第2話 どうしてこうなった
いつまでもウジウジ悩んでいても仕方ないので、気分転換がてらとりあえず街に出てきた。
すでに冒険者の間には俺が追放されたことが広まっているようで、すれ違う者たちから哀れみの篭った視線や嘲笑を向けられている。
ま、今やここ――クラン激戦区であるブレルの街で五本指に入るであろう大クランをクビになったんだ。
そりゃ噂にもなるか。
「やれやれ……。いっそのこと引っ越すかぁ?」
噴水の縁石に腰掛けながら、空を見上げてぼやく。
幸いなことに給料はそこそこもらっていた上に、使う暇もなかったので貯金は結構ある。
それこそ、田舎にでかい家を買ってのんびり暮らしていけるほどに。
もうじき22になるが、30くらいで冒険者を引退して田舎でスローライフを送りたいと思っていたので、かなり早いけどちょうど良い機会なのかも知れないな。
なんてことを考えていると、焦った様子で走るアリスが目に入る。
向こうも俺に気づいたようで、慌てて駆け寄ってきた。
「ロードさん、見つかって良かった……! クランを辞めるって本当ですか?!」
「ん……? いや、正確には辞めるんじゃなくて辞めさせられたんだ。クビだよ、クビ」
「どう言うことですかっ?!」
どうも話が噛み合わないので、俺は昨日のことを包み隠さずアリスに話した。
最初は驚いた様子だったアリスは、話が進むにつれて徐々に表情が険しくなっていき、最終的には怒りの形相を浮かべる。
「ロードさん、少しここでお待ちいただけますか?」
寒気がするほど冷気を纏うアリスは笑顔でそう告げると、スタスタと歩いて何処かへ行ってしまった。
「アリスが怒ってるとこ、初めて見たな……」
間違ってもアリスは怒らせないようにしよう。
そう強く心に誓いながら、待つことしばらく。
アリスは何かを必死に叫ぶ男を無視して、スタスタと歩いてきた。
「お待たせしました。さぁ、行きましょうか」
「アリス、なんとか考え直せ――って、お前はロード?! なぜお前がここにいる?!」
「なんでって……アリスに待ってろって言われたからだよ。で、これはどう言うことだ?」
アリスに声をかけていたのは、『天翔』のメンバーでマザマージの腰巾着でもあるスィエン。
「どうもこうもあるか! アリスが突然、クランを抜けると言ってきたのだ! さてはお前が唆したんだな?!」
「はぁ……?」
訳のわからない言いがかりに、唖然としてしまう。
「しつこいですね。私は私の意思で抜けると決めたんです。クラン側に無理に引き止める権利はないでしょう? これ以上付き纏うなら、ギルドへ報告しますよ」
「くっ……! ロード、お前のことはマザマージさんに報告するからな! ただで済むと思うなよ!!」
捨て台詞を残して走り去っていったスィエン。
なんだか面倒そうな気配がするな……。
「さ、一度ギルドへ行きましょう。脱退届けを受理してもらい、新しくロードさんとのパーティー申請をしなくては」
「待て待て待て。クランの脱退はアリス個人の意思で判断すれば良いとしても、俺とパーティーを組むってのはなんだ?」
「え? 私と組んでくださらないのですか……?」
うるうると瞳を潤ませ、今にも泣きそうな表情を浮かべるアリス。
こいつ、こーゆー小悪魔的なあざといとこあるからちょっと苦手なんだよなぁ。
金糸の長いロングヘアに、見つめられると思わず吸い込まれそうなほど透き通った碧眼。
幼さの残るあどけない顔はとても可愛いらしく、黙っていれば超絶美少女と言って差し支えないんだが……。
「今とても失礼なことを考えていませんでしたか?」
「いえ、考えておりません」
にっこりと笑うその姿に気圧され、思わずピンと背筋を伸ばしてしまった。
「さ、行きましょう。まぁ、嫌と言っても連れて行きますけどね」
俺の腕にしがみつくと、有無を言わさずギルドへ向けて歩き出すアリス。
こいつ、法衣の上からじゃわからなかったけどめちゃくちゃでか……じゃなくて。
ちょ、力つえーな?!
なんとか抜け出そうとするも、ガッチリとホールドされた腕が抜けることはないままギルドへと到着してしまった。
「あれ、ロードさんまた来たんですか?」
「私もいるんですが?」
「あら、すいませぇん。全く目に入りませんでしたぁ」
「この小娘……!」
ミーナとアリスがなぜか火花を散らしている。
こいつら、なんでか知らないけど仲悪いんだよなぁ。
あと、アリスよ。
小娘ってお前、確か同い年じゃなかったか?
「あー、なんかアリスが天翔を脱退するらしくてな。その付き添いだ」
「そうでした。『天翔』からの脱退届けと、ロードさんをリーダーとするパーティーの新規登録をお願いしますね」
「脱退ですね、かしこまりました。パーティーの申請は残念ながら受理できませんが、脱退届けについては確かに受理しました」
「あら、満足に受付嬢の仕事もできなくなってしまったんですか? となると、その身体を売るしかなさそうですね。娼館でも頑張ってください、応援してますよ。その薄い胸でお客さんを満足させられるのか、とても心配ですけど」
そう言って、アリスは勝ち誇ったようにミーナの顔から胸へと視線を落とした。
「セクハラ! それセクハラだから!! あんたみたいに無駄に出かければ良いって訳じゃないんだよ?! ね、ロードさん!」
顔を真っ赤にしてバッと胸元を抱きしめるように覆い隠したミーナは、すがるような瞳で俺を見つめてくる。
ミーナは確かに胸は控えめだが、アリスに負けず劣らずの愛らしい顔に、頭から生える白いウサミミも相まってこれまた超絶美少女な受付嬢だからな。
ミーナ目的でギルドを頻繁に利用する依頼者や冒険者がいるほどで、下手なことを言えば殺されかねん。
「そ、そうだな? みんな違ってみんな良いと思うぞ??」
「ほら、ロードさんに同情された気分はどう?」
「うっさい、黙れ牛乳女!!」
「なっ?! この絶壁女!!」
「少しはあるもん! まだ成長中なのっ!!」
「もう18なんだから、望み薄じゃない! 潔く諦めなさいっ!!」
キャーキャーと騒ぎながら、取っ組み合いの喧嘩を始めた二人の美少女。
そして、どうやら俺の対応は不正解だったようで、ギルド内から俺へと注がれる殺気の篭った視線。
どうしてこうなった―――。
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