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 ――そう。私はあの日、一人で東杉原を張り込んでいたわけではない。

 一年生の谷汲たにぐみ華奈かなと共に、私は石塀の影に隠れていたのだ。

 華奈は我が部のカメラマンである。私の持つデジカメとは比にならないほど重厚な一眼レフを構えた彼女は、週刊言責編集部に属しながら写真部の部員でもあり、素晴らしい写真技術で以て我々に大きな成果をもたらしてくれる立派なアシスト役であった。

 華奈は我が校の諸兄諸姉に入ってはとりわけ華奢で、それ由来かは別としても実に影の薄い少女であった。一年生で顔も知られていないことも幸いしてか、彼女の隠密能力の高さを私はかなり高額で買っており、我々がこの場で果たすべき使命にとっては欠かせない少女であることを明言しておこうと思う。

「ぼくは、別に」

 東杉原のスクープを撮ったことに限りない賛辞を送る雫らに対し、華奈は謙遜し目を伏せた。

 華奈はいつも通りややどもった声で「ぼく」、と言ったが立派な女子生徒だ。ただでさえ小さな身体を縮こませ、かつ異常なまでに影が薄いことから時に視認することが困難になるほどの存在感のなさである。その特性が我が部に寄与していることは言うまでもない。素晴らしき長所だ。何せ学校は伏魔殿。撮らねばならぬもので溢れている。彼女の力は必要不可欠なのだ。

 さて。どこか頬を赤らめた谷汲華奈と、ぶーぶー喧しい春日雫、優等生の化けの皮に身を包みし藤橋まいか、そして私こと久瀬涼人。

 長机を囲みし四名のジャーナリズムが、この瞬間その魂をぶつけ合い明日の学び舎に色を差すべく議論を交わす。

 六月上旬、本日もまた週刊言責編集部は稼働するのだ。

 さあ、編集会議を始めようではないか!

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