4-7

 週刊言責の記者は、一つの事件をひたすらに追い続けるものではない。方々に散り、各々が掴んだスクープを紙面に載せんが為奔走する。

 そして、午後八時。其々が取材を終え集った文芸部部室にて、私は今日のことをまとめて記事にする為、急いで原稿の執筆に取り掛かった。

「手ごたえはどうなんですか。記事にする許可は貰えたんですか? 許可貰えなきゃ書けないとか言ってましたよね?」

 他の事件を追っていた春日雫が、私にそう訊ねてきた。

「ウチが買ったジュース勝手に飲んだんですから教えて下さい。まだ一口しか飲んでないのに金返せと言わない私の高潔さに心打たれたから、とかで理由としては充分でしょう?」

「馬鹿を言うでない。百円玉をぽいっと返した方が早いではないか」

「えー、わたしも気になるなあ。早朝に呼び出されまでしたんだもん。原稿待ちなんて不親切なことは言わないでよ」藤橋まいかも私を急かす。

「以下同文」

 今回の取材のきっかけを作りし立役者、谷汲華奈もとは驚いた。

「そう言われても、どこからどこまで話せばよいのやら」

 私が言うと皆は口を揃えて。

「「「全部」」」

 困ったものだ。何から何まで全て話せと言うのか。それこそ記事まで待てというものだろう。

「まあ、その、なんだ。我々が掴んだ情報はほぼ全て坂内アンナに提示し、自白というべきか分からんが、得たい一言は得られた」

「へえ。じゃあ聞かせて」

「……ん?」

「レコーダー。録音したんでしょう?」

「いやいや、藤橋よ。これにはまだ私の声が一切の編集もなしに入っておるのだ。こんな時間に聞かれでもしたら恥ずかしさでとうとう私は眠れなくなる」

「別にいいじゃない。どうせ久瀬くん、興奮しちゃって今夜は眠れないでしょう?」

 いかんせん、私はこの副編集長殿を恐れる身であるから、ハイエナの如き視線と声には逆らえない性分なのだ。「ぐぅぬっ」と唸るが、それもまた無駄な抵抗である。

「決まり。雫ちゃん。久瀬くんのことだから、たぶん三つ目のレコーダーが右のポケットにあるだろうし、抜き取って再生ボタン押しちゃおう」

「了解です」

 天真爛漫で他人の言うことなど聞きそうもない春日雫であっても、所詮は副編集長殿の傀儡であったか。おのれ致し方なし。私なんぞは攻められれば弱い攻撃特化の戦闘機。逃げられぬなら座して死を待つのみ。恥辱も甘んじて受けようではないか。

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