第6話 二人で異世界探検
「それからこっちの植物の方も検査結果出てるわ。なんでも、タンポポに似ているけど遺伝子が全く違うって騒いでたわ。新種発見だーって」
「ええー……」
「それから、土の中の微生物や雑菌もちょっと教授連中が色めき立ってたから、何か居たのかも知れないわね」
「向こうの物をこっちに持って来ると、色んな方面に騒ぎを起こしそうですね」
「うん、十分気を付けてね。あ、それからこれなんだけど……」
「昨日あなたのズボンを洗っていて、裾の折り返しの所に入っていたんだけど、まさかこれって……」
「砂金!?」
「シー! シーッ! 声が大きい!」
「いやー、まさか!? これじゃ砂金じゃなくて、小石金じゃないですか」
「まだ喜ぶのは早いかもよ? 貧者の黄金かも知れないし」
「黄銅鉱ですか? うーん、金っぽいけどなあ」
「ぬか喜びしてもしょうがないから、ちょっとこれは保留にしましょう。なんだか情報過多で疲れちゃった」
「じゃあそれは
「ちょちょちょっとー!」
優輝は、
一人取り残された
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
優輝は、もう一度あそこへ行く、そう決心して自分のアパートへ戻った。
通販で買った商品の段ボールを受け取る為だ。最近は玄関ドア前に置き配もしてくれるので便利だ。
優輝が帰ると、玄関前に段ボール箱が置いてあった。
宛名を確認し、部屋へ持ち込むとすぐに開封する。
実は
お陰で定期預金を解約してしまった。
購入したのは殆どがキャンプ用品だ。折り畳みテーブルにタープ、アルコールストーブでは心許ないので今度はカセットコンロ、100均の折り畳み椅子は壊されてしまったのでキャンプ用のディレクターズチェア。寝袋もめちゃめちゃにされてしまったので、今度は封筒型の寝袋。そして、もう一度登山用のリュック。
そして、やっぱり武器は必要だなという事で刃渡り30cm程もある剣鉈と大き目のククリナイフ。
まず、サバイバルナイフは全く役に立たない事が分かった。藪を切り開きながら進むには、やはり良く切れるマチェットじゃないとダメなんだ。
サイト内を検索してみると、色々な種類があって、その中でこれはと思った物がククリナイフと剣鉈だったのだ。
東南アジアとかアラブ圏の人達が使っている様な幅広の剣みたいなのもあったが、剣鉈は刀みたいで強そうに見えたのと、やはり鉈というだけあってブレードの厚みがかなりあり、頑丈そうに思えたからだ。
ククリは万能で便利だと聞いていた。なんでも、くの字に曲がった独特の形状は、包丁と鎌と鉈を合わせた様な用途で使えるのだとか。
ちなみに余談だが、ククリはブレードの途中から曲がっているが、日本の鉈も実は柄の根元あたりからほんのちょっと角度が付いている。
これは何故かと言うと、人間の手首が90度は曲がらないため、刃の角度が腕の延長線上に真っ直ぐ平行に来る様にしてある訳だ。こうする事で、振り回した時に打撃の時の力が逃げないようにしてあるのだ。
同様の構造として、フェンシングの剣もグリップが少し曲がっているし、火縄銃やマスケット銃のグリップ部分も少し角度が付けてある。
と、いうわけで優輝はこの二つのナイフに絞った。実際に触ってみて、どちらが使い易いのかを判断しようと思ったのだ。
最後に注文したナイフが今日届いたので、異世界へ行くのを今夜決行する事に決めた。
今時間は23時ちょっと過ぎ、愛ヶ丘駅隣の鷲の台駅までは5分なので、こちらを10分発の電車に乗れば鷲の台駅20分到着の終電に十分間に合う。
優輝は、登山用の大きなリュックを背負い、左手にはタープのバッグを、右手にはキャンプ用の折り畳みテーブルを持って、予定通り10分の電車に乗った。
鷲の台で降り、ホームの端へ行こうとそちらへ目をやると、なんとそこには腕を組み仁王立ちで優輝を睨む
「あ、
「止めに来たに決まってるでしょう! あなた、死にそうな目に遭ったのを忘れたの!?」
「よ、よく俺がここに来る事が分かりましたね」
「友達位置情報であなたが危ない事をしやしないか見張っていたの!」
「ええー…… でもこの通り何とも無いわけですし、安全地帯を見つけたんですよー」
「はあ? そこへ行くまでに怪物に遭遇するかも知れないじゃない!」
「大丈夫ですって、今度はちゃんと武器も揃えてますから」
「馬鹿じゃないの!? そんな両手が塞がっててどうやって戦うのよ!」
ご尤もです。しかもナイフ類は職質されない様にリュックの底の方に入ってます。
襲われた時に、一旦荷物を置いてナイフを取り出すまで待っててはくれないよねー。
でもどうしても行きたい!
ああ、こんな問答しているうちに終電のライトがすぐそこまで来ているのが見える。
なので、強行突破する事にした。
「すみません! 急ぐので!」
「あっ! 待ちなさい!」
優輝は
電車の停車するブレーキ音が聞こえ、次の瞬間勇気は森の中に立っていた。
「ふう、間に合った。まさかあそこで
「凄いわね、本当に異世界へ行けるとは」
「え?」
「え?」
「何で
「あなたに付いて来たからに決まってるでしょう!」
優輝は異世界へ行けるのは自分だけだと思っていたので心底びっくりしていた。
なんでも、ゲートをくぐる瞬間に
確かに、物を持ち込めるなら人だって連れて来れるのかもしれないが、優輝にとってちょっと想定外だった。
「ちょっと、危ないですから直ぐに戻ってください!」
「危ないと分かってるなら尚の事、一人で行かせられますか!」
そんな押し問答をしている内にゲートは閉じてしまい、既に帰せなくなってしまっていた。
なので、出来るだけ早く安全地帯へ移動した方が賢明だ。
優輝はリュックの奥からナイフを二本取り出し、片方を
「どちらか扱えそうな方を持っていて下さい」
「じゃあ、こっちの刀みたいな方を使うわ」
「こう、常に肩に担いだ形で持つんです。敵が現れたら、ライトのビームを顔面に当てて、相手の目が眩んだら素早く振り下ろしてガツンと」
「OK、OK、あ、曲ってる。まあ良いわ、で、こっちの刀は?」
「それは藪を払うのに使うんですけど俺が先に立って進むので、万が一用に持っていて下さい」
優輝しか道が分からないので必然的に先頭に立つしかないのだが、両手が塞がっていては藪を払うのは無理なので、タープのバッグは
幸い、前回帰って来る時に通った跡が獣道の様に残っているのでGPSを時々見ながら進む事が出来た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何も襲って来なかったわね」
「まあ、そんなしょっちゅう遭遇する訳では無いのかも知れませんね。熊だって毎回出くわす訳では無いですし。あ、ほら、見えてきましたよ」
深夜の真っ暗な森の中にそこだけ明るい空間が有るのは、なんとも異様な光景だった。それだけで現実世界では無いのを感じる。
いや、こちらも現実世界には違いないのか。何だか、夢の中というかVRの仮想現実の中に居るというか、感覚だけが体から離れて別の世界を体験しているかの様なフワフワとした気持ちになる。
その明るい空間へ入ると、写真で見た様に陰影の無い、色だけがあふれた立体感の無い世界だった。
3Dソフトでいうところの
そして、視界の先、広場の中央に浮かんでいる黒い球体も非現実的感に拍車をかけている。
「ねえ、ここでタープって意味ある?」
「うっ、い、いや、雨は降るかも知れないじゃないですか」
絶対に今考えただろうって返事を聞いて、
“キャンプ=タープ”という思い込みだけで持って来ただろうとは思ったが、優輝の言うように雨避けには成るだろうから全く無駄だったという事は無いだろう。
二人は重い荷物を下し、んーっと背筋を伸ばす仕草をしてお互いの顔を見合わせた。
「あれっ? 神田君、その顔……」
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