第21話 守る決意

 ロデムポイントのすぐ近くへ土地を買う事が出来る事に成り、二人は直ぐに向こう側へ行きたかったのだが、地主のお婆さんがにっこにっこしながらずっと居るので、二人はどうしようかと悩んだ。

 優輝は別にゲートを開くところを見られたからといって、何か困る事が有るのかと思っていたのだが、きっと多くのスーパーヒーローや超能力者が正体を隠すのと同じ程度の困り事は発生するのかもしれない。



 ちょっと想像してみよう。マスコミに騒がれて晒し者にされる可能性。個人情報込みで晒されたら困るのだろうか?

 個人情報の方は個人情報保護法が有るからまあ大丈夫だろうとは思うが、姿を晒されたら困るのかというと、まあ芸能人が変装無しで町中を歩き回る程度には困るかもしれない。

 しかしだからといって、生活出来なくなるという程では無いだろう。現に芸能人も政治家も顔が知られているにも関わらず、普通に生活しているのだから。


 じゃあ、金塊をそっちの世界から持って来ているのを知られたら?

 これは一番不味いかもしれない。というのも、人間金が絡めば法律の壁なんて安々と越えてくる輩はいっぱい居るのだから。

 マスコミや反社会的勢力なんかは堂々とやって来るだろうなとは容易に想像出来る。現に今もチョイチョイちょっかい出されているのだから。

 これが現実に金に成る事が確定したならば、鬱陶しさは今の比じゃないだろう。


 能力を知られたら、政府の何とか機関や外国の謎諜報組織に捕まって人体実験や解剖なんてされちゃう?

 優輝もあきらも自分達に直接やって来るのなら何とでも対処出来るだろう。でも、親兄弟にまで迷惑が及ぶ事に成ったら困る事になるのは間違いない。

 だから、能力的な部分に関しては秘密厳守にするだろう。

 仮にそういった組織に捕まった場合、生きていてこそ利用価値があるのだから殺されはしないだろうが、その能力解明の為に飼い殺しにされるかも知れない。いや、多分そうなる。

 そういった国レベルの巨大組織に対抗出来る程の力が無ければ、能力を明かすのはリスクが有るだろう。


 優輝やあきらが暴漢の何処かの神経系を引き千切ったとする。この場合、正当防衛かどうかは一旦置いておいて、超能力による相手の人体に対する傷害は罪に成るのかどうかという問題。

 例え二人がやったというのは状況的に明らかだし、二人が自らがやったと白状したとする。

 しかし、現実問題その因果関係を証明する事は出来ない。

 つまり、罪には問えないのだ。何故なら、超能力で引き起こされた犯罪を処罰する法律が無いのだから。

 相手がいくら超能力でやられたと喚いても、そんなものは存在しないというのが一般常識であり、法律にはそれを想定した項目が無い。つまり、罪には問えない。

 そして、わざわざ自分の方から超能力の存在を証明する必要性は皆無だ。それをする必要が有るのは相手側なのだから。

 しかし、反社はそんな法律的な部分は容易に超えてくるだろうし、知人に類が及ぶ可能性は否定できないのだから、やはりどう考えても能力は秘密にしておいた方が無難だろう。


 法律の壁を越えてくるのは日本以外の国もそうだ。法律的に因果関係を証明出来るかどうかなんて関係無い国は存在しそうだし、そもそも国外に連れ出されてしまえば日本の法律は適用されない。

 二人が金塊を幾らでも持って来る事が出来るというのが事実なら、自分等の手中に収めたいと考える国は幾らでもあるだろうから。


 更に、異世界へ渡る方法を解明し、自分達の利益としたいと考える連中だって居ないとは限らない。

 この件に関しても、二人の能力を公にするにはリスクしか無いと考える。


 優輝の異世界渡航能力は絶対に秘密にしなければ成らないとあきらは考えていた。

 あきらの方が能力もスマートフォンの機能も遥かに使い熟せているのだが、それも元を正せば優輝の能力が有ってこそなのだ。

 優輝が居なければあきらはロデムと会う事が出来ず、能力を貰う事もお金を稼ぐ事も無かった。

 何時も、のほほんとして危機管理意識も弱い優輝を、あきらが守ってやらなければならないと考えた。

 女が男を守るというのも妙な話に聞こえるかもしれないが、年上の先輩としては後輩を守ろうという気持ちが有るのだろう。


 「問題は、銀座のあの社長に打ち明けられるかどうかなのよ」


 何時までも“おじいちゃんの蔵から出て来た砂金”では通らないだろう。

 出所不明の金塊は、今の量ならまだ誤魔化しも効くが、もっと大量に成ってくれば、あの社長も言っていた様に段々とおかみに説明を付け難く成って来る。

 更に国毎の金の保有量というのはIMF(国際通貨基金)によってある程度把握されているのだ。

 それが、日本の金保有量だけが急に増え出したりしたら、国際的に大問題と成るだろう。

 日本政府は各国から説明を求められ、その金の出所を必死に調査するだろう。結果、優輝とあきらの存在は白日の下に晒され、最終的には国に管理されて身動きが取れなくなってしまう可能性だって無くはない。


 「金の換金は、もっと頻度を落として、ゆっくり少しずつにしようと思うの」

 「そう? その件に関しては、あきらに一任するよ。俺より頭が良いしね。でも、換金に行く時は必ず一緒に行くからね」


 優輝は優輝であきらを危険な目に遭わせたくない、自分が守るんだと考えている様だ。



 二人はお婆さんにお礼を言って、今日の所はこれで解散という事にした。

 学業の方もちゃんとやらないと、田舎の親に何を言われるか分かった物じゃないから。

 『異世界で金塊を見付けたのでそれ売って生活します』じゃ、流石に通らないだろう。


 優輝は一旦自分のアパートの最寄り駅である愛ヶ丘駅で電車を降り、その足で不動産屋へ向かい、アパートの解約手続きをした。

 敷金は退去日に内覧して問題無ければ全額返済、残りの家賃は、日割りでその時請求されるという事だそうだ。


 「さて、アパートの中の私物は取り敢えず全部ストレージへ格納して、電化製品なんかはリサイクル屋に売るかな」


 ロデムの中は気温は一定で冷暖房の必要は無いので、エアコンとこたつは要らない。

 ガスレンジはガスが無いから要らないし、コーヒーメーカーも電子レンジもオーブントースターも電気が無ければ使えない。

 冷蔵庫もストレージが有れば時間は停止している、正確に言えば時間を遡行して格納した直後の時間で取り出す事が出来るので何時までも新鮮なまま保存出来る。


 多分、生活を便利にする色々な物が、無ければ無いで結構何とか成っちゃいそうな気がした。

 退去日まではまだ寝泊りする事も有るかも知れないので、ベッドだけは残して置く事にした。


 「問題は、家で飲み物を冷やしたり氷を作ったり、逆にお湯を沸かしたりが出来ない事かな? いやいや、ストレージに氷やお湯のポットをそのまま入れて置けば良いのか…… そう考えると、意外と最小限主義ミニマリズムな生活が出来ちゃうのか」


 優輝は、近所のコンビニでお弁当を買い、それを持って鷲の台駅へ向かった。

 完全に引っ越しを完了するまで、ちょこちょことむこうの環境に手を入れようと思ったのだ。

 終電は関係無い事はもう分かっているので、電車が来るのを待ち、ブレーキ音が聞こえたタイミングでゲートを開いて飛び込んだ。


 今更鷲の台駅を使う事は無いと思われるかもしれない。

 しかし、理由が有るのだ。

 一つは、こちらの立っている場所と向こうの地面の高さが同じである必要があるという事。

 もう一つは、向こう側の場所に危険が無い事。もう泥だらけに成ったり、ずぶ濡れに成るのは懲り懲りだから。向こうの状況が分かっている場所が望ましい。

 三つ目は、ロデムから比較的近くて下草を処理してあり、道が在る事。

 そう成ると、鷲の台駅は今現在では最も良い選択肢なのだ。


 ゲートを抜けると、ストレージから直ぐにククリナイフを取り出し、それを持って走る。

 多分ゴブリンにはもう負けないだろうが、出会わないに越したことはないから。


 「トライ!」


 ユウキはロデムの中へラグビー選手みたいにダイブして飛び込んだ。


 『やあユウキ、今日はアキラは一緒じゃないのかい?』

 「うん、アキラは研究があるから邪魔しちゃ悪いしね。こちらへ完全に引っ越す前に、生活環境を整えておこうと思ってさ。一人で出来る事はやっておこうかなって」

 『キミ達仲が良いからいつも一緒に行動するのかと思ってたよ』

 「アキラが来た時にビックリする位、周囲の環境を整えて置こうと思うんだ」

 『そうか、喜んでくれると良いね』

 「まずは回りの草刈りから始めるとしようかな」


 ユウキは女物の服に着替えると、安全靴に履き替え、軍手をしてククリを持って外へ出て行った。


 「よし、見渡した感じ、動物らしきエネルギーは近くに見当たらないな」


 ゴブリンが近くに居ないのを確認すると、早速下草や灌木を刈り始めた。

 以前は直ぐに音を上げたのだが、最近はエネルギー量が増えたせいか、あまり疲れないしある程度の太さの灌木もサクサクと切り取る事が出来る様に成っている。

 暫く作業に没頭していると、気が付けばかなりの広さの広場が出来上がっていた。


 「よし、じゃあここから町が在る方角へ向けて道を作るかな」


 町の方角を確認しようとスマホを取り出したら、その時急に大音量の着信音楽とマッサージ器並みのバイブレーションが成り、びっくりして思わずスマホを落としてしまった。

 地面に落ちたスマホは、爆音を鳴らしながらバイブで跳ね回っている。


 「何だよ! こんなとこまで強化されてなくても良いのに!」


 やっとの事で跳ね回るスマホを捕まえて電話に出ると、カンカンに怒ったあきらからだった。


 「ちょっと! 一人で行かないでって言ったでしょう!!」


 耳元で怒鳴られてキーンとなる。


 「御免御免、ちょっと回りの草刈りでもしておこうと思ったんだよ」

 「それでも! そちらで何か有ったら助けに行けないんだから、心配させないでよ」

 「分かったよ。御免なさい、反省してます」

 「分かれば良いのよ。せめて一人で行く時は連絡頂戴」

 「はい。後もうちょっと草刈りしたら戻ります」

 「よろしい。じゃあまたね」

 「またー」


 『フフフ、怒られちゃったね』

 「盗み聞き禁止!」

 『ボクも繋がってるから無理なんだよ』

 「マジか」

 『でも出来るだけ干渉はしないから安心して。プライバシーとか言うんでしょう?』

 「まあ、魂が繋がっててプライバシーも無いよなー」

 『そういう事』


 その時何か近くに気配を感じた。

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