第19話 アプリ色々
ユウキは興味本位でその文字をタップした。
すると、スマホのカメラレンズ横に取り付けられているフラッシュLEDから糸の様に細い何かが発射され、川底を切り裂いた。
「うわっ! なんだ!?」
ユウキは思わずスマホを手放してしまい、クルクルと回転しながら落下して行った。
ビームは川底から岸に在る岩や木々を切り裂き、川岸で座っているアキラのすぐ側も通り、アキラの座っていた岩の端を切り裂いて行った。まさしく間一髪だった。
そしてスマホはそのまま川底へ沈んで行った。
川底でスマホの裏面は上を向き、ビームは上空へ向けて照射された状態で止まった。
「あっぶな! こんなん間違ってスナップ撮ろうとしたら大惨事不可避じゃん!」
幸いな事にレンズ面はユウキやアキラの方向を向かなかったので事無きを得た。
スマホの周囲でゴボゴボ沸騰する様に泡立つ水のせいで、水の上からでは正確なスマホの位置を把握しにくい。
誤ってビームの軸線上に手をかざしてしまったらと思うと、怖くてなかなか拾い上げる事が出来ない。
ユウキは思い切って水に顔を付け、そーっと手を伸ばしてビームの出ている側とは反対側のスマホの下側を摘まんで、
慌ててビームを切り、ホッとする。
二人は血相を変えてロデムの元へ走り寄り、抗議した。
「ロデム! フラッシュのオンボタンの横にこんなのが有るなんて、罠なんですけど!」
「人間工学的にヤバいから改善求む!」
『ごめんなさい。そんなに怒らないで』
二人のあまりの剣幕に、ロデムもタジタジ。
ビームはカメラアプリの中では無く、別アプリとして作り直すという事で落ち着いた。
「他にもこんな罠機能は無いでしょうね?」
『うーん、ボクには良く分からないな。製作者の立場では便利かなと思って作ってるから』
「普通はバグとか、使い勝手の悪いユーザーインターフェースとかは、ユーザーの報告をフィードバックしてアップデートで改善されて行くよね」
『善処するよ。機嫌直して』
「こちらこそごめんね。焦って取り乱しちゃっただけなんだ。本当は怒ってないよ。いつも感謝しているし大好きだよロデム」
『安心したよ。ボクも大好きだよユウキ』
「何か妬ける会話ね」
『アキラも大好きだよ』
「俺も」
「恥ずかしいから面と向かって言わないで」
「あはは」
『アハハ』
こちらへ引っ越すのは良いとして、ロデムの体内で火を焚くのは熱いから止めて欲しいとの事だったので、外部の
「出来れば風呂とかも作りたいな」
「結構大掛かりね。ドラム缶とか持って来る?」
「うーん、トイレ問題もあるしなぁ」
「外だと完全に安全とは言えないから、風呂やトイレ中に怪物に狙われるとアウトね」
「そうなんだよなぁ」
二人してウンウン唸っていると、ロデムが声をかけて来た。
『アプリに空間拡張が有るから使ってみて』
「あ、そういえばそんなアプリ有ったっけ。アキラは使って見た?」
「もちろん、驚くわよ」
『ユウキも是非使って見て欲しいな、自信作なんだ』
ロデムがそこまで言うので、外へ出てアプリを起動してみる事にした。
アプリのアイコンをタップすると、例によってまた『アプリがカメラ機能にアクセスする許可を求めています、許可する/許可しない』と出る。
許可するをタップすると、カメラが起動し、中央に丸に十字のポインターが現れ、『入り口を作ってください』の文字が現れた。
それをカメラに写っている樹木へ指で移動すると、木全体がハイライトされ、その木の範囲内に更に現れた四角枠の四隅を縦横移動させて、四か所を指定してチェックボックスにチェックを入れると、実物の木の方にもスマホ画面と同様の半透明グレーの領域が現れた。
スマホの方を見ると、ドアの『有る/無し』ボタンがグレーの領域内に表示されている。有る方を選択すると、何種類ものスキンが現れ、ドアのデザインを選択出来る様に成っていた。
無難な木製のドアを選ぶと、現実の木の表面にも木製のドアが現れた。
「凄いよこれ、本物だ」
ユウキは触ったりノックしたりして確認している。そして、ドアノブへ手を掛け、ドアを開けると中に入った。
そう、目の前の木に漫画みたいに木製のドアが出来、その中へ入れたのだ。
中は味気ないグレー色の、一辺が4m程の立方体の部屋に成っていた。
ロデムの体内と似た様に何処からともなく照らされた環境光で部屋の中は薄明りに照らされている。
もう一度スマホの画面を見ると編集機能が点滅していて、部屋の縦横奥行きをミリ単位で指定出来る様だ。その下のスキンの項目を見ると、床天井壁と別々に質感を変更出来るし、窓の設置や照明の明るさや種別も選べる様に成っている。
ユウキは天井にシーリングライトを設置し、その明るさを80%、部屋を満たす謎の環境光の明るさを20%に設定した。
「やっぱり、謎の光源よりも天井の照明の方が落ち着くもんな」
「そうね、影の出来ない明かりよりもこっちの方が幾らか自然ね」
本当は環境光をゼロにして天井の照明を100%にした方がより自然なのだろうけど、真っ暗闇の部屋へ入ってスイッチを探すという手間は無い方が良いかなと考えた訳だ。
「アキラはこれ知ってたの?」
「そうよ、ユウキはもう見てるわよ?」
「え? 何時だろう?」
「昨日私の部屋に来た時に、私が着替えに入った部屋」
「え、あれが? 全然気が付かなかったな?」
「前に来た時には無かったでしょう?」
「そうだったっけ? 昨日言ってくれれば良かったのに!」
「うふふ、気が付くかなって思ったのよ。だってあそこにドアが有るとすると、アパートの壁を貫通して外に出ちゃう筈なのよ? 私の部屋は角部屋なんだから」
「すっかり騙されたな」
「入出権限を設定出来るから、セキュリティも万全よ」
「すげえ!」
「そして、これが昨日の話に繋がるの」
「昨日の話って何だっけ?」
「もう、銀座で話した、土地を買わない? って話」
「ああ!」
ユウキも合点がいった様だ。
そう、銀座でも白金台でも田園調布でも、たった一坪、いや半坪程度の土地でも買えれば、そこに豪邸を建てる事が出来てしまうのだ。
ただ現実問題、半坪だけの土地が買えるのかという問題は有るが。
「おお! これは俄然夢が広がりまくるな」
「更に凄い事に、この空間は、他で作った空間と連結する事が出来るの」
「成る程、某動く城のドアみたいな事が出来るのか」
「そう、日本各地に土地買えば、交通費もただね」
「じゃあ、外国の土地も買えば」
「
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ、お風呂とトイレを作るんじゃなかったの?」
部屋の内装をあれこれ時間を掛けて弄ってやっと満足する物が出来たのか、ご満悦のユウキにアキラが声を掛けた。
「あっ! そうだった!」
あまりの楽しさに本来の目的を忘れていた様だ。
部屋の奥の壁に扉を追加して、その奥に小部屋を二つ作る。
一つがトイレでもう一つが浴室だ。プリセットでそういう設定項目が有る。
「風呂は広い方が良いかな。でも、広すぎると落ち着かないのかな?」
「使って見て気に入らなければ、決定後でも幾らでも編集出来るわよ?」
「この部屋とアキラの部屋を繋げられたら便利だったのになぁ」
「別々の世界間はそう簡単には行き来出来ないのでしょうね。でなければロデムも苦労してない訳だし」
「なあ、トイレが出来たのは良いけれど、出したものはどこへ消えるんだろうな? まさか、ロデムの所? 質量をくれるなら何でも貰うって言ってたけど」
「そういう事は考えない様にしましょう。どうせ聞いたって分からないわよ。多分、異空間は無限の広さがあるから、ストレージみたいに無限に溜めて置けるんじゃないかな」
その辺の仕組みは敢えて聞くのは止めて置こうという事になった。
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