4-2

 吹奏楽部の生徒が楽器を片付けていた。先程まで校内に響いていた合奏は、僅かな残響が耳に残る程度で、今では生徒のざわつきがフロアを支配していた。

 私は真っ暗な二年六組で隠れるように時を待つ。

「さようなら」と生徒の声が飛び交った。女子の多い部活だ。挨拶一つ取っても華やかである。

「気を付けて帰るんだよ」どんな楽器よりも美しい声色が、この暗闇に僅かな光を灯した。

 生徒たちの声が聞こえなくなった頃合いに教室を出て、私はその音色に声を掛けた。

「坂内先生」

 美しい髪を靡かせながら振り向いたその人は、愛らしくも頬を膨らませた。

「もう、アンナ先生でしょ、久瀬くん」

「ははあ、そうでありました。ではアンナ先生、少々、お話しが」

「なぁに、そのためにこんな遅い時間まで待ってたの?」

「ええ。先生とお話がしたかったのです」

「そう。嬉しいなあ」

「では場所を変えてもよろしいですか」

「ここじゃ駄目なの?」

 私は頷いた。ゆっくりと、深く。

 坂内アンナは、何かを察したように目を閉じた。

「そっか。お気遣いありがとう」

 私は、日常の顔を隠す。藤橋まいかとは違う仮面を、私も被る。

「……で、今日は一体何の取材なのかな。週刊言責の、編集長さん」

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