第1話 追放《クビ》
「おい、
「な?!」
そう呼ばれた俺――ロードは、この日突然パーティーのリーダーであり所属するクランの副マスターでもあるマザマージから
◇
「夢か……」
宿屋のベッドで飛び起きた俺は、二日酔いのせいでガンガンと殴られているかのような頭痛がする頭を抑え、ゲンナリとした。
かれこれ5年以上も真面目に勤めてきたパーティーを、クランをクビになる夢なんて最悪すぎて笑えねぇ。
部屋を出て井戸水で顔を洗い、痛みが落ち着いてきて回り始めた頭で今日の予定を思い出す。
「今日は確か、午後からS級ダンジョンの下見だったな。あれ、そういやぁなんで俺は酒なんか飲んだんだっけ……?」
俺は仕事に支障をきたさないよう、翌日が休息日の日にしか酒は飲まないことにしている。
万が一酒が抜けきっていないと、思わぬ危険な目に遭遇した時に死ぬ確率が上がっちまうってのもあるし、仲間に迷惑をかけて怒られるのも嫌だからな。
なんとか昨夜の記憶を思い出そうとするも、飲み過ぎたためか全く記憶にない。
「リーエンに聞きゃわかるか……」
そう思い、宿屋に併設された食堂兼酒場へと向かう。
リーエンは俺がいつも泊まっている宿、『竜の棲家』の店主であるおやっさんの一人娘であり、人気の看板娘だ。
見た目はぼろっちい宿屋だが、わりとリーズナブルな値段でありながら柔らかいベッドに寝れる上、出される飯はどれもうまいときた知る人ぞ知る隠れ家的な場所なんだよな。
「あれ、ロード? 随分と起きるの早いじゃん。どしたの?」
「何言ってんだ、今日はS級ダンジョンの下見だって言ってあったろ。それより、俺は昨夜酒をたらふく飲んだみてーなんだが、誰と飲んでたっけか? 全く思い出せなくてよ」
「はぁ? お父さんに絡みながら、何度止めても一人でガバガバ飲んでたんでしょーが」
「待て待て待て。俺が休息日の前以外は酒飲まねーこと知ってんだろ? ツマラねぇ嘘はやめて、教えろよ。綺麗な姉ちゃんでもいたんだろ? どこの誰だよ??」
俺の言葉にひどく哀れんだ目を向けてくるリーエン。
「あんた……。受け入れがたい現実だもん、仕方ないよ……。大丈夫、あたしはあんたの味方でいてあげるからね」
およよとわざとらしく泣いたフリをし、肩をポンポンと叩いてくる。
「お前、朝から酒でも飲んでんのか……?」
「な訳ないでしょ! はぁ?! あんたまじで覚えてないわけ!?」
「お、おおう……?」
困惑していると、はぁーと大きなため息をつかれた。
「いい? 今からあたしが言うことは、全部昨日あんたが自分で言っていたことよ。ヤケ酒してたし、たぶん事実だと思うわ。どうしても信じられなきゃ、後で確認にいきな。で、心の準備はできた?」
「……なんだ?」
「あんたはクラン『天翔』を
「……嘘だよな?」
「めんどくさい! さっさとギルドで確認して来い!」
リーエンに蹴り飛ばされて追い出された俺は、恐る恐るギルドへと顔を出した。
もし、もし万が一本当だった場合が怖いので、天翔の奴らがいないか確認しながら。
「あれ、ロードさん? どうされたんですか?」
挙動不審な俺を見て、首を傾げる馴染みの受付嬢――ミーナ。
「お、おう。あのよ、リーエンのやつが俺のことを『天翔』からクビにされたとか言うんだよ。冗談だよな……?」
「あはは、何を言ってるんですかロードさん」
面白そうに笑うミーナを見て、やはりリーエンの笑えない嘘だったと思いほっと胸を撫で下ろす。
「だ、だよなぁ。ったく、ツマラねぇ嘘つきやがって。リーエンめ、後でお仕置きしてやる」
「え? いえ、リーエンさんの言ってることは事実ですよ? ま、まさか昨日の今日で本当に忘れてたんですか……??」
「え……」
驚いた様子のミーナは、俺の反応から本当に覚えていないと悟ったのだろう。
とても申し訳なさそうに目を伏せながら、てっきり吹っ切れたのかと思いましたって謝ってきた。
「『天翔』からロードさんの脱退届けも提出されていますし、間違い無いです……。だ、大丈夫ですよ! ロードさんはとても優秀ですから、またすぐに良いクランが見つかりますって!」
必死で励ましてくれるミーナの言葉もあまり耳に入らず、いつの間にか自室に戻ってきていた俺はベッドで仰向けになりながらぼーっと昨日のことを思い出す。
事実を受け入れたためなのか、先ほどまで全くと言っていいほど思い出せなかった追放劇が少しずつ蘇ってきた。
◇
「なんで俺がクビなんだ?! ついこないだだって、普通にダンジョンに潜って帰って来たばっかじゃねーか!」
「なんでだぁ……? 言われなきゃわかんねーのか??」
「わかんねーよ!! わかるわけないだろ?!」
「じゃあ教えてやるから、しっかり聞けよ? テメェは何にも秀でていねぇよなぁ? 戦闘も斥候も中途半端なことしかできないくせに、あれもこれもと口出ししやがって。目障りなんだよ!!」
「それは他にできるやつがいないからだろ?! 俺は何度も言ってきたはずだよな? お前らは確かに火力に長けているが、それ以外を疎かにしすぎると。少しは役割を負担してくれれば、俺にももっとできる事が増えるって!」
「馬鹿かテメェは! 戦力として数えられねぇお前が、俺たちの代わりなんてできるわけねぇんだよ!! 今まで数々のダンジョンを踏破してこれたのだって、俺たちの火力があったからだろ?! なのになんでテメェの役割を俺たちが負担しなきゃならねぇんだ!! それとも何か? テメェは俺のように敵を一振りで斬れんのか? ヒリテスのように雑魚をまとめて片付けるだけの魔法が使えんのか? シルストナのように拳打1発で敵を沈められんのか? アリスのようにパーティーの強化をしたり回復したりできんのか? あぁ?!」
「それはできないが……。そもそも、俺の役割は本来斥候だ! いち早く敵を見つけ、注意を促し、急な敵襲を防ぐ。きちんとこなしてきたはずだよな?! にも関わらず、お前らが目についた魔物にいきなり攻撃を仕掛けたり、騒音を気にせず派手な魔法をぶっ放すから、要らぬ敵の注意まで引いちまう! それを咎めて何が悪い?! 遊撃だって、お前らが後先考えずに敵のど真ん中に突っ込むから、仕方なく注意を引いてるんだろ?!」
「そう言うのが目障りだっつってんだ! テメェに心配されなくてもなぁ、俺たちならなんら問題なく敵を片づけられんだよ! それを余計なチャチャ入れて悦に浸ってんのはテメェだろ?! 戦闘もサポートもどっちつかずの、血をすするしか能のねぇコウモリヤローが図に乗るんじゃねぇ!!」
「本気で言ってんのか……?」
「当たり前だろ。じゃなきゃクビなんて言うわけねぇだろうが。テメェよりも優秀な斥候はもう見つかってるし、『
◇
そうだ。
そうだった。
俺は間違いなく、あそこを
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