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 あの青天もまた有限であり、秋の空でなくとも移ろいやすい天候は、夕刻ともなれば当たり前のように曇天。それが梅雨なのだから仕方がないとはいえ、どんよりした外の色には心も曇ってしまっていけない。たまにならばいいが、雨が常では気も滅入る。私は窓から見える景色に憂鬱になりながら、文芸部部室で猫のようにだらりと時を過ごしていた。

 私は一人であった。じっとりと汗が額を濡らす室内で、備え付けのエアコンの作動音だけがゴオと響く。数年前に取り換えられた新しい物らしく、それも静かなものだった。

「もうすこし喧しくても良いのだがなあ」

 そう呟いた私は、小説を執筆する気も起きず、一昨日刊行した週刊言責十二号を手に取った。

 あらゆる事件が、この世界では無数に起きている。同じく、社会の縮図であり、我々学生にとっては世界の大半を占めると言って過言でないこの学校という小さな世界でも、それはそれは、大なり小なり様々事件が起きている。

 それを拾い上げる我々、週刊言責。

 大人になってこの紙面を見返した時に、「なんとくだらないことを囃し立てているのだ」と笑う者も多いだろう。大多数がそうではないかと思う。

 しかし、学校と言う場所は、私にしてみればなんと退屈な空間なのだと思ってしまうのだ。この日々こそくだらないのではないかと、思ってしまうのだ。

 勉学が何だと言うのだ。部活動が何だと言うのだ。それが世界の全てでもなかろうに、何故我々は有り余る若さと情熱をそんなものにぶつけなければならないのだ。

 私は、休み時間に机に突っ伏す人間であった。友との交流も皆無であったし、部活動と言う名の汗まみれな青春もなかった。酷く灰色で、退屈な時間をまさしく浪費していたのだ。

 青春はもっと鮮やかであるべきだ。灰色の日常など、限りある人生に於いては無駄以外の何物でもない。だがそういう人間が少なからずこの社会にはいる。学校という狭い世界にもいる。

 私の宿命は、そういった者たちの青春に色を差すことにあるのだと自負している。退屈だらけの学校には、刺激が必要なのだと高らかに叫びながら。

 たかだか数十ページ。だが、白黒の紙面を一度開けば、我々が欲する刺激が満ち満ちている。不正を暴き、未知を探求し、真実を明かす。そんな世界もあったのかと知ることが出来る。

 それこそが週刊言責。週刊言責こそが青春の色彩。

 私は、週刊言責の巻末に、必ず載せている文言がある。週刊言責が何故この大岐斐高校に存在しているのかを示し、また自分達の在り方を問う為に。

 ――青春よ鮮やかであれ!

 そう願い、私は週刊言責を刊行した。

 十二号を読み返し、閉じた頃には、すっかり外は暗くなっていた。雲が分厚いだけのようにも思えるが、恐らくは太陽も沈んだのだろう。

「そろそろ行くか」

 時計も見ずに、私は文芸部の部室を出た。向かうのは、音楽室である。

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