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突然現れたその子に驚きはしたものの、助けてもらったからだろうか。不思議と怖いとは思わなかった。


「あの、ありがとう……って、え、うわぁぁあぁっ!」


ほっとしたのも束の間、女の子は小さく笑ったかと思うと、俺の腕を掴んだままいきなりぐいっと引っ張った。

落下している。それも勢いよく。

ギュッと目を瞑って数秒。

覚悟した衝撃は訪れない。

そっと目を開けてみると、羽目板の天井が見えた。どうやら俺はどこかの部屋に仰向けに寝転がっているらしかった。

ゆっくり体を起こして辺りを見回してみる。


小さな和室だ。家具らしいものといえば部屋の中心に置かれた丸い座卓と座布団だけ。

女の子は俺から離れて壁際に置いてある人形を手に取ると、そのまま遊び始めた。

人形の他にも紙風船や独楽、絵本もある。

なんだか子ども部屋みたいだな、と思った。

襖が開いて、坊主頭の男の子が入ってくる。

その子も着物を着ていた。

俺が珍しかったのか、無言のまま見詰められる。


「こんにちは……?」


目を逸らすタイミングを逃した事により謎のにらめっこ状態が始まってしまい、取りあえず挨拶してみたものの、それに返してくれる気配はない。

どうしたものかと思っていたら、男の子が畳の一つを指差した。


「えっと、その畳がどうかしたのかな」


何かあるのかと見ていたら、不意に畳のへりに手を掛け持ち上げた。

突然畳を持ち上げた事もだけれど、それ以上に畳の下に現れたものに目が釘付けになる。

驚く事に、床にぽっかりと大きな穴が空いていたのだ。深さも奥行きもなかなかにありそうで、真っ暗な空間が続いている。

気になって中を覗こうとした時、地鳴りのような音が聞こえてきた。

それがすぐ外から聞こえていると気付くのと同時、目の前の壁に亀裂が入った。


「何だ何だ何だ!?」


咄嗟に二人の子どもの手を掴んで引き寄せる。

亀裂はあっという間に広がり、壁の一面が簡単に崩れていった。

さっきまで壁があった場所には、工事現場でよく見る重機があった。地鳴りの原因はこれだったのか。

どうしてこんな所に重機が?と考える間もなく、大きなアームが再び振り下ろされる。


「おい待ってくれ!人がいる!止めてくれ!」


呼び掛けに反応するどころか、俺たちが見えていないのかのように全く止まる様子がない。

壁に続いて床も壊されていく。

慌てて下がるも狭い部屋だ。

避けるのには限界がある。

外に出ようと襖を開けて一歩踏み出した瞬間、確かにあったはずの地面が消えていた。


「えっ?」


反射的に手を伸ばすも掴めるものはなく、一緒にいたはずの子どもたちもいない。

わけがわからないまま暗闇に落ちて、落ちて、落ちて───。




ぱっ、と目が覚めた。

心臓が激しく鼓動している。

さっきまで見ていたのは何だ……?

夢にしてはリアルすぎる。

音も感触も嫌に生々しかった。


「赤幡さん、大丈夫ですか」


いつの間に戻ってきていたのか、白枇さんがすぐ隣に座っていた。


「あ、俺、戻って」

「落ち着いて。ここは私たちが泊まっている部屋です。まずは体を拭いてください」


タオルを差し出されて、自分が濡れている事に気付いた。髪からも雫が滴っている。

まるで目が覚めた今も夢の続きにいるようだ。

夢の中とはいえ、短い時間にいろんな事が起きて頭が混乱していた。


「ダメだ、気配が消えた。オレたちに気付いてさっさと退散したらしい。逃げ足の速いやつだ」


開いていた窓から黒緒さんも入ってくる。

二人の顔を見ているうち、呼吸も気持ちも落ち着いてきた。


「体が冷えているでしょうから、まずはどうぞお風呂で温まってきてください。その後で何があったか聞かせてもらえますか」

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