第11話 金の買い取り

 テーブルの上には、箇条書きにされた幾つかの単語が書かれた紙が置いてある。


 1 鷲の台駅

 2 ホームの端

 3 終電の時間(21:20)

 4 ブレーキ音


 というワードが並んでいる。

 これは何かというと、ゲートを開くのに関係があると思われる要素を箇条書きに書き出してみた物なのだ。


 ゲートを開くのは、優輝の能力だとロデムは言った。

 しかし、今の所、特定の時間、特定の場所、特定のタイミングでしか成功していない。

 毎回改札で駅員と悶着を起こす訳にもいかないので、なんとかそのキーを見つけたいと思っているのだ。

 これは一つ一つ検証していく他無いだろう。


 「それから、向こうへ持って行くべき物資なんかも書き出しておこう」

 「そうね、着替え用のテントとか、絶対に必要だわ」

 「俺は別に何とも思わなかったけど? 向こうじゃあきら先輩は男なんだし、男同士別に恥ずかしがる必要無いと思うんだけど」

 「あなた向こうじゃ女の子なのよ!? もっと自覚しなさい!」

 「えー、そんなに怒られる様な事?……」


 あきらは、向こうの世界では男なので、無防備にすっぽんぽんになる優輝に目のやり場に困ると思っていた。


 「それから、あなたが向こうで着る下着なんかも私が買って来るわ」

 「あー、それお願いするよ、女性物の下着なんて俺買いに行けないから」

 「了解」


 「そうそう、砂金の換金どうしようか、俺明日午前中は講義があるから、お願いしちゃっても大丈夫かな?」

 「良いわ、私は午前中は空いてるから。換金出来たらそのお金で買い物してもいい?」

 「どうぞ。半分はあきら先輩の物だし、向こうで二人で使う物なら俺の分から出してもらって全然良いですよ」




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 次の日、優輝はあきらのアパートから直接大学へ行き、あきらはリュックにストレージから出した砂金を詰めて、ネットで調べた買い取り専門店へ出かけて行った。

 その買い取り店は、全国チェーン店で信用出来そうに思えた点と、買い取り価格が高く、新宿にも店舗が在るという点で決めた。

 新宿ではスポーツ用品店や登山やキャンプ用品の大型店も幾つかあるので、ついでに買い物も出来ると考えたからだ。


 私鉄とJRを乗り継いで、あきらは新宿駅に降りると、東口改札を抜けた。


 (はあ、リュック重い。スマホに入れたまま持ってくれば良かったな)


 2Kgの金の入ったリュックは、意外と重かった。家からそんな物を律儀にえっちらおっちら担いで来なくても、確かにスマホのストレージに入れたまま持って来て、店で取り出す時にリュックの中で出せば良かったのだ。

 慣れない便利道具を持つと、後から考えればこう使えば良かったなと思う様な無駄な使い方をしている場合が儘有るものだ。


 店は割と直ぐに見つかった。大通り沿いのビルの裏手、路地を一本入った所に在った。意外と小さな店構えだ。

 店に入ると店員が声をかけて来た。


 「ご購入ですか? 買い取りですか?」

 「金の買取をお願いします」

 「分かりました、こちらへどうぞ」


 店の奥側のパーティションで仕切られた、入り口側からは見えない位置にあるカウンターへ案内された。

 あきらは、まず中位のサイズの金を一つ取り出し、カウンターに置いた。


 「これなんですけど、買い取れますか?」

 「ほう、これは…… 砂金、ですか? こんなサイズの物は見た事がありません」

 「まだ幾つか持って来ているのですが、買い取れるかどうかを知りたくて」

 「はい、勿論買い取り可能です。ですが、インゴットと違い品質保証の刻印が有りませんので、純度等の検査するのに少々お時間を頂きます。買い取り価格もスクラップという扱いに成りますので、金地金としての価格からマイナス2%程度お安く成ってしまいますが、ご了承ください」

 「わかったわ。じゃあ、これ全部お願いね」


 あきらは、リュックをひっくり返してゴロゴロと大粒の砂金をカウンターの上に出した。

 対応した店員は目を丸くしていた。


 「か、畏まりました。では、数と個別重量を計測させて頂きます」


 専門の係の者がやって来て、一粒一粒ピンセットで精密秤へ乗せ、ナンバー付きのジッパー付きポリバッグに入れて重量を書き込んで行く。大きい物で50g程度の物もあり、全部で52個有った。

 あきらは別室へ通され、そこで鑑定が終わるまでしばらくの間待たされた。

 その間にスマホで優輝にメールを送る。


 「品質を鑑定するんだって。その間応接室に通された」

 「そうなんだ。大金を持つんだから、帰りは十分に注意して帰って来て下さい」

 「了解」


 応接室では暇だったのでスマホでネット小説等を読んでいたら、ドアがノックされ先程応対してくれた店員がワゴンを押しながら入って来た。


 「お待たせしました。鑑定結果が出ました」


 店員は、あきらの前へ売買契約書と鑑定結果の書類を差し出し、その横に現金の束を積み上げた。

 100万円の束を10個更に束にした、1000万円のブロックが一つと、100万円の束が6個、それと端数の千円札と小銭を乗せたトレーが置かれる。

 詳細は鑑定書の方へ書かれている。


 「検査の結果、全て24Kの最高品質でした。詳細はこちらの紙に、買い取り金額はこちらと成ります。お取引前に免許証等の身分を証明出来る物のご提示をお願いします。そして、金額とこちらの取引契約書をご確認の上、ご署名をお願い致します。」


 書類を読んで署名する間、店員はにこやかに雑談をし始めた。


 「こちらの金塊は、どういった経緯でご入手されたものかお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 あきらは、犯罪がらみの品かどうか探りを入れられているんだなと思った。


 「それは話さなくてはいけないのかしら?」

 「出来れば」


 任意風に言ってはいるが強制なのだろうとあきらは思った。


 「実は、先日亡くなった田舎の本家のおじい様の家の蔵から出て来た物なの」

 「本家のおじい様、ですか」

 「遺産分与で頂いた物なのだけど、詳細は私にも分からないわ」

 「そうでございますか」


 何だか半信半疑みたいな顔をされたけど、詳細は自分も知らないと言う所が大事だ。下手に作り話をすればボロが出る。これは予め優輝と疑われた場合の質疑応答として想定していた問答だった。


 「よし、と、署名はこれで良いのね? 判子は要らないの?」

 「はい、押印は義務では無くなりました」


 あきらは、トレーの数枚の万札と小銭を残し、契約書と札束をテーブルの下に置いたリュックに仕舞う振りをしてスマホのストレージへ格納した。

 ばらの札と小銭は、買い物をする為に財布へ仕舞う。


 「良いお取引が出来まして、有難う御座いました。帰り道は大変危のう御座いますので、お気を付けてお帰り下さい。また何かお売り頂ける物がありましたら、ぜひ当店をご利用下さい」


 わざわざ店の外まで出て来てお辞儀をされてしまった。

 これじゃ大金を持っていると道行く人に教えてる様なもんじゃないかと訝しんだ。あきらは、次はもうこの店は使わないだろうなと思った。


 今、財布の中には万札が11枚と千円札が8枚入っている。これだけ有れば今日買いたい物は全部揃うだろう。

 まず、スポーツ用品店へ行って、着替え用の簡易テントと安全靴、優輝のと同じ封筒型の寝袋とディレクターチェア、熊避けの唐辛子スプレーやベルを二人分を購入。それと、料理やちょっとした工作にも使えるオピネルの8番のナイフ。

 ふと、作業着専門店はどうかなと思い付き、最近出来たばかりのワークウーマンへ行って、裾を絞れるタイプの作業ズボンと上着も男女用二着ずつ。

 最後にデパートへ行って、男物と女物の下着をそれぞれ洗い替え用も含めて4着ずつ購入。


 さて、必要な物は全部買ったかなとメモを確認し、さて帰るかと駅方面へ歩き始めたのだが、意外と荷物が多すぎて嵩張るので、これらもストレージへ仕舞ってしまおうと人目の無さそうな路地へ入ったのがまずかった。


 荷物を下した所で背後から口を塞がれ、首筋にナイフを突き付けられてしまった。

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