第18話 スマホビーム!

 「それで久堂様、こちらの金塊の出所等をお伺いしても宜しいでしょうか?」

 「あら? 前回、言った筈ですけど? 取引店舗が変わる度に毎回説明が必要なのかしら?」

 「いえ、滅相も御座いません。それでは、前回のお取引の時と同じ、という事で宜しいのでしょうか」

 「そうよ、何か問題でも?」

 「いえいえ、この様な出所不明の金塊が大量に納入されますと、ちょっとおかみの方で怪しまれたり、という様な事が無いとも言い切れませんので、念の為」

 「そうねぇ…… 今後も取引を望むのであれば、味方に成って頂けるかしら?」

 「それは勿論で御座います。我が社はお客様のご事情ご秘密を全力でお守りする所存で御座います。ですので、くれぐれも他社へはお持ちに成られません様お願い申し上げます」

 「まあそんなに、慌てなくても大丈夫よ。あなが悪い人では無いのは見れば分かるもの。次に持って来るまでに何事も無ければ、お話出来ると思います」

 「はい! どうぞよろしくお願い致します!」


 あきらと優輝は立ち上がり、現金を入れたバッグを優輝が持って応接室のドアまで来ると、社長はさっとドアを開けて頭を下げた。


 「その懐に忍ばせたレコーダーさえ無ければ、今日言えたかもしれないのにね」


 優輝がすれ違い様にそう言うと、社長はギョッとした様な顔をした。

 二人が店を出るまで社長以下店長社員全てに立礼りつれいで見送られてしまった。


 「どひゃー! 緊張した―!!」

 「ふふ、お疲れ様」

 「出所でどころをめっちゃ疑われてましたね」

 「そうね、祖父の蔵から無限に金塊が出てくる設定には無理があったわ。でも秘密を共有するか考える猶予はあげた訳だし、次の取引迄には何らかの覚悟を決めてくれるでしょう」

 「秘密を話した途端、裏切られるという心配は無いですか?」

 「神経系のエネルギーの流れを見れば、味方に成ってくれるという部分に嘘は無かったわ。それに、お上に怪しまれるという話もきっと本当」

 「あきらさんはそこまで分かっちゃうんですね」

 「信用出来るかどうかは次の取引で見極めるわ。それと!」

 「それと?」

 「何時迄も先輩とかさんとか付けるのやめてよ。あきらって呼び捨てにして欲しいの」

 「うっ、はい、あきら。……ああ恥ずかしくていたたまれない」

 「はい、良く出来ました。じゃあ私も神田君じゃなくて、優輝って呼ぶわね」


 銀座の街を顔を真っ赤にした美女と男が肩を寄せ合って歩いて行く。それを見た通行人は皆等しく同じ事を思った『爆発すればいいのに』と。



 鷲の台駅で別れてから、優輝はある事を思い出し、あきらにメッセージを送った。


 (そういえば、土地を買おうとか言ってませんでした?)

 (そう、それを言おうと思ってたのよ。明日は土曜だから、その話は会った時にね)




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 土曜の朝から優輝とあきらは、ロデムポイントから程近い一軒の農家横の細い路地へ来ていた。


 「さあ、実験を始めようか」

 「えっ、優輝はライダーオタクなの?」

 「それだけで分かる方も同類だと思うけど」


 あきらは持って来たブルートゥースヘッドホンを優輝に装着すると、自分のスマホの中の様々な音を再生し始めた。


 「まずは最初にゲートを開いた鷲の台駅での電車のブレーキ音からね」


 キキーキキーキー!! ヘッドホンから爆音の金属同士が擦れる甲高い音が聞こえて来た。


 「ぎゃああああ! もうちょっと、もうちょっと音量下げてー!」

 「うん、ゲートは?」


 あきらは優輝の苦痛など御構い無しに、淡々と実験結果をノートに記録して行く。

 予想に反して鷲の台駅のブレーキ音ではゲートは開かなかった。スマホのマイクで録音した音では音の感じが変わってしまうのだろうか、ネットで拾った色々な電車のブレーキ音でも上手くいかない。


 「でも、あの時車のブレーキ音でもゲートが開いたのよね?」

 「確かにその通りですね。電車のとは限らないとすると、周波数なのか音量なのか、または音の揺らぎみたいなものが関係しているのか」

 「その時の優輝の精神状態も関係しているとすると、組み合わせは膨大な物に成ってしまうわね」

 「酔った状態とか疲労した状態が関係あるのかとも思ったのだけど、全部を思い返すと必ずしも当て嵌ってはいない様なんですよね」

 「良く思い出してみましょう、ゲートが開く時に共通した事象を」


 自動車の急ブレーキ音、自転車のブレーキ音、考えうる限りの乗り物のブレーキ音と試してみたが、一向に成功しない。

 更には鉄工所の金属音、切削音、鳥の声、虫の声、果ては人の悲鳴等。


 「この悲鳴って、あきらの声でしょう? アパートで録音したの?」

 「そう、隣の人が駆け付けて来て恥ずかしかったわ。演劇の練習って誤魔化したけど」

 「今、あきらの悲鳴を聞いた時、ちょっと笑いそうになっちゃったんだけど、ゲートを開く時と何か近い物を感じたんだ。良く分からないけれど」


 優輝は少し考えながら言った。何か分からないけど、惜しい気がしたのだ。


 「もしかしてなんだけど、危機感とか軽いドキドキ感とか関係あるのかも?」

 「危機感?」

 「いい? 一番最初の終電乗り遅れの時は、終電に乗り遅れちゃいけないという焦燥感。次の時は、これで上手く行くのかどうかという、初めて何かを行う時の軽いワクワク感。三回目は終電間際に私に止められそうになった緊迫感。四回目は道で車を避けようと優輝が私に抱き着いてしまった時のドキドキ感。そして五回目は轢き殺されそうになった時の切迫感。全部心拍数が上昇する状況なんじゃないかしら?」

 「確かにそうかもしれない!」

 「だったらこの音!」


 優輝の付けているヘッドホンに大音量のキィィィィィーーー!!!という爆音が鳴り響くと同時にあきらが飛びついて来た。

 次の瞬間、二人は抱き合ったまま水の中へドボンと落下した。


 「ぶはっ! み、水!?」

 「あっそうだった! ロデムの近くには小川と淵が在ったんだった!」


 二人は慌てて泳ぎ、なんとか岸に上がる事が出来た。


 「あ、あぶねー! 夜中じゃなくて良かった!」

 「はあ、はあ、でもこれでハッキリしたわね」


 二人はロデムの所まで歩いて行って、ばたりと仰向けに寝転んだ。


 「あの音、何だったんですか? まだ心臓がバクバクいってる」

 「あああれ? 教室の黒板を爪で思いっきり引っ掻いたの」

 「うわぁ、不快音の王様」

 「他にも発泡スチロールを擦り合わせた音とかも用意してあったのよ?」

 「いや、もう結構です」

 『二人とも服を着たまま水泳かい?』



 二人は濡れた服を着替え、小一時間ばかり砂金を収集してから今後の予定を話し合った。


 「なあロデム、この前の街までの間に危険な場所って在るのかい?」

 『うーん、そうだね、地形はここと似た様な森がずっと続いているだけで殆ど平坦なんだけど、一部ちょっと猛獣のテリトリーに掛かっている場所が在るかな』

 「そこ、私達の能力で抜けられると思う?」

 『問題無いよ。ただし……』

 「ただし?」

 『ボクの与えた能力をもっと習熟してからの方が良いかもね』

 「それは、俺達の生身の身体能力だけではキツイという意味なのか?」

 『その通りだよ』


 「うーん、そうかぁ。早く人里へ行ってこちらの世界の人間に会ってみたいんだけどなぁ」

 『焦らなくても町は逃げないよ。アキラ程度に能力を使い熟せてるなら大丈夫だとは思うけど』

 「えっ、アキラと俺ってそんなに差が有る?」

 『うん、結構違うよ。アキラは能力に興味が有って、色々研究しているみたいだけど、ユウキはさっぱりだろう? ユウキの興味はこちらの世界自体に向いてて、ボクの与えた能力は全然使って無いんだもの。ちょっと寂しいな』

 「じゃあ、能力を使い熟せる様になったらロデムがGOサイン出してくれる?」

 『良いよ。でもボクの審査は厳しいよ。キミ達には死んで欲しくないからね』


 それからは能力の特訓に入った。

 アキラが先行しているというので、教えて貰いながら少しずつ習熟していこうと考えた。

 スマホの機能も個人の能力の拡張ツールという事で、使用者の能力の一部という捉え方で良いらしい。


 「とはいえ、スマホに武器に成る様な機能って有るのかな?」

 「殆ど便利機能っぽいよね」

 「ストレージは使い様によっては武器的使い方が出来るかもしれないけど……」


 ロデムの外で靴を脱ぎ、川縁かわべりの岩に腰を掛けて小川に足を入れながら二人であれやこれや相談していた。

 夜見ると淵が物凄く怖い感じがしたのだけど、昼間の明るい時に見ると、水は清らかで透明度が高く、川底は砂地で水遊びするには持って来いのロケーションだった。

 二人はこの綺麗な景色を写真に収めながら、川の水で遊び始めた。


 「あっ! こっちにも砂金があるみたい」

 「ロデムから流れ出ている部分に砂金が含まれているみたいだね」


 銀座の貴金属店へ見せる為の証拠の写真を撮ろうと、ユウキは川の中程迄入って行って川底の写真を撮り始めた。


 「うーん、この辺りは日陰に成っていてちょっと暗い写真に成っちゃうな。 フラッシュをオンにして撮ってみるか」


 ユウキは稲妻マークのアイコンをタップすると、オン、オフの隣にビームと書いてある文字を見付けた。


 「ビーム? こんなのあったっけ?」

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