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「面接希望の方ですよね?」

「え、あ、はい」

「よくおいでくださいました。会場はこちらです。ご案内します」


驚きながらも、気配もなく現れた男性について見るからに廃ビルの人気ひとけのない一室へ足を踏み入れると。

パイプ椅子と長机以外には何もない殺風景な部屋にもう一人、目力の強い黒髪の男性が椅子に座って待っていた。


「赤幡さんはどうぞこちらへ」

「はい、ありがとうございます。あの、本日はお時間をいただき」

「あぁ、そういう堅っ苦しい挨拶は不要です。面接と言っても、私たちは必要な要素があるか否かがわかればいいので」

「……はぁ」

「しかしそうですね、名前ぐらいは名乗っておきましょうか。私は白枇はくびと申します。あちらの無口男は黒緒くろおです」


いきなり出鼻を挫かれ思考がストップしそうになるのを堪え、せめて挨拶だけはと姿勢を正してから改めて名乗る。


「赤幡さん、彼岸花の目印はお気付きになりましたか?」

「はい。最初は何の事かと思ってましけど、道標の事だったんですね。実際に見たらなるほどなぁって納得しました」

「……ほう。偶然辿り着いたわけではないようですね」


白枇さんの目が細められる。

何か答え方がまずかったんだろうかと内心焦っていたが、白枇さんは特に気にした様子もなく次の質問をしてきた。


「では、今までに何か変なものを見たり聞いたりした事は?」


全くの想定外の質問だ。

広告からして変わった企業だとは思っていたが、面接内容までもが普通じゃない。

これは何かの引っ掛けか?

それとも突発的な出来事への反応でも見られてるのか?

だがこの質問、ありのまま答えるとするなら「ある」だ。

けれど、頭を過るのは小学生のあの日の記憶。

またあんな思いをするのなら……。


「ない、ですね」


迷った末、俺は誤魔化す事にした。


「そういうのとはちょっと違いますけど、昔から動物には好かれやすいです。噛まれたり威嚇されたりもした事がありません」

「ほぅ、それはどんな動物でも?」

「全部って保証は出来ませんけど、少なくとも俺が今まで会ってきた動物はみんな種類問わず懐いてくれましたね」

「それはすごい」


こんな話、馬鹿にされるかと思いきや、意外にも興味深げな瞳で見つめられ、話すのが楽しくなってくる。


「近所によく会う黒猫がいるんですけど、今朝もすり寄ってこられたところです。まぁ奴らは気紛れなんで、俺の事はちょうどいい遊び相手くらいに思われてそうですね。あ、猫って言えばさっきここへ来る時にも見掛けたんですよ。と言っても三毛猫の尻尾だけですけど」

「三毛猫?」

「鈴を付けてたみたいなんで、昔どこかの飼い猫だったのかもしれないですね。そうだとしたら、ある日急に自分で餌を取らなきゃいけなくなったわけでしょう。家猫を経験してると、野良生活ってめちゃくちゃ過酷だろうに強いなぁと思って……」


そこでやっと白枇さんが黙って真っ直ぐ見つめている事に気付いた。

やばい。楽しいからってつい余計な事まで喋りすぎた。俺の馬鹿野郎。沈黙の空気が重い。視線が痛い。

声も出せず、体も動かせず、ただ白枇さんの瞳を見つめ返す事しか出来ない俺の耳に、次の瞬間信じられない言葉が聞こえてきた。


「素晴らしい!合格です」

「……へ?」


合、格?

受かったのか?今の面接で?

受かった理由が全くもってわからない。


「あなた、本当は視える人でしょう」


目を細め楽しげに笑う白枇さんの言葉にドキリとする。


「えっと、何が、ですか」


ここで迂闊な事を言ってしまっては、さっき誤魔化した意味がなくなる。

どう答えればいい?どうすれば切り抜けられる?

背中を冷や汗が伝う。

すると、そんな俺の反応を見てか、白枇さんの雰囲気が柔らかいものに変わった。


「大丈夫ですよ、私たちも視える側なので。そもそもあの彼岸花は、視える人にしか認識出来ない花なのです。こんな曰く付きの辺鄙な場所、視えていれば花を追って来られますが、視えない人は悪戯かと思って引き返します。ごく稀に、運や勘が良い人が辿り着く場合がありますので、最初に目印の質問をしているのです。つまりはこちらに辿り着けた時点で合格のようなもの。さらに花を認識していたのなら、それこそ我々が求めていた人材です」


滔々と語られる内容に、半分以上頭がついていかない。

けれどなんだ、つまりはあの彼岸花は見えていても問題なくて、誤魔化した事もばれてて、でも一番重要な事は……そう、合格だ!

ほんとに受かったんだよな。

就活連敗記録を伸ばさずに済んだんだよな!







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