第15話 電車以外で転移
(神田君、木曜の夜の約束は次の日にして貰っても良いかな? 医学部の連中に捉まっちゃって、飲み会に行く事になっちゃったの)
(そっか、今や先輩は大学中の人気者ですもんね。医学部にはあの時お世話に成ったし、羽を伸ばして来て下さい)
優輝は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
医学部の先輩が予約した飲み屋は、大学からバスで直通の、私鉄とJRの乗り換え拠点と成っている、大学からは一番近い比較的大き目の駅の近くだった。
現地集合で、
「久堂さん、綺麗だからテレビ映え凄かったですよ!」
「そうそう! 何処の女優さんかと思っちゃいました」
「武勇伝聞かせてくださいよー」
「
次から次へと話を聞きに来る先輩達にお酌され、柄にも無く酔っぱらってしまった。
美味しい料理を食べ、酒も十分に入り、宴もたけなわという所でラストオーダーになった。
「二次会行く人ー!」
「あっ、私家遠いのでここで帰らせてもらいますー」
「じゃあ僕も」
殆どの面子がここで帰ると言い出したので、今回はここでお開きという事に成った。
皆が居なくなり、二人きりに成った所でその先輩はニヤリと笑うと
駅の反対側はラブホテル街に成っているのだ。その先輩は、
本来
今回の飲み会でも飲んだのは瓶ビール一本程度の量だったはずで、こんなに意識が朦朧とする程の量では無い筈だった。
医学部の先輩が
それをビールに混ぜて、こっそりと飲ませていたのだ。
その時にこの男に目を付けられていたのだ。
男は
そして、今回のニュース騒動で話題に成った彼女へチャンスとばかりに接近したのだった。
飲み屋街を抜け、ガードを潜った先に在るホテル街へ入って行く。
そして、どの建物に入ろうかと物色している時に不意に背後から声を掛けられた。
「あれー!
男はびっくりして振り返る。
「あー、優輝じゃにゃーい。何でこんにゃとこにいりゅのー?」
「あーあ、ほらほら、こんなに酔っぱらっちゃって、しょうがないなーもう。済みませんねぇ介抱して貰っちゃって、ここからは俺が責任を持って家まで送り届けますんで」
優輝はそう言うと、男から強引に
しかし、男も黙ってはいない、ここまで来て獲物を搔っ攫われてたまるかと去って行く二人に走り寄り、背後から優輝の肩に手を掛けた。
「おい! おい! 後から来て横取りするんじゃねーよ!」
その言葉に優輝もカッと成り、強い口調で言い返した。
「お前の犯罪を止めてやったんだ感謝しろ、クズ野郎!」
優輝の迫力に思わず怯んで掴んでいた手を放し、男は茫然と立ち尽くして、去って行く二人を見送るだけだった。
「
「うーん、ごめんなさいー…… 優輝、愛してるー」
「もう、酔っぱらい過ぎですって」
ロデムに与えられた共感能力があったお陰で
いかに
優輝は、
肩に彼女の両腕を掛け、背負った背中から優輝の耳元に口を近づけて
「大好き」
と、その瞬間、背後から強い光に照らされ目が眩む。
車のヘッドライトのハイビームに照らされ、身動きの取れなく成った二人に向って車が猛突進して来る。
車を運転していたのは、さっきの医学部の男だった。
己の犯罪を見咎められた怒りと焦り、ホテル街で女を奪われ一人取り残された惨めさで我を失ってしまったのだ。
彼は、裕福な家庭に一人っ子として生まれ、子供の頃から甘やかされて育ち、金の力で何でも思い通りに出来て来た。
上級国民としてのプライドを、何時もなら見下していたであろうただの貧乏学生にへし折られたという恥辱で復讐心の塊となっていたのだった。
しかし、多少の理性は残っていたのかもしれない。衝突直前に成って急ブレーキを踏む。
キキキキーという勘高い音が鳴り響き、車は急停車しようとするが、時すでに遅し男の運転する高級車はコントロールを失い、ガード下のコンクリート擁壁に衝突し、大破した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜の湿地に二人は落ちた。
幸い、高さはそれ程高く無かったし、下の土は湿って柔らかかったので大した怪我は無いが、二人はドロドロに成ってしまった。
二人は車が衝突する直前にゲートが開き、異世界へと移動していたのだ。
「アキラ! アキラ!」
「あ、はいっ!!」
ユウキは倒れているアキラを揺さぶって起こした。
アキラは直ぐに飛び起きた。薬の影響は全く残っていない様だ。
ゲートを潜ると体は再構築されるので、薬物等の不純物は一切消えて無くなるのだろう。
「確か、飲み会でお料理を食べていた所までは覚えているのだけど……」
優輝は、今何故こんな所に居るのかを、事の顛末を順を追って話した。
「そう、そんな事があったのね。助けてくれてありがとう。 ……残念だわ」
自分がどんなに強くて誰にも負けない自信があろうと、悪意を隠し持ってにこやかに近づいてくる知人に対しては無防備に成らざるを得ない。
日本人なら友人知人が自分に危害を加える筈がないという性善説を無意識に持っている人は多いだろう。
これは民族性の良い面でもあり、欠点でもある。そのせいで外国人に良い様に扱われてしまう場合も多々あるのだから。
誰でも経験は有るのだろうが、
優輝は、こんな目に遭った彼女の心の支えに成らないといけないなと強く思った。
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