3-4

 週刊言責編集部、使命を胸に再び集合。現在時刻、午前五時。快晴。尾行の翌朝、と言いたいところだが、翌々日である。諸々の手配に時間が掛かったせいだが、用意を怠るわけにも行くまい。致し方なし。

 藤橋が小さく欠伸をした。そりゃあ眠かろう。若さには充分な睡眠が必要なのだ。しかしこの時間から張り込まねば間に合わない可能性もあると考えれば、朝焼けの名残もある内に集うのは当然のことだった。我々には時間がない。確実性を上げるのだ!

 報道とは事実と真摯に向き合うことが仕事であるが、それなりの推理というものが必要になることもあるだろう。事実と事実を繋げるのは人の想像力だからだ。そして、我々は推理で以て一つの仮説を立て、今日の取材と相成った。つまり今回の目的は、仮説の立証である。

 ここはアパートの一室だ。2DK、六畳間と四畳半で、屯するのに不足はない。

 窓から外を窺えば、梅雨の晴れ間と坂内アンナが住んでいる部屋の玄関が見える。三棟並んだこのアパートは我々には都合が良く、丁度玄関が見える位置にも棟があり、これは張り込みにうってつけであることから利用させてもらうことにした。

 諸々の手配とはこの部屋を借りることだった。こんな簡単に部屋が借りられるものかとも思うが、そこは藤橋姉の手腕に依る所が大きく、今回に限ったことではないが、お姉さんにはおんぶに抱っこだ。

 しかし、アパートは三棟ある。坂内アンナが入って行ったのは真ん中の棟で、今我々がいるのが玄関側であるなら、窓側にも建物はある。が、さすがに自重をしておいた。自由奔放な我々はギリギリのラインを攻め、しかしギリギリのラインは超えないのだ!

「では、外からの撮影は華奈に、この部屋からの撮影は藤橋に頼みたい。私は必要に応じて動く柔軟性の権化になる」

「了解」

「分かったけど、でもアンナ先生って本当にここに住んでるのかな。一昨日はたまたま友達の家に泊まってたってだけかも知れないよ」

「安心せよ藤橋。昨晩から張り込んで、アンナ先生がこの部屋に再び帰って来るところを私はしっかと目撃しておるのだ。さらに大家に、『向かいの住人二人が夜間にやかましいのだが』と鎌をかけた所、『まあ若い二人だからね』と、あの部屋を借りているのが一人でないことを証言した。もはや確定であると断言出来る。その他諸々、情報は昨日の内に集めておいた。抜かりはない」

「用意周到」

「当然であろう華奈。せっかく華奈が掴んだスクープだ。目玉記事にせねばなるまいて」

「……ありがとう」

「うむ」

 この際、華奈のタメ口は許容範囲としておくことにして、早速取材開始と行こうではないか。

 週刊言責次号の目玉を、今この瞬間に掴む為。我々三人は円陣を組み、中心に手を置いて、今日の成功を誓い合った。一人足りないではないかと思うが、気にすることはない。

 あの礼儀も何もあったものじゃない後輩こと春日雫は、早朝集合にめっぽう弱く、今日も今日とて寝坊による遅刻であった。我々にしてみれば当然のことなので、一々疑問にも思わない。

 意外としっくりくるな、この三人は。そんな風にも思っているくらいなので、そろそろ春日雫の復権を願うところでもあるのだが、

 結局、雫は今回の件では蚊帳の外。自業自得だ。猛省せよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る