2-1
空いた穴を埋められるかどうかは、今日を含めた四日間ほどの取材がものを言うことと相成った。
「証拠を掴みたい」
私は音楽室の真横にある二年六組の教室で呟いた。坂内アンナは吹奏楽部の副顧問であるから、部活動中の今この瞬間に接触のチャンスがあると睨んでここに潜んでいるのだ。
「一応、証拠はあるんだけどねえ」
隣の椅子にちょこんと座る藤橋はそう言うが、その証拠となる映像は残念ながら全編英語。吹き替えもなければ字幕もない。とある人物に翻訳を頼みはしたが、彼も忙しい身、訳されたものが手元に来るまでには時間が掛かるだろう。ここはさらなる証拠、もしくは坂内アンナに関する情報を集めることに時間を費やすのが得策。
「求めるのは、我々でも理解出来る証拠」
『いやあ、難しいと思うなあ』
携帯電話の向こう側から、後輩ながらも時折タメ口をきく春日雫がそう言った。雫は保健室にいる。
『だってそうでしょ。普通生徒に後ろ暗いこと話しませんって』
「分かっている。が、なんとかならんものか。自ら通話履歴を開示させるとか」
『いや、女の通話履歴とか下着みたいなもんだから。秘密の塊だから』
「なるほど。下着を見せ合う仲になればチャンスはあると」
『死ね』
とうとう私が命を落とすことを願うか後輩よ。先輩は悲しいぞ。説教する時間も惜しいから目を瞑るが、これが昼飯時なら鉄拳制裁だ!
「ところで保健室はどうだ。痕跡はないか」
『ないですねえ。何せただ電話してただけですから。手掛かり一つナッシングです』
「だろうなあ」
証拠に繋がる何かがあればそれが何であれ僥倖だ、と意気込んだのだが、あちらは不発の様子。やはり本人に直撃する他ないか。にしてもナッシングて。
「では、坂内アンナ先生に直撃取材を敢行する」
『ご武運を』
……そういうことは言えるのね。
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