第13話 異世界の町

 「ごめん神田君、待たせちゃって」

 「大変でしたね。学校中で評判に成っちゃうかも?」

 「もう、やめてよ!」


 駅で待っていた優輝とあきらは合流し、やって来た電車へ乗った。


 「それで何処へ行くの?」

 「ちょっと気に成る場所が有るんですよ。大量の幽霊が見えた場所なんですけどね」

 「幽霊!? ちょっと待って、私そういうの苦手なんだけど!」

 「いや幽霊と言っても、俺が勝手にそう呼んでただけで、実は向こうの世界の住人なんじゃないかと思ってるんです」

 「え? それってもしかして、森じゃない場所の可能性があるというか、町か何かが在ったりする?」

 「多分、そう睨んでいるんです」



 二人は、電車を何本か乗り継ぎ、優輝がその幽霊を見たという駅にやって来た。

 ここは前に優輝がホームセンターで買い物をした時の最寄り駅である。


 「この駅なのね?」

 「そうです。大体この辺りなんですけど」

 「ふうん、資料用に写真を写しておきましょう」


 その駅はマップで見ると、鷲の台駅からは直線距離で15Km位離れている。

 あきらはスマホを取り出すと、周囲を撮り始めた。


 「あ、ここと向こうで高さが違うので、万が一ゲートが開いたら1.5m位落下するかも。こちらで人工の構造物の上に乗っていると、向こうには何も無い訳だからその高さ分落ちます」

 「それを聞いておいて良かったわ。改札を出ましょう」


 二人は改札を抜け、ホームから線路を挟んで反対側にある道路へやって来た。

 線路脇の道路は、車が辛うじて擦れ違える程度の細い道で、殆ど車は通らない。多分、地域住民が使う程度の道なのだろう。

 あきらは、ここでも資料と称してスマホで写真を撮りまくっている。


 「幽霊が見えた位置の道路側はこの辺りかな?」

 「あっ! 神田君、これ見て!」


 さっき写した写真を遡って見てみると、うっすらと何人もの人がまるで二重露光の様に写っている。

 あきらはこれが幽霊では無く、向こうの世界の人達だと分かっているので恐怖感は無い様だ。それどころか逆に興味深げに繁々と眺めている。


 「あ、あきら先輩、道の真ん中で突っ立っていると危ないですから」


 丁度道の向こう側から黒いワゴン車が来るのが見えたので、優輝はあきらに抱き着く様にして路肩へ寄せ、ワゴン車をやり過ごそうとした。

 しかし、その車は通り過ぎる事は無く、二人の居る横で急停車し、スライドドアが開き男が二人飛び出して来た。

 優輝とあきらはびっくりして硬直してしまった。


 しかしその時、同時にホームへ電車が入って来てブレーキ音が響いた。


 優輝とあきらは、異世界に居た。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「おい! あいつらどこ行きやがった!?」

 「何処にも居ないぞ! くそっ! 失敗だ、逃げろ!」


 男達は素早く車に乗り込むと、急発進して去って行った。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 石で舗装された大通りには、様々な人種の人達が行き来している。

 時々、人では無い様な者も歩いている。

 大通りの両側には、一階が石造りで、その上には木の柱に煉瓦の壁という様式の建物が並んで建っていた。

 道行く人は、通りのど真ん中で抱き合ってポカンとしている、不思議な恰好の二人をジロジロと眺めながら通り過ぎて行く。


 「あっ!」

 「ごめんなさい!」


 優輝とあきらは、お互い抱き合っている事に気が付き、慌てて離れた。


 「これ、ゲートが開いた、で良いのよね?」

 「うん、多分そう」


 二人は顔を真っ赤にしている。


 「あそうだ、ロデムに連絡取れないかな?」


 優輝がスマホの電話帳を開き、ロデムの名前をタップして耳に当てているのを見て、あきらはびっくりした。


 「えっ!? ロデムの電話番号知ってるの? ていうか、ロデムって電話持ってるの?」


 至極尤もな疑問である。


 「うん、家でスマホを色々調べている時に、電話帳に名前が有る事に気が付いたんだ」


 優輝はスマホをハンズフリーに切り替える。


 『はい、ロデムです』

 「本当に出た!」

 「今、どこかの街に居るんだけど、こちらの場所分かるかな?」

 『うん、大体把握出来てるよ』

 「そうか、ちょっとそっちから距離が離れているので今日は行けないけど、そこからエネルギーを取る事出来る?」

 『えっ? 良いのかい?』

 「いいよ。また近くへ行ったら寄るからね」

 『ありがとう! 了解だよ。楽しみに待ってるね』


 ユウキは電話を切ると、少し力が抜ける様に感じた。アキラは例によってヒュンって成った様だ。


 ユウキは、場所を一歩も動かずに方向を確かめる様に辺りを見回し、あきらの肩を抱く様に引き寄せて一歩後ろへ下がった。

 そこは、元の駅のホーム横側道の路肩だった。

 黒いワゴン車は既に居なかった。


 「元の世界へ戻った」

 「なんだか俺達というか、あきら先輩は見張られているみたいです」


 二人は直ぐに改札まで戻り、丁度来た帰りの電車へ飛び乗った。


 「一体何に付けられていたのかしら? マスコミ? 反社? それとも国家権力?」

 「もしかしたら全部かも。でも、さっきのは二番目っぽかったですけどね」


 どれにも心当たりがありすぎるのだ。

 マスコミと反社は、裏表というか、ズブズブな関係っぽいから、金塊を大量に持っている謎の美女に興味津々だろうし、国家権力は、そいつらの動向が気に成る上に、金塊の出所とか諸々こっちはこっちでまた別に目を付けられてそう。


 「どちらにしろ、無防備にアパートへ帰るのは危なそうだな。ひとまず俺のアパートへ来ます?」

 「あら? 連れ込むつもりかしら?」

 「いやいや、そんなつもりじゃなくてですね、純粋にあきら先輩の身の安全が心配で」

 「冗談よ。でもね、多分私、戦っても負けないと思うわ」


 「ああ、昨日言っていた、神経系を流れるエネルギーが見えるとかいうアレですか」

 「そう、電気回路のオンオフみたいに回路を切ったり繋いだり出来ちゃうの」

 「襲われたらそいつらの四肢の自由を奪ったり、視覚や聴覚を奪ったり…… って、こわっ!」

 「私だって進んではやりたくはないわよ。命の危険が有るとか、止むを得ない場合だけです」


 あきらは、ちょっと怒った風に頬を膨らませて見せた。

 優輝は、理知的で普段はクールなあきらがそんな顔を見せてくれた事が、ちょっと嬉しかった。


 「ところで、さっき何で直ぐに戻っちゃったの? あのままあっちの世界に居れば安全だったのに。見物もしたかったな」

 「うーん、目印を付けていないのでゲートの位置とか向きが分からなくなりそうだったし、もしあのまま閉じてしまったら鷲の台駅の方のゲートまで歩かなければなりませんよ? 15Km以上歩く事になりますけど」

 「うん、あなたの判断は正しかったわ」


 「その前に、連中はどうやって私の居場所を正確に掴んだのか、よね?」

 「ちょっと待ってください、見てみます。」


 優輝は向かい側の席へ移り、あきらの全身をロデムに貰った目でじっと見つめた。


 (あきら先輩、こうやって見ると女優かモデルさんみたいに綺麗なんだよなー。いやいや、今はそんな事より)


 ロデムに貰った能力は、エネルギーの流れを見る事が出来る。今の所、あきらの方が若干使いこなしている様だが、優輝も使える様に成っておきたいと思っている。

 発信機か何かを付けられているのなら、その電波を発信している箇所が見える筈だ。

 そう念じながらじっと見ていると、あきらの頭の辺りが太陽の様に輝いて見え始めた。


 「うわっ! まぶしっ!」

 「どうしたの?」

 「あきら先輩、眩しいっす!」

 「いやだ、もう!」


 あきらは照れて見せたが、優輝はリアルに眩しい光を見たのだ。

 あまりにも眩しいので、薄目を開けて光量を調節すると、バッグの底あたりから強い光が出ているのが見えた。


 「ありました。バッグの底です」

 「えっ? いつの間に」


 バッグの中をごそごそと探ってみると、銀色の大き目のボタンの様な平たい円盤が出て来た。


 「これかしら?」

 「間違いないですね。発信機というかコレ、スマホで位置情報を追えるGPSタグですよ」

 「へえ、便利な物が有るのね」

 「ペットの首輪とか、カバンなんかに付けて置くやつです。本来の用途は」

 「ふうん、こんな物いつの間に」


 あきらは、さっき出掛けにマスコミ関係者に入れられたのだろうと推測した。

 それを、今座っているシートの隙間に押し込むと、乗換駅で電車を降りた。


 「丁度良いからこの辺りでお昼食べない?」


 二人は駅舎内に組み込まれているハンバーガー屋へ入った。


 「電磁波も見えるのは良いけれど、全周波数が見えてしまうのはちょっとウザいから周波数を選択して見えれば良いのにな」

 「あら、私は出来る様な気がするけどな」

 「マジですか?」

 「マジです」

 「神経系も白飛びが酷くて細かい所までは良く見えないんだよね」


 二人の情報を色々と突き合わせてみると、どうやらあきらの方は繊細に、優輝の方は高感度に見えてしまう様だった。

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