…… はい」


 二人は目を丸くして固まってしまった。一円玉21枚が、金貨208枚になったのだから。

 ユウキがこれをバックパックに収め、お礼を言って金融商の建物を出た。


 「あー、びっくりした―。まさか一円玉が金貨に化けるなんてね」

 「うん、確かアルミニウムは最初に作られた当時はとても高価な金属だったのよ。なにしろ膨大な電力が必要になるから。今でも電気で出来た金属って言われる位なのよ」


 電気の無いこの世界では、電撃魔法を使える希少な魔法使いじゃないと作れないのだろう。

 アルミは、酸素と結び付き易い金属なので、溶かすと何%かは酸化して使えなく成ってしまい、鋳直す毎に徐々に量が減ってしまう。なので、余計に高価なのかもしれない。

 まさか一円玉一枚が金貨十枚の価値が有るなんて思いもよらなかった。

 金貨一枚の重さが約15g程度なので、日本円でおよそ十二万円だ。もちろん、これは日本に持ち込んでも金貨としては通用しないので、金地金としての価値なのだが、それでもたった一円玉二十一枚が二千五百万円相当にも化けたのは驚きとしか言い様が無かった。


 「一円玉を大量に持ち込んで両替すれば、私達大金持ちだね」

 「んー、これもあまりやらない方が良いかも」

 「何でさ?」

 「相場を崩すの。向こうもこっちもね。碌な事に成らない気がするから、少しずつにしましょう。大体年収で二千万円位に抑えて置いた方が安全だと思う」

 「そんなもんなのか?」

 「そんなもんなの」


 江戸時代末期頃、日本は金の産地で国内では金と銀の交換レートが1:5位だったと聞く。

 しかし、日本以外の外国では金銀のレートは1:15位であり、それを知った外国人は日本へ大量の銀貨を持ち込み、日本の金貨である小判へ交換してし国外へ持ち出してしまうという事件があった。

 気付いた幕府が小判の金の含有量を減らす処置をしたのだが、日本の金は大量に国外へ流出してしまった後だったという経緯がある。

 その影響で質の悪い小判が大量に出回ってしまい、日本はインフレを起こして経済がガタガタになってしまった。

 アキラはそれを知っていたので、この方法で稼ぐのを躊躇ったのだ。

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