頭上で回るは観覧車

コオロギ

頭上で回るは観覧車

 地平にはコーヒーカップ、メリーゴーランド。

 空中にブランコ、ジェットコースター。

 頭上には、観覧車。

 殊にここには、まわるものばかりで……。


 ……ああ、もう大丈夫ですよ。着ぐるみたちは撒きました。落ち着いて落ち着いて。

 え。ここですか? 見てのとおりですよ。……気づいたらここに? はあはあ、皆さんそう云われます。

 え? どれです? あんな月は見たことがない? ……はははは、あれは月ではありませんよ。確かによく光っているけれども。よく御覧なさい、あれは観覧車ですよ。

 少し移動しましょう。散々走り回ってお疲れの様だ。どこか座れるところがいいな。あそこにベンチがある、行きましょう行きましょう。

 ……おや。いえね、あちらにコーヒーカップがあるでしょう? 見えますか? ほら、大女がポットから何か注いでいる……蝋状のあれが何でできているのか、くるくると撹拌され最終的にどうなるのか、お知りになりたいでしょう。あれは……あ、知りたくない。そうですかそうですか。

 あ! あれ、あれ見えます? ジェットコースターですよ。どうです? 楽しそうでしょう、まるで蛇がとぐろを巻いたように優雅にぐるぐると回って。あ、落ちた。ああ、ああ、次々落ちていきますよ、見えます? ほら、ほら!

 おや。……大丈夫ですか? お顔が真っ青だ。ここは回るものばかりですからね、目が回ってしまわれたのでしょう。目を回すのなら頭を回したほうが良いでしょうけれどもね。ははははは! 冗談ですよ。

 うーん、困りましたね。横になって、もっとくつろげるところがあれば良いのですが。……ああ、そうだ、ここにはお屋敷があるのです。ちょっと歩くのですけれどもね。一度足を踏み入れたが最後、出られなくなってしまうなんてお話もよく耳にしますがまあ噂は噂です。行ってみましょうか。あ、止めておく。そうですかそうですか。

 何ですか? ……え! これが夢! あははははは! うふふふ。ああ、失礼。あなたがあんまり面白いことをおっしゃるから。ええ、ええ、もしもあなたが眠っているのであれば、もしくはそう、これが誰かの見ている夢の中、あなたも、私も、ただのエキストラにすぎないというのであれば、そうでしょうね。おっしゃる通りだ。ふふふふ。

 ああ、本当に申し訳ない。そんなに俯かないで。お顔を上げてください。……もうかえりたい? おや、不思議なことをおっしゃる……。

 だってあなた、もうかえっているじゃありませんか。

 意味が分からない? え? ……ええ、もちろん。皆さんかえっていらっしゃいますよ。……ああ、ああ、分かりました、分かりました、かえりたいのですね。じゃあ、もう一度かえるとしましょう。ちょうど今、ゴンドラが一つ空いていることですし。行きましょう行きましょう。

 どこって、観覧車ですよ。さきほどあなたが見上げていた。

 あなたはあそこから孵ったんですから。

 見えますでしょう。薄い硝子を破って。何人も何人も。あなたが孵っていますよ。見えませんか? ほら、今落ちたのがそうですよ。

 さあ、着きました。このゴンドラに乗ってください。……嫌? どうして。あなたの席ですよ。さあ。はは、そんな遠慮なさらず。あはははははははは。さあさあさあさあ。

 はい、もう鍵をしましたからね。

 それじゃあ。

 おかえりなさい……。


 ……殊にここには、まわるものばかりで。

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頭上で回るは観覧車 コオロギ @softinsect

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